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星の見守り人 過去の章  作者: 井伊 澄洲
徳川家康 編
24/93

第24話 ジパング攻略

 準備の整った徳川軍が、いよいよジパングを攻撃し始める。

最終的に徳川軍は日本中の大名に召集をかけるのを止めて、近隣の兵力を集めた五万ほどの人数で攻める事となった。

これは状況を理解した徳川上層部が兵力を集めても意味がないと判断したためである。

戦評定の過程で、もっと兵力を少なくする話もでていたのだが、例え通過儀式的な物であっても、ある程度の陣容は整えないと、後々幕府の沽券に関わると判断したためだった。

一方ジパング側では司令室の中で、国主のあいらが指揮を執り、総督の熊五郎がそれを補佐して徳川軍を迎撃する。


「徳川軍が攻めてきました」

「現在位置は正門前広場に集結しつつあります」

「では、睡眠灯点滅開始」

「はい、睡眠灯点滅開始!」

「睡眠灯点滅開始!」


あいらの命令によって、城壁の上部からいくつか大型の照明塔のような物がせり出してくる。

それは縦8列、横10列ほどの電灯で構成されていて、そのそれぞれの照明灯が、攻めて来る敵に向かって、奇妙な明滅を始める。


「なんじゃ、あれは?」


その不思議な物に、攻め手の大将である板倉勝重がいぶかしがっていた。

それは散々自分がジパングで見た電灯の一種であるとはわかったが、一体どういう働きをする物かはわからなかった。

あのような物で、こちらを照らして所で、何の意味があるのだろうか?

