第22話 ジパング旅館にて
すでに正信たち一行がジパングに来てから、三週間ほどが経っていた。
その間に様々なジパングの文化、軍備を見せられて、正信以外の三人は途方に暮れていた。
確かに敵の情報は驚くほど入手した。
その情報量は予想をはるかに上回るほどだった。
しかし新しい情報が入れば入るほど、それは絶望へと繋がっていった。
夜の旅館で一同は考え込んでいた。
「一体どうすれば良いのじゃ・・・」
「こんな場所をどう攻めれば良いのじゃ」
「兵力でも敵わぬ。
飛び道具を持ってもダメ、海戦など論外じゃ」
その言葉に無言になる一同。
「これは埋服の計しかないな」
勝重がポツリと言葉を漏らす。
「埋服?どうする気じゃ?」
「奴らは誰でも町の中に入れてしまう。
それならばまず攻める前に百人、いや千人ほどこの中に入れておく。
そしてこちらの攻め時に対応して門を開かせて攻撃を加えるのじゃ、さすれば・・・」
「どうやって門を開く?わしらはあの門の開き方も知らんのじゃぞ」
「それに戦乙女が、その間をのほほんとしているとでも思っているのか?」
「しかし千人もいれば・・・」
いかにも数で何とかなるだろうといわんばかりの勝重に正信が後を引き継ぐように言葉を添える。
「アッという間にやられるだろうな」
そのあまりにも納得する力を持った言葉に一同が、ふう・・・と肩を落とす。
しかし次の瞬間、勝成が自らを奮い立たせるかのように叫ぶ。
「ならば夜襲だ!夜陰に紛れて城壁を上り、中に侵入して・・・」
その提案に他の3人が、やれやれという感じで静かに反論をする。
「貴公、あの何も足がかりがない高い壁をどうやって登るつもりだ?
登っている間に夜が明けるぞ?」
「そもそも、中に入ったとて、手が出ない事は同じであろうよ」
「それ以前に夜は街の外が水没している事を忘れているのではないか?」
「ぬう・・・」
その事を言われれば、勝成も次の言葉は出て来ない。
しかし次の瞬間、ハタと思いついて再び作戦を口にする。
「ならば反間の計じゃ、
あの難攻不落と言われた小田原城ですら、あの太閤殿の策で落ちたではないか!」
二十数年前、難攻不落と言われた小田原城は豊臣秀吉によって落とされたが、それは武力によって落とされたのではなく、諜略やそれによる内部の裏切り行為によって落ちた事は広く知られていた。
「反間は良いとして、一体誰を誰に背かせれば良いのじゃ?」
「む・・・」
その正信の言葉に提案した勝成も再び押し黙る。
確かにこのジパングに来て以来、色々と探ったのだが、組織の構造という物がさっぱりわからなかった。
一応国主であるあいらの他に、ジパングの頂点に立つという「総督」と言われる葛西熊五郎なる人物にも会って話もした。
しかし、レイカの話に寄れば、例えその総督を倒しても、全くジパングを落とす事とは関係が無いという。
レイカによると、例え総督に何かがあったとしても、その瞬間に即座に副総督が後を継ぎ、またその副総督がいなくなっても、代行順位が細かく決められていて、決して指示に滞りは無いという。
しかも総督はあくまでこの街を治める代行者であって、いなくなれば、他の者が代行している間に、次の総督が本国から派遣されてくるという。
その事を説明されて、勝重たちは、一体ジパングの誰を倒せば良いのかすらわからなくなってしまっていた。
「では、どうすれば良いというのじゃ?」
勝成の誰にとも無くした質問に対して、正信が答える。
「だからわしは最初に言ったであろう。決してジパングには勝てぬ、とな。
やっとお主たちにも、その意味がわかってきたかな?」
行き所のない怒りに声を荒げる勝成だったが、正信に諭されて押し黙る。
「むう・・・」
その正信の言葉に他の者たちも納得せざるを得ない様子で考え込む。
「・・・しかし何とかしなければ・・・今頃、江戸では戦の準備をしているのだ。
帰って一体何と言うつもりだ」
「ぬう・・・」
一同がまたもや黙りこくって考え込んでいると正信がポツリと話し出す。
「いや・・・わしは例え百万の兵があっても無理だと思う。
大御所様も同じ御意見だ」
「なぜだ?正信」
「何回も言ったが、わしは以前、ここに数年住んでいた事がある。
その時に聞いたのだが・・・かつて戦乙女七人で城を一つ、半日いや、半刻ほどで落とした事があるそうだ」
「何?」
「その時は普段は使わない戦乙女専用の武器を使ったそうじゃ。
その武器は一撃で城を崩したという・・・」
「そんな物が・・・」
「なぜそれをもっと早く言わなかったのだ!」
なじる勝成の言葉に正信が反論する。
「言ってどうする?仮に言ったとして、貴公らはそれを信じたか?
