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星の見守り人 過去の章  作者: 井伊 澄洲
豊臣秀吉 編
37/93

第12話 ジパングの案内所

 案内所の説明の女性は気安かった。


「いらっしゃいませ!ジパングへようこそ!」

「わしはジパングは初めてなので、最初から説明して欲しいのだが・・・」

「はい、かしこまりました。

まず、ジパングは自由商業都市で主に貿易で成り立っている国です」

「貿易で?」

「はい、近くは武蔵の国や下総の国、そして尾張、京都、遠くは蝦夷、琉球、明、ルソン、ポルトガル、イスパニアとも交流がございます」

「ほう?そんなに遠くの国とも・・・」

「はい、そして市場で登録さえすれば、誰でも商いが可能です」

「ふむ、楽市や楽座のようなものかの?」

「そうですね。基本的に同じような物と考えていただいて結構です」

「なるほど」

「ただし、登録をして一定の規則、掟がありますので、それに反すると、登録は取り消されて商いを出来なくなりますのでご注意ください」

「それはどういった事かな?」

「いくつかありますが、特に罪が重くなるのは盗品販売、詐欺販売、お店同士の喧嘩、無許可の薬・毒物販売などですね」


話を聞いた限りでは、それは商売をする上で当たり前のような話だと籐吉郎は思ったが、聞きなれない言葉もあったので、それに関して質問をする。


「他のはだいたいわかるが、詐欺販売というのはどういった物かな?」

「それは明らかに嘘をついて物品を売った場合ですね。例えば鶏肉を牛肉と言って売ったり、混ぜ物をした金を純金だと偽って売ったり、それにその辺の水を霊験あらたかな聖なる水と言って売ったりすることです」


その言葉を聞いて籐吉郎はギクリとした。


「ほほう、では例えば尾張で買った物を、京で買ったと偽るのもかのう?」

「はい、もちろんそうです。例えば下総の国で作った櫛を京の都で作られたなどと言えばもちろん、詐欺販売となります」

「な、なるほど」


これは下手な事は出来ないなと籐吉郎は思った。

なぜならばその程度の事は籐吉郎としては日常茶飯事だったからだ。

(しかし、産地などという物や誰が作ったかなどという事はわかりはすまい)

そう考えた籐吉郎は密かにほくそえんでいた。

しかし、その籐吉郎に対してジパングの案内人は驚くべき事を話し始めた。


「もちろん、そのような訴えがあった場合、ジパングの市場査察部、つまり取調べを行う者が徹底的に調べ上げて、その結果、詐欺販売が判明した場合は、登録は取り消される事はもちろんの事、相応の罰を与えます」

「なにっ?しかし産地や作った物など調べようがあるまいに?」

「産地を言って販売するからには、どこでそれを入手したか調べればわかる事ですし、作品でしたら、その人物に問い合わせればわかる事です」

「何と!そこまでするのか?」

「ジパングの信用を守るためには当然の事です」

「しかし、ここから京や琉球なんぞ遠かろう、ましてやルソンなど・・・

そんな所にまで問い合わせをするのか?」

「ええ、もちろんです。

ジパングの調査部はいかなる場所へでも行って調べます。

そしてその結果、不正行為を行っていると判明すれば、その商人に容赦はしません」


その説明に藤吉郎は驚いていた。

(これは確かに厄介じゃのう)