しかしそれを見ていた自分がクラクラとしてきて、周囲に居た点滅灯を見ていた者も一斉にその場でバタバタと倒れだす。

それを見て驚いた勝重が、慌てて部下たちに叫ぶ。


「いかん!見るな!あれを見てはいかん!ただまっしぐらに突き進むのじゃ」

「勝重殿、あれは何でござる?」


共に出撃していた正成が質問しても、もちろん勝重にもわからなかった。


「わからぬ!わからぬが・・・どうやら見てはいけない物らしい!」


混乱をきたし始めた先鋒隊に次の兵器が放射される。


「次、音波砲発振!」

「はっ!音波砲、発振!」


催眠灯の間に、今度は最初金属棒のような物が、いくつか下から突き出てくる。

それの一辺から扇子のようにススス・・・と、金属板が広がって一周をすると、パラボラアンテナ状の物が完成する。

それが壁の上で徳川軍に方向を向けると、そこからは非常に強力な音波が発射され始めていた。

それは人間の耳には聞き取れないが、低周波によって人間の肉体をガタガタにする効果があった。

その強い指向性のある強力な音波が徳川軍を襲う。

たちまち目をつぶっていた者も倒れ、その場でのた打ち回り始める。


「うぎゃー」

「あ、あがーーっ」


発振器が左右に首を振ると、目に見えない音波が徳川軍を舐めるように襲っていく。

後方にいて音波が届かず、状況がわからない勝重が理解に苦しむ。


「なんだ・・・!今度は一体なんだというのだ?」


状況が全く理解できない勝重たちに容赦なく、ジパングの次の兵器が襲い掛かる。


「次、睡眠ガス」


今度は壁の側面やコンクリートの広場からシャッ!と穴が開いて、無色無臭のガスが出始める。

その気体を吸った兵士達が、三度バタバタと倒れ始める。

そのガスは空気よりわずかに重く、ジパングの城壁と迎撃広場の外壁の空間に溜まり始めていた。


「これは・・・」

「勝重殿、おかしゅうござる、みな何もしないうちにバタバタと倒れていきまする」

「しまった、これは見えない毒煙か?」

「退け!無事な者は橋の向こう側まで退け!」


ついに慌てて引き上げ始める徳川軍。

しかし命令していた勝重はガスを吸いすぎたためにその場に倒れる。


「む・無念・・・」


全ての兵が倒れた後に城壁の扉が開くと、城の中の兵たちが出てくる。

城の兵たちはあわただしく倒れている徳川の兵たちを回収していく

荷車のような物に積まれた兵士たちが次々に街中へ収容されていく。


「回収人数、二千百十五名です」

「計画通り、地下収容所に収容」

「了解しました」


かろうじて催眠ガスから逃れた正成が、わずかな兵と共に、本陣に戻り報告をする。


「申し訳ありませぬ、大御所様、戦になりませなんだ」

「さようか」

「しかしこれほど戦にならぬとはな・・・」


覚悟はしていたものの、そのあまりにも圧倒的な差に、正信も肩を落とす。


「全くじゃ、あれだけ調べたというのに、まだあのような物まであったとはな」


勝成も驚くよりも、むしろ感心したように話す。

正信もうなずきながら話す。


「まあ、あんな物は、ジパングの防衛線のほんの一部でしかないのかも知れぬ。

 何しろまだ誰も掠り傷一つ負っていないのだからな。

 ジパングとしてはあんな物は説明する必要すらなかったのかも知れぬ。

 色々とありすぎて、レイカ殿たちも我々に説明しきれなかったのであろうよ」

「然り、防衛塔やあの巨大な戦船はおろか、まだ戦乙女すら出ておりませぬ。

 それどころか、ジパング側からはまだ一人の足軽すら出撃しておらぬというのに、我が軍は前衛がすでに総崩れという有様、しかもまだ半刻と経っていないというのに、この体たらくじゃ・・・

 面目しだいもございません」


正成がそう報告すると、正信が家康にいよいよ最後の判断を乞う。


「仕方がござりません。

 かくなる上はやはり予定通り、彼らの降伏条件を飲むしかないかと・・・」

「うむ」


家康がその言葉にうなずくと、そこで制止をする者があった。


「いや、お待ちくだされ!」


水野勝成だった。


「これであっさりと負けを認めてしまっては徳川軍の名折れ。

 せめて一矢報いるためにもわしが出る!」


そう言って戦支度をすると単騎でジパングの正門に向かうのだった。



 ジパング街壁の門の外、堀の橋を中ほどまで進み、跳ね橋の上がっている直前の場所まで一騎でやってきた勝成が、馬上にて大声で名乗りを上げる。


「やあ!やあ!遠からん者は音に聞け!近くば、寄って目にも見よ!

 若き頃より戦場に出る事、数十回、我こそは徳川軍にその人ありと言われた

 「鬼日向」水野勝成なり!