そして信じたとしたらどうするのだ?
次はジパングは絶対無敵ゆえ勝てぬとでも言えというのか?」
確かにジパングに来る前にそのような事を説明されても三人は笑い飛ばすだけで終わったのは間違いのない所だった。
今こうしてジパングの現実を見て、初めてその話をホラ話ではないと確信できたのだった。
「ぬう・・・」
「それにあの戦船がある。
マナミ殿や、レイカ殿も説明していたであろう。
あの船の大砲は射程が十里以上もあるとな。
江戸湾や房総沖にいながらにして、悠々と江戸城を攻撃できるのだぞ?
あの船があれば、そもそも陸戦が必要あるまい?」
「むむむ・・・」
「しかもあの船はかなり旧式だとも言っておったな」
「では新しい物ならどこまで届くというのじゃ?」
「・・・・」
「そういえば・・・」
「なんじゃ、勝重?」
「昔、大御所様に聞いた事がある。
今は亡き太閤殿下がジパングを攻めた時、完全に周囲を囲んでいたにもかかわらず、
本拠地である大坂城を攻撃されたと」
「うむ、その話はわしも聞いた事がある。
その時は何の事かわからなかったが・・・
今にして思えば・・・」
「うむ、あの戦船を使ったのであろうな・・・」
「むう・・・」
「あの時、太閤殿が慌てて大坂に帰ったのは、そういう事だったのか・・・」
「そして今度は江戸城が狙われる訳か・・・」
あの砲撃で江戸城が狙われるかと思うと、誰もが生きた心地がしなくなるのだった。
「そしてあの戦天使か・・・」
誰もが口にせず、考えたくなかった言葉を正信が口に出す。
「あのような者がこの世にいるとは・・・」
「戦乙女数人でもどうすれば良いかわからないというのに、あのような者までいるとはな」
「むう・・・」
「そもそもあのような者の存在、例え報告をしても、誰も信じぬぞ?」
「確かにな、戦乙女ですらその存在を信じぬ者が多いのだ。
ましてやあのような者が存在するなど、まさに伝説か、おとぎ話でもなければ・・・」
「あの者の存在は我らが胸の内に収めておいた方が良いだろう」
「実際に見たわしらさえ信じられぬほどだ」
「そうだな、それが良い。
さもなければ我々全員の気が触れたと思われる。
逆に万が一にも信じられたら誰も戦など起こす気にはなるまい」
その言葉に再び全員が「ふう・・」と溜め息をつき、押し黙る。
沈黙の中、正信がポツリと話し始める。
「実はお主達には話そうか、話すまいか、迷った話があるのだが、話す事にしよう」
「なんじゃ?」
「わしは気になった事があったので、お主たちがおらぬ時に、レイカ殿に聞いてみた事がある」
「ふむ?」
「ジパングには戦天使、それも三大戦天使よりも強い者がいるのではないか?とな」
「何?」
「三大戦天使以上の者だと?」
「なぜ、そのような事を考えた?」
「わしなりに根拠があったからだ。
しかし、その問いにレイカ殿は「話す権限が無い」と答えられた。
いるともいないとも言えない、とな」
正信の話に勝重が驚く。
「話す権限が無い、じゃと?」
正成や勝成も、驚いて問いただす。
「しかし、それでは「いる」と言っているような物ではないか?」
「一体、それは何者なのだ?」
「お主らも知っての通り、わしはジパングで数年暮らした事がある。
その時にわしはジパングの歴史にも興味を持って、色々と書物を読んだのじゃ。
その時に読んだ書物の中にはジパングのごく初期の頃の話もあった。
我らの国で言えば、古事記や日本書紀のようなものだ」
「それで?」
「その中にいくつか戦乙女の話も出てくるが、なぜか戦乙女と表記されていないのに、明らかにそれ以上に強い者達が出てくる話がある。
その者たちは戦天使と表記されていて、数は極めて少ないが、戦乙女が束になってかかっても決して勝つ事も出来ないというような事も書かれていた」
「何?戦乙女が束になっても勝てぬ相手じゃと?」
「そ、それはまさに先日のリサ殿そのものではないか!」
