第05話 輪ゴムとビー玉
「それは何かな?初めて聞くが、何の役に立つ物かな?」
藤吉郎の質問に対して、小山田が笑って答える。
「いえ、これは何の役にも立ちません」
「何と?何の役にも立たないと?」
今まで見せてもらったジパングの物が、どれもがあまりに優れた出来栄えだっただけに、藤吉郎はその言葉に耳を疑った。
「実際にお見せしましょう」
そう言うと、小山田が袋の中からゴソゴソと何かを取り出す。
「これが輪ゴムで、こちらがビー玉でございます」
輪ゴムと言われた物は、何やら茶色の丸い輪の紐のようであったが、どこにも繋ぎ目がないのが不思議だった。
ビー玉と言われた物はどうやらギヤマン(ガラス)で出来た玉のようであったが、これほど完璧な球形の玉は藤吉郎もそうそう見た事がなかった。
「ふむ、こちらのビーダマという物は、どうもギヤマンのようだが、そのワゴムというものは一体どういう物かな?繋ぎ目がないのも不思議だが・・・」
「おっしゃる通り、このビー玉は単なるギヤマン、もしくはビードロの玉の事で、ジパングではガラスと言うのですが、それで出来ている玉です。
ビードロ玉を略してビー玉という訳です。
これは子供の玩具でして、これこの通り、様々な色や模様があるので、単純に集めたり、転がしたりして遊ぶものです」
そう言うと、小山田は様々な色や模様のビー玉を藤吉郎に見せる。
それは透明な物や、赤、白、青、緑、黄色と様々な色や模様があった。
その玉は確かに藤吉郎が見ても美しく、宝石のようで、心躍る物があった。
「なるほど、ビードロ玉を略してビー玉か・・・
これは確かに子供だけではなく大人でもほしがりましょうな」
藤吉郎の言葉に小山田はうなずくと、次に輪ゴムの説明を始める。
「これはゴムの木という木がございましてな。
その木の汁と硫黄などを混ぜて作った物で、これこの通り、伸び縮みいたします」
そう言うと、小山田は輪ゴムをビヨンビヨンと指で伸ばして見せる。
「何と!そのような物が?」
「どうぞ御自分でやってみてください」
小山田から渡された輪ゴムを藤吉郎は手に取ると伸ばしてみる。
それは小山田がやって見せたようにビヨンビヨンと伸び縮みをする。
「むむむ・・・このような物が・・・」
初めて見るゴムに驚く藤吉郎に対して、小山田が説明を続ける。
「本来、これは物をまとめる道具でしてな。
筆をまとめたり、紙をこう、丸めておくための物なのです」
そう言いながら小山田は持っていた紙を丸めて、輪ゴムで止めて見せる。
「なるほど・・・」
「しかし、私はこれを本来の目的ではなく、子供の玩具として扱って商いをしておりましてね」
「これを子供の玩具として?一体どのように?」
確かにこの伸び縮みする輪ゴムという物は興味深いが、これをどうして子供の玩具にするのか藤吉郎にはわからなかった。
「まあ、他愛もない事ですが、このように使うのですよ」
そう言うと、小山田は輪ゴムを自分の指の爪に引っ掛けて、片方の手で伸ばすと、パチン!と弾いてみせる。
それは藤吉郎の手の甲に当たり、藤吉郎は叫び声をあげる。
「イタッ!」
「はっはっは、いかがです?」
「こ、これは・・・」
「あなたもやってみてごらんなさい。
ホラ、このように輪ゴムを爪に引っ掛けて・・・」
小山田の説明に藤吉郎も輪ゴムを引っ張り、飛ばして見せる。
それはパチン!と音をさせて飛ぶと、小山田の腹に当たる。
「はっはっは、どうです?中々面白いでしょう?」
「むむ・・・確かに・・」
単純だが面白い。
確かにこれは子供、特に男童が見たら、はしゃいで遊びまくるのは疑いないと、藤吉郎も思った。
「どれ、この輪ゴムも10本ほど差し上げましょう」
「これも?よろしいのか?」
「何、これも旅の縁というものです。
それに今のはほんの初歩のような物で、この輪ゴムというのは色々と使える範囲と応用が広うございましてな」
そう言うと、小山田はまたもや袋の中をゴソゴソと探り、何やら木で出来た細工物を2つ取り出す。
一つはY字型をした木の叉に輪ゴムをいくつか繋いだ物だった、
もう一つは、箸ほどの木の棒の先に、何やら木の円筒のような物がついていて、その円筒の穴を通して両側に長い箸の様な棒と、短い木の棒が輪ゴムで繋がれていた。
その2つの木工細工は、藤吉郎には全く何をする物かわからなかったので、小山田に聞いてみた。
「それは何ですかな?」
「こちらはゴム弓と申しましてな。
このようにここにドングリなどを番えて、このようにゴムを伸ばして、手を離すと・・・」
説明しながら小山田がドングリを番えて、伸ばした輪ゴムから手を離すと、ドングリは数メートル先まで飛んでいった。
「ほほう・・・」
感心する藤吉郎に、小山田がもう一つの木工細工の説明をする。
「そしてこちらはゴム車と申しましてな、こうしてゴムを巻いて、平らな地面や床に置くと・・・」
ゴムをクルクルと何回か巻いたゴム車を小山田が平らな地面に置くと、その車は、スルスルと動き出して数メートル先で止まる。
単純な物ではあるが、これはまた面白い。
「これは・・・!」
感心した藤吉郎に小山田が楽しそうに説明をする。
「いかがです?中々面白いでしょう?
まあ、この二つ以外にも色々と遊び方がございましてな。
そのために、この輪ゴムは小田原などの城下町に行くと、子供たちに飛ぶように売れまする」
「なるほど、なるほど」
これほど色々と応用が利く物ならば、それはもっともな事だと藤吉郎も思った。
ジパングはその高度な科学技術を門外不出の物として、科学技術自体だけでなく、材質や特殊な材料その物も、ジパング外への持ち出しを厳しく禁止していたが、ゴムは持ち出し許可物資だった。
それに伴い、ゴム動力は、数少ない、外に持っていける「人工動力」の一つだった。
これ以外にジパング外に許されている人工動力は発条、バネ、弾み車、錘だけだった。
これらの品は動きや作用としては人工動力の製品に近かったが、動力源は人力や家畜、重力だったので「半人工動力」とみなされて、外部への輸出も許可されていた。
半人工動力の品物は、人工動力の工作物を外部持ち出し禁止としているジパングで許可されている、数少ない人工動力工作物ではあったが、まだまだ日本を始めとした外の世界での知名度は無いに等しかった。
しかし、子供の玩具とはいえ、それを初めて見た藤吉郎は大いに驚き、感心した。
なるほど、ただの玩具でこれほどの物があるのであれば、魔術や妖術のような事が出来るという噂が出回るのも、うなずける事だった。
これほどの品々を大量に作り、あちこちに売れるほどあるとは、ジパングは想像通り、余程豊かな国なのであろうと藤吉郎は思った。