籐吉郎は改めて熊五郎の言った口先三寸で誤魔化そうとすると、とんでもない目に遭うぞという忠告を思い出していた。


「もっとも大抵はそんな遠い所まで調査に行くまでもなく、すぐに詐欺が判明して逮捕される事になる事が多いですね」

「ほほう?それはなぜ?」

「詐欺をする方も、知識がない事が多いからです。

例えば琉球に行った事もないのに、琉球へ行って直接買付けた品などと言っても、実際に行ってないのならば話をすればすぐにわかります。

逆に取り調べるジパング側は過去の積み重ねによって豊富な知識がありますから、すぐに相手が嘘をついているのがわかります」

「なるほどのう・・・」

「それと特に罪が重くなる詐欺販売の一つにジパング贋作がありますね」

「ジパング贋作?」

「はい、ジパングの商品をまねたり、似せて作った物をジパングの商品として売る事です」

「それがいかんのか?」


有名な物があれば、それをまねて売るのは当然と考えていた藤吉郎には、それが不思議に思えた。


「はい、単にまねて作った物を売るのでしたら問題はありません。

しかしその品物をジパングの品として売る事は詐欺行為になるので、許すわけには参りません」


その説明で今度は藤吉郎にもある程度わかってきた。


「なるほど、つまり例えそっくりに作ってあっても、ジパングの品物でない物をジパングの物として売る事が詐欺に当たる訳じゃな?」

「その通りです。私どもジパングの商品はおかげさまで高品質と評判をいただいております。

そうすると粗悪な類似品を作ってジパング製と偽って売る輩が出てまいります。

そのような者には特に重い罰が待っております」

「どのような?」

「そうですね、もちろん物や販売の仕方によっても異なりますが、軽い方でも罰金刑、重ければ遠島流しとなります」

「ほほう・・・しかし罪が重くなるのはどういう場合かな?」

「それは悪質な詐欺の場合ですね。

単なる詐称ならともかく、ジパングでは人の心理につけこんだり、法の網の目を潜ろうとする行為などは、特に重く罰せられます」

「例えばどのような?」

「先ほどの例で言えば、ジパングの品物をまねてジパングの物だと売れば詐欺になると説明しましたよね?」

「うむ」

「それを追求された場合、「これは自分がジパングで作った品物だからジパングの品物だ」と言い抜けようとする人がいます」

「おお、なるほど」


それはいかにも籐吉郎も思いつきそうな言い訳だったし、それは理に適っているように思えたので、籐吉郎には何が悪いのかわからなかった。


「しかし、そのような言い逃れを許すわけには参りませんし、そのような場合のためにジパングでは「作と産の法」を取っております」

「サクトサンノホウ?」

「はい、作とは作品の事、誰が作ったのかを明確にする事です。

産とはどこで採れた物かを明確にする事で、このふたつを明確にする事で作者や産地を正確に表します」

「どういう事かな?」

「ジパングでは基本的に物を売る場合には、その品物のどこかに作者や屋号の名前を入れる事になっています。

名前が書けないほど小さな品物の場合は、その入れ物に、食べ物の場合は焼印を入れたり、やはり入れ物にですね。

ただし名前を入れる入れないは自由ですが、当然、虚偽の名前を入れる事はできません」

「なんと!そのような事を?」

「はい、その名前を「ジパング」と入れて良いのはジパング公認の物だけで、そうでない物は全て登録された自分の屋号の名前を入れる事になっております。

ジパングの物は、銘記がただ「ジパング」になっている場合もありますが、「ジパング作」となっている場合はジパングで公式に作られた物、「ジパング産」と書かれている場合は、ジパングが公式に産地である事を証明する物で、もちろんこれらジパングの名前を許可無く勝手に使えば重罪になります」

「むむむ・・・そこまでするのか」


そのあまりの徹底ぶりに藤吉郎は思わず唸ってしまっていた。

驚いている籐吉郎にさらに案内人は話を続ける。


「また、商品の贋作とは少々意味が違いますが、ジパングの貨幣の製造、改造は発見次第、即、極刑となります」

「何と!死刑か?」

「はい、貨幣の贋作や改造は一般商品とは訳が違いますから」


確かに国に流通する通貨を勝手に余所者が作るのならば、それは財政の破綻を意味する。

それに対して厳しい処分をするのは籐吉郎としても納得せざるを得なかった。


「確かにのう・・・」

「他に御質問はございますか?」

「そうじゃな、とりあえずそのジパング市場という物を見てみたいのだが、どちらへ行けばよいのだ?」

「それはこの渡し場を出ていただいて、広い道がありますから、そこをまっすぐ歩いて半里もあるけば錦糸掘となります。

そこを過ぎて、亀戸川という川を渡れば、そこから荒川までの間が全て、ジパング市場です。

是非御見学してお楽しみください。

また何か売る物があれば。店を開かなくともその商品を買う店もございますので、そちらも場合によっては御利用ください。

ただしあらかじめ御注意しておきますが、お客様の御希望の御値段で買われる事は、まずありませんので、その点はご了承ください」

「なぜじゃ?」


籐吉郎は熊五郎にその理由を聞いて知ってはいたが一応聞いてみた。


「それはジパングの品が他の国の品と比べて品質が良いからでございます。

例えば筆、紙、櫛、草鞋、着物、刃物、鍋など、どれをとっても残念ながら大抵はジパングの品の方が他国の物よりも品質が良い上に、値段も安い場合が多いので、必然的に他の質の劣る品は売値も相応になってしまいます。