その勝重と勝成の言葉にうなずいて話を続ける正信。
「わしも今まではそれは神話の世界の出来事で、戦乙女はともかく、そのような戦乙女が束になっても勝てぬ「戦天使」などという者は実際にはいるわけはない。
もちろん、そう考えておった。・・・しかし実際にそれはいた」
「・・・」
無言の一同に正信が話を続ける。
「しかし、リサ殿を見た時にわしは驚いたが、その話とはまだ繋がらなかった。
だがレイカ殿が、あの三大戦天使の話をした時に愕然としたのだ」
「そういえばあの時、お主は非常に驚いておったな」
「一体、何を考えて驚いたのだ?」
「実はその古いジパングの歴史書の中で、戦天使らしい者なのだが、それよりもはるかに上の存在として度々出てくる者がいる。
その名前が、エイト、マヤ、ジュンの3人だ」
「何?」
「それはあの「絶・戦天使」とやらの名前ではないか!」
「そうじゃ、だからわしは驚いたのじゃ。
しかもそれはすでに千年以上前の話だと言うのに、その三人はまだ生きているとレイカ殿は言った」
「た、確かにレイカ殿が、そう説明したのは、わしも聞いたぞ」
「わしもじゃ」
「うむ」
三人の反応にうなずきながら正信がさらに話を続ける。
「わしも最初は偶然の一致ではないかと考えた。
しかし戦乙女が束になっても敵わない者が、そうそういる訳は無い。
それに戦乙女は数百歳を超える者も少なくないという。
そこで、わしは気になって、失礼ながらレイカ殿とやよい殿の年齢を聞いてみた」
「何?一体いくつだったのじゃ?」
「レイカ殿が285歳で、やよい殿は158歳だそうじゃ」
「何じゃと!」
「それは真か?」
一同はレイカとやよいの二人の見た目が15・6歳にしか見えなかったので、それを疑うことすら考えずに、その見た目のままの年齢だと思い込んでいた。
それだけに、その正信の言葉には激しい衝撃を受けた。
「うむ、ちなみにリサ殿は詳しい事はレイカ殿にもわからないそうだが、少なくとも六百歳以下という事はないらしい。
事によれば、千歳以上のかも知れん」
正信の説明に勝成と勝重が驚きの声を上げる。
「ろ・ろっぴゃくサイじゃとう?」
「あのなりでか?」
リサはレイカたちよりさらに年下の12・3歳ほどにしか見えない。
それがレイカたちをはるかに超える年齢と聞いては驚きを禁じえない。
「そういえばあの時、リサ殿は我らの事を「坊や」と呼んでいたが・・・
あれは単に強者の立場からの言葉かと思うておったが、そのままの意味であったという事か・・・」
600歳以上の者から見れば、齢五十を超えた者すら「坊や」にしか見えないのは、確かに当然の事であろう。
その勝成の言葉に正信がうなずいて答える。
「さよう、じゃからリサ殿より上位である「絶・戦天使」の3人とやらが、千歳を超えていても不思議はなかろう?」
「むむ・・・」
正信の言葉に一同も納得せざるを得ない。
どうもジパングの人物たちは上位の者ほど、年長になる傾向がある。
それはもちろん日本でも同じなのだが、その年齢の開きにはジパングでは文字通り、桁違いの開きがあるようだった。
その事を考えれば、絶・戦天使と名乗る者達が、たとえ千才を超えていても不思議はなさそうだった。
「そして、そこでわしが思った事がある。
ジパングの歴史書の中で、その3人より、さらに上の存在で、ジパングの頂点に立ち、全てを束ねる者が二人おるのじゃ」
ジパングの頂点、絶・戦天使よりも上の存在と聞いて3人は息を飲む。
「・・・それは一体誰だ?」
「ジパングの創始者、天ノ川未来と、その正妻、天ノ川ミオだ」
「創始者とその妻?」
「それが・・・そんなに強いというのか?」
正成の質問に正信は本の内容を思い出すように語りだす。
「書物にはこう書いてあった。
かつて朝廷がジパングを1万の兵で討伐しようとした時に、天ノ川未来とその妻ミオは、身の丈、百丈の巨人となって、たった二人で1万の軍勢に立ち向かったという。