 ジパング軍に心ある者あらば、我と尋常に勝負しろ!」


その声にしずまり、誰も受けないであろうと思われた時に、跳ね橋の横の小さな戸が開き、中から一人の少女が出て来て凛とした声で応える。


「その勝負!受けました!」


少女は軽やかに幅十mはある堀を跳び越すと、勝成の前に進み出る。

その青と白の踊り子の様なヒラヒラとした服、見覚えのある少女の姿を見て、勝成も驚きの声を上げる。


「レイカ殿・・・!」

「一別以来ですね。勝成殿」

「そなたが勝負の相手とはな、因果な物よ」

「いえ、偶然ではありませんよ」

「何?」

「今回の寄せ手の大将が、単騎で来た勝成殿と伺って、お待ちしていたのです」

「なるほど、あの時の言葉通り、尋常に勝負、という訳か」

「はい」

「良かろう!相手にとって不足はない!・・・

 いや、失礼した、不足があるのは、そちらの方であったな」


もはやレイカの実力を侮る事も無くなった勝成が冷静に判断して話す。


「いいえ、私にとっても不足はありません」

「それは光栄だ。では正々堂々と勝負と行くか!」

「はい」


そう答えるレイカに対して勝成が馬から降りると、自分の刀をスラリと抜いてみせる。

構えた刀は水晶のように透けて輝き、周囲にキラキラと光を放つ。


「その刀は・・・」

「さよう、レイカ殿からいただいたアレナック刀でござる、その節は御世話になり申した」

「いいえ、お気になさらずに」

「僭越ながらこのアレナック刀、銘を「麗華」とつけさせていただいた」

「私の名を?」

「然り、感謝の意を込めて、貴殿の名を付けさせていただいて、その名に恥じぬような働きをしようと考えた所存」

「なるほど、それは私に取っても名誉な事です」

「しからずばこの「麗華」にて、本物の「レイカ」も討ち取って殿に見せる所存」

「勝成殿の御覚悟、私もお受けしました」

「ならば勝負!」

「はい、天王寺レイカ!推して参ります!」


勝成が真っ向からアレナック刀を振り下ろしてくると、レイカがそれを同じくアレナック刀で受ける。

燦然と輝くアレナック同士の打ち合いで二人が戦う。


「流石ですね」

「なんの!伊達にそなたに何回も打ち据えられておらぬわ」


勝成はジパングに居た間に何回もレイカと剣の勝負をして自分を鍛えていた。

ジパング史上でも、これほど戦乙女と稽古した人間はいないほどだった。

結局一回も勝つ事はかなわなかったが、それによってほんのわずかではあるが、レイカの太刀筋や癖のような物が見えるようになっていた。

その経験を生かし、数合打ち合う。

レイカの方も勝成に怪我をさせまいと案じているのか、剣先が鈍く、本来ならば一瞬で勝負がつく筈の物が、長引く結果となる。

しかし、さすがに烈戦乙女であるレイカ相手には、長くは持たず、遂に力尽き、勝成が刀をはじかれて落とす。

どうやら最初からレイカはこれを狙っていたようだった。


「ふっ・・・全く持って驚き・・・だわい」


そう言うと、全力以上の物を出し切った勝成が、満足そうに、その場でガックリと倒れる。

荒い息をしながら座り込んだ勝成が、そのまま自分の首を差し出すようにレイカに見せる。


「さ、このしわ首、遠慮なく持っていきなされ」


そう言って、自分の首筋をピタピタと片手で叩いてみせる勝成に、レイカが首を横に振って答える。


「いいえ、それには及びません。

 あなたは大御所様に、ひいてはこれからの徳川にとってまだ必要な方です。

 首を頂くわけには参りません」

「なるほど、しかし相手の首をとるは戦の習い、さ、一思いに」

「では、その首、私がいただいた事にいたしましょう。

 そして勝者として命令します。

 今後も徳川のために働きなさい。

 勝者が敗者に対して首を取る権利があるというのであれば、私は死よりもそれをあなたに求めます」

「やれやれ、相変わらず理路整然と正論を吐くお方じゃ」

「しかしここで犬死してしまっては、それこそ大御所様に対して忠義が立たないのではないですか?」


レイカの言葉に勝成は乾いたような笑いを漏らしながら答える。


「はっはっは・・・全く相変わらず可愛らしい顔をして、これじゃからな。

 手厳しいお方だわい。

 わかった、わかった!

 どの道、腕でも口でも、そなたには敵わないのはわかっておるのじゃ。

 そなたの言うとおり、この命、残った間は大御所様に忠義を尽くしますわい」

「ありがとうございます」

「いや、礼を言うのはこちらじゃ。

 わしは今まで忠義を通すのは相手の首を取るか、戦場で死ぬ事だと思っておったが、そなたたちと出会ってから、この年になって色々と考えさせられた。

 以前のわしなら、間違いなく今この場で腹を切っておっただろうよ」

「そのような事にならなくて良かったです」

「さてさて、それでは敗軍の将、いや、この場合は「勝ち戦の将」として戻りますわ。

 ジパングに「降伏」を申し込ませるためにのう」


そう言うと、勝成はニヤリと笑う。


「お気をつけて」


レイカも勝成に頭を下げて見送る。



徳川軍の内部は一兵卒にいたるまで慄然としていた。

勢いよく攻めに行った物の、先鋒の軍は悉く敗退してしまっていたのだ。

それに対してジパングの街はまったく以前と変わらずに沈黙しているのも不気味だった。

そこへ単騎勝負に出て行って、無事に生還してきた勝成は徳川軍に狂喜して迎えられた。

自軍に戻ると、そこで勝成は大声で叫んだ。


「ジパングには降伏の用意あり!この戦、我等の勝ちじゃ!」



江戸城では家康の前で重臣たちが軍儀を重ねていた。


「もはや和議、いや、ジパングの降伏の道しかなかろう」

「降伏か・・・あくまでジパングは自分たちが負けたという形を取るというのか」

「あの条件さえ飲めば、臣下の礼を取るというのだ。

それで満足しなければなるまい」

「そうじゃな」


徳川軍から和議の使者が出向いてジパングが「降伏」したのは、その次の日の事だった。

ジパングから正式に降伏の使者として来たあいらが家康に言った。


「これで無事、徳川が天下を統一できたという訳ですね」

「そうじゃな、あいらにも色々と迷惑をかけたが、今後ともよろしく願いたい」

「もったいない御言葉ですわ。

ところで家康様、かつてジパングが朝廷の同盟国だったという事は御存知ですか?」

「いや、知らぬな」

「実は桓武天皇の時代、一度ジパングは朝廷と同盟関係を結んでいたのですよ」

「なんと、そのような事があったとは・・・」

「ええ、当時ジパングの討伐にきた坂上田村麻呂将軍と和解し、同盟国となったのです。

 しかし南北朝の時代、二派に分かれてしまったため、しばらくの間、国交を断ち、こうして時代を待っていたのです。

 家康様がこの国を統一した以上、私たちは再び朝廷とも国交を回復し、新たなる同盟を築こうと考えております」


徳川軍はジパングの十二の降伏条件をすべて飲み、ここに徳川幕府は日本全国を統一した。

こうして世に言う「ジパングの役」は終わり、その後、日本は260年の安寧の時代を迎えるのだった。



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