また生き物や食べ物の買取もジパングの買取所では行っておりませんので、ご注意ください」

「そういった物は売り買いが出来ぬのか?」

「いえ、ジパングの買取所が買わないというだけで、他の店で買い取る場合もありますし、お客様が登録して店として売る場合は別に問題はございません」

「なるほどのう」


熊五郎の言った話とだいたい話は合っていたので、籐吉郎も納得する。


「また詳しい事はこの案内にもかいてございますし、現地に行けば、私よりも詳しい者がおりますので、わからない事があればそちらでまたお聞きください」


そう言って案内人がジパングの事を説明してある一枚の折りたたまれた紙を籐吉郎に渡す。

その紙一つを見ても、厚手で光沢があり、印刷も見た事がないほど立派な物だった。

その渡された案内に籐吉郎はざっと目を通してみたが、これ一つ取ってみても、素晴らしい出来だった。

細い墨字でこれから行くジパングの事が色々と書いてあり、入国の仕方や、ジパング市場での振舞い方などが丁寧に説明してある。


「ふむ、なるほど、なるほど・・・」


感心してみていた籐吉郎だったが、地図の中にある馬の絵と、それに伴う、黒い線のような物が気になって案内人に聞いてみる。


「この鉄道馬車と書いてあるのは何かな?」

「それは馬に荷車を引かせるような要領で人を乗せて運ぶ乗り物です。

線路という専用の鉄の道の上を動くので、乗り心地もよく、楽にジパング市場や、街の方まで移動する事が出来ます。

いささか御値段は張りますが、是非一度お試しください」

「なるほど」


色々と説明を聞いて納得した籐吉郎は、ともかくまずはそのジパング市場へと行ってみる気になった。

案内人に礼を述べると、外に出る。


そこには何やら馬がいて、その馬の後ろには、小さな屋根のついた家のような物をつけて止まっていた。

その小さな家には車輪がついていて、馬が引っ張るらしいと藤吉郎は理解した。

どうやらこれがたった今説明された鉄道馬車という物のようだ。

籐吉郎が感心してそれを見ていると、係員らしい人間が近寄ってきて、籐吉郎を勧誘する。


「いかがですか?市場まで六十財、ジパングの門まで八十財で楽に行けますよ。

もうすぐ出発します」


それは籐吉郎に払えない額ではなかったので、興味がてら乗ってみる事にしてみた。


「では、ジパング市場までよろしく頼む」

「はい、では六十財いただきます」

「六十財というと・・・」

「二十四文になりますね」

手馴れたように係員が日本の通貨に換算した額を答える。

「ふむ、少し負けてはもらえないか?」

「残念ながらそれは・・・」

「わかった」


ここであまりごねても意味がないと考えた籐吉郎が素直に二十四文を払って馬車に乗った。

馬車は六人乗りのようだったが、ほとんどの者が籐吉郎が案内所で話をしている間にすでに出た馬車に乗っていたのか、客は籐吉郎を含めて3人だった。

これ以上、客はいないと見て、馬車が出発する。


「それでは市場経由、ジパング行き、これより発車いたしまぁす」


馬は出発するとカッポカッポと歩き出すが、なるほど人間が歩くよりは早く、また乗り心地も気持ちいい。

籐吉郎は先に出ていたジパングに徒歩で向かう者たちを次々に追い越していくのが爽快だった。思わずその連中に藤吉郎は声をかけたくなってきた。


「やあやあ、皆の衆、テクテクと歩いて御苦労でござるのう」


得意げに追い越していく通行人にそう言うと、どっかりと馬車の椅子に座る。

椅子は柔らかく、座り心地も良かったので、藤吉郎は気分が非常に良くなってきた。

(なるほど、これは二十四文の価値はあったのう)

そんな事を考えながらしばらくが過ぎると、御者が案内をする。


「次はジパング市場~まもなくジパング市場に到着いたしまぁす」


ほどなく案内人に言われた亀戸川を渡ると、そこで馬車は一旦止まる。


「ジパング市場はここで降りれば良い訳じゃな?」

「その通りでございます」


藤吉郎の質問に御者が愛想よく答える。

他の客は全てジパングまで行くと見えて、ここで降りた客は籐吉郎のみだった。



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