夫の方は紅蓮の炎を手の平から出して近隣の森林を焼き払い、巨大な雷をその軍勢に見舞った。
また妻の方は、光の矢で軍勢の三割近くを射抜き、近くの山を、片手に持った剣で割ったという・・・」
「ば、馬鹿馬鹿しい!それは神話であろう?」
「わしも昔はそう思っていた。
しかし今回の旅で、戦乙女以上の者、戦天使の存在を実際にこの眼で見て確認した。
そしてその中で最強の三人で「絶・戦天使」の、エイト、マヤ、ジュンは現実にまだ生きているという。
レイカ殿は間違いなくそう言った。
お主らは、レイカ殿が我らに嘘を言っていると思うか?」
正信の質問を三人は否定する事ができない。
「・・・おそらくそれはないな」
「ああ・・・レイカ殿や、やよい殿が我らに嘘をいうとは考えられないし、その必要もあるまい、」
「うむ・・・しかし、そうだとすると・・・」
「しかも他の武器はともかく、光の矢は我々も実際に見ている。
ならば他の武器、森林を焼きつくし、雷を1万の軍勢に落とし、山を片手で割る・・・
そのような事も実際にあったのだと思わないか?」
「むう・・・」
「レイカ殿よりも一階級上なだけの将・戦乙女であるなつき殿ですら、あの凄まじさだ。
そして、それよりも上の戦天使であるリサ殿のあの尋常でない強さ・・・
ならば、さらに遥かに上位の「絶・戦天使」はどれほど強い?・・・
そして、もし、それよりさらに強い者がいたとしたら?
一体どれほどの事が可能だと思う?」
全員、ジパングに来る前ならば、そのような話を聞いても一笑にふしたであろうが、ジパングに来てからという物、信じられない物を散々見てきただけに、正信の話を妄想だと言い切る事は出来なかった。
「そしてエイト、マヤ、ジュンは天ノ川未来の副妻、つまり側室のような者らしい。
もしその三人が生きているのならば、当然、天ノ川未来と、その正室であるミオも、
まだ生きていると考えるのが妥当ではないのか?」
「では、お主は・・・?」
「ああ、そうだ。
わしはジパング創始者である、天ノ川未来と、その正室ミオこそが、
ジパング最強の兵だと考えておる。
そしてその二人はまだ生きて、どこかにいると考えておる」
「確かに信じがたい話ではあるが、辻褄はあうな・・・」
「うむ、通常ならば、馬鹿馬鹿しくて話にもならぬ話だが、ジパングの今までの事を考えれば不思議ではない」
「しかし、仮に今の正信の話が真実だったとしても、わしらにはどうにもできん」
「ああ、しかもお主らには悪いが、書物によると、その時、天ノ川夫妻は、かなり手を抜いて戦っていたらしい」
その正信の言葉にも、全員がさほど驚く様子はない。
「一万の軍勢相手に二人でか・・・」
「・・・さもありなん」
正成の言葉に勝重もうなずく。
下位の戦天使のリサですら、百万以上の兵に匹敵すると説明されたのである。
そのはるか上のジパングを統率する者の強さなど、もはや想像する事すら不可能だった。
「いやはや・・・もはや何を聞いても我らは驚かぬわ」
勝成も、もはやどうでもよいというように、投げやり気味に答える。
「ああ、このジパングの地に来て以来、驚きすぎて、感覚が麻痺してしまったわ」
「そうじゃな」
「今の話は戦天使の事同様、わしらの胸だけにしまっておこう」
そう言って勝重が力なく笑うと、全員が同じように笑う。
ひとしきり笑うと、正成がポツリと話し始める。
「それにここへ来て思ったが、あの十二ヵ条・・・」
「うむ?例のジパングの降伏のか?」
「ああ、あれは、ジパングの要求というよりは、むしろわしらのための物、そういう気がしてきた」
「それは遺憾ながらわしも考えておった」
「そうじゃろう?ジパングの財が流通し、信頼できる屋号の店が全国に溢れる。
そして教育までもがジパングが幕府の代わりにしてくれるというのだ。
そんな相手と争って何になる?
老中たちにジパングと争うなと戒めるのも当然の事じゃ」
「むむむ・・・」
「確かに中には納得のいかん条件もあるが、ひょっとしたら、それも我らの理解が足りないだけなのかも知れぬ」
「その可能性は十分にあるのう・・・」
「わしらは仏陀の手のひらの上の猿で、ひょっとしたら、その事すら気づいてないのかも知れぬ」
「うむ、それはかつて、大御所様がわしに言った事がある」
正信の言葉に勝重が答える。
「確かにな・・・わしらは何かとんでもない勘違いをしているのかも知れぬ」
いかんともしがたい重い空気の中、正信が口を開く。
「どうやらお主たちも、わしの言いたかった事がわかってきてくれたようじゃな」
「正信・・・」
「どちらにしてもここに来てそろそろ1ヶ月近くになる。
今頃、安藤直次たちが戦の準備をしているであろう。
そろそろ帰って報告をせねばなるまい」
「しかし・・・どう報告するのだ?正信!
お主、ジパングにはどうやっても勝てぬ!とでも報告する気か?」
勝成の言葉に正信があっさりとうなずく。
「気は進まぬが、その通りだな」
あまりにもそのままの正信の返事に勝成が叫ぶ。
「馬鹿な!そのような報告をすれば、わしらの気が触れたと思われるわ!」
「ではどうするのだ?」
勝重の言葉に正信が答える。
「・・・まず大御所様にはその通りの報告をしよう「勝てぬ」とな。
大御所様はそれで納得するであろう」
「大御所様はそれでも良い。しかし他の連中にはどういうつもりだ?」
「ジパングの全てを見てきた。
我々は戦に勝つであろう、とだけ報告すればよい」
その正信の言葉に3人があっけに取られて呆然となる。
次の瞬間、勝重が詰問するように正信に向かって叫ぶ。
「正信!貴様、気は確かか?
あの連中にどうやって勝とうというのだ?」
「忘れたか、勝重?
彼らジパングは元々「降伏」を望んでいるのだぞ?」
「あっ・・・」
その正信の言葉に思わず言葉を失う勝重。
「そうか・・・つまりわしらは、あのジパングの十二の条件を全て飲んで「勝つ」のだな」
「そう、「勝つ」のは我々なのだ」
「それしか我々には道がない訳か・・・」
「しかもあの条件は、いまや我々のためのような条件だと分かっているわけだ」
勝つと分かっている戦にも関わらず、まるで負け戦としか思えないような気持ちで、沈んで答える正成。
その正成にに勝重も同意する。
「大御所様や正信は最初からこの事をわかっていた訳か・・・」
一同は今やまるで大人と子供、いやまさに仏の手の平の上で踊らされていたような自分たちに気づく。
それは、もはや愕然とするのを通り越して、無気力にさえなってしまっている感があった。
思えば江戸を発つ時の、あの意気高揚とした感覚が何と懐かしく、また愚かしく感じる事か・・・今にして思えば、あの時の正信の気持ちがよくわかる。
自分たちは喧嘩相手が、どのような者かも知らずに勝つ気になり、はしゃいでいる子供のように見えたであろう事を・・・
「ふっ、最初から「勝つ」戦か・・・
このような奇妙な戦、二度と経験する事はあるまいな」
その勝成の言葉に無言でうなずきながら正信が一同を励ますように声をかける。
「さあ、明日は帰ろう!大御所様や皆が待っておるぞ!」
「うむ、そうじゃな」
正信の言葉に励まされるように一同は立ち上がると、お互いの顔を見てうなずくのだった。




