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星の見守り人 過去の章  作者: 井伊 澄洲
徳川家康 編
21/93

第21話 戦乙女を超える者

 その突然の人物の登場にレイカとやよい、それになつきも驚く。


「リサ様?」

「あなたは!」

「どうしてここへ?」


驚く三人に対して、状況を飲み込めない正信たちはキョトンとしている。

そのリサと呼ばれた女性、それは少女といっても良い位の見た目だった。

レイカたちが着ている戦装束と似たような着物を着ているが、こちらはほとんど全身真っ黒で、少々赤や桃色の部分がある。

それ以外に違いといえば、レイカとやよいが首の輪が赤なのに対して、この少女の輪の色は緑だった。

その手には体に似合わぬ巨大な三叉の槍を持っているのが、恐ろしく不似合いだった。

しかもその槍の先は鉄色でも透明でもなく、紅い半透明な色を妖しく放っている。

しかしその少女、リサは自分の持っている巨大な槍を軽々と持ち返ると言った。


「久しぶりにジパングに戻ってみたら、徳川方の間者が来ていると聞いたので、寄ってみたのよ。

 そちらがそうなのかしらぁ?」


リサの質問にレイカが臣下の礼を取るように、頭を下げながら答える。


「はい、こちらは本多正信様を初めとする、徳川の重臣の方々です」

「そう?ではちょっと私も遊んでいただこうかしら?」

「それは・・・リサ様・・・」


不安げなレイカにリサが微笑みながら説明する。


「大丈夫よ。ちゃんと上の許可はいただいているわ。

 ・・・というか、上の指示でここへきたのよ。

 だから「計画」を乱すような事はしないから安心してちょうだい」


そのリサの言葉にホッと安心するレイカとやよい。


「そうですか・・・」


安心する三人に正信が声をかける。


「レイカ殿、失礼だが、そちらの女性はどなたでござろうか?

 出きれば紹介していただきたいのだが・・・」


三人の会話からその少女が只者ではないと察した正信だったが、その正信の申し出に、いつもハキハキとしているレイカが困ったように口ごもる。


「こちらは・・・その・・・」


説明に困るレイカにリサが助け舟を出す。


「大丈夫よぉ?

 そちらの方の許可もいただいているからぁ。

 十二戦天使の事までは話しても大丈夫よぉ」


その言葉にレイカが覚悟を決めたように正信たちに対して説明を始める。


「そうですか、皆様、こちらの方は戦天使いくさてんしのリサ様で、十二戦天使の御一人です」


レイカの説明に正信が仰天する。


「何っ?戦天使のリサ様じゃと!

 まさか・・・!」


愕然とする正信と違い、他の者たちは意味がわからずに色々と尋ねる。


「イクサテンシ?それは戦乙女の一種なのか?」

「テンシとは何であろうか?」


一同の疑問にレイカが一つ一つ答えていく。


戦天使いくさてんしとは戦乙女いくさおとめよりも遥かに上の力を持つ戦の専門家の名称です。

 数は全員でも70人前後ですが、その戦力は戦乙女の比ではありません。

 こちらのリサ様は、その戦天使の中でも最強の十二人と言われている、十二戦天使と言われる方の御一人です」


レイカの説明に徳川軍の面々が一様に驚く。


「何と?そのような者が?」

「しかし、戦乙女はともかく、戦天使などという者の名は聞いた事がないぞ?」


勝重がレイカの説明に驚いてたずねる。


「ええ、普段はそれこそよほどの事がない限り、人前に出て名乗ったりはいたしません。

 そして我々、戦乙女でも会う事は滅多にございません。

 戦天使の方々が表に出てくるのは、よほどの場合だけです。

 ですから皆様がリサ様の名前も「戦天使」という名称も聞いた事がないのは当然です。

 この御方達はジパングの組織には組み込まれず、ある程度、独自の判断で、事象に介入する事が許されています」


そのレイカの説明にリサが嬉しそうに説明を加える。


「そう、今回はぁ、徳川幕府の間諜の方々が見えているというのでぇ、

 面白そうだから、ちょっと挨拶に伺ったのよぉ」


そう答えるリサは、なつきは無論のこと、むしろレイカや、やよいよりも年令が下にさえ見える。

どう控えめに見ても、十代前半の少女である。

とても戦乙女たる者よりも強者とは思えないと考えた勝重が質問する。


「では、当然、戦乙女であるレイカ殿や、やよい殿はおろか、将戦乙女である、なつき殿よりも強いと?」


その勝重の質問に恐れ入るように答えるレイカ。


「私たちなど、比較にもなりません」

「何と?」

「それほどまでに・・・」

「わかりやすく説明しましょう。

 私たち戦乙女は兵百人を相手に勝てるという事は、もう、おわかりですね?」

「うむ」


レイカの言葉に一同は全員うなずいた。

この数日間、特に今日の演習を実際にやってみて、どうやっても自分達では束になっても戦乙女には勝てなかった。

上級戦乙女たるレイカはもちろんのこと、並の戦乙女である、やよいにも勝てないのは、すでに勝成ですら認める事だった。


「その私たち烈・戦乙女が数十人がかり、いえおそらくは、百人でも勝てないのが、戦天使様です」


その悪い冗談としか思えない説明に徳川一同が愕然となる。


「なっ!レイカ殿が百人がかりでも?」

「ええ、勝てません」


真顔で答えるレイカに対して、隣からクスッと笑い声が漏れ、声がする。


「実際にやってみましょうかぁ?」


そのリサの言葉に全員が怖気づく。

何しろ戦乙女たるレイカややよいにですら全く歯が立たなかったのだ。

それがその百倍以上も強いと説明された者に勝てる道理などなかった。

だが、その沈黙を破ったのは正信だった。


「それはありがたい、一手所望いたす」

「正信・・・」

「お主・・・」


その余りに無謀とも言える正信の言葉に、半ばあきれたように勝重と正成が声を出す。


「もちろん、わしも勝てるなどと思ってはおらぬ。

 わしはジパングの書物で戦天使という存在は知っていたが、それはジパングの神話で、実際には存在しない物と思っておった。

 しかしそれが本当にいると知って驚いておる。

 しかも今聞いた事によれば、その戦天使殿はまず人前に姿を現さぬという。

 ならばこの機会を逃したら一生その力を見る事を敵わぬではないか?

 そもそも我々は一体ここへ何をしに来たと思っているのだ?」


その正信の言葉にハッと気づいたように他の者達が反応する。


「そうじゃった・・・」

「勝ち負けなどにこだわっている場合などではなかった」

「わしらはジパングの軍備の全てを調べ上げなければならないのだった」


一旦そう覚悟すると、徳川家臣一同に本来の武士の魂が蘇り、どんな挙動も逃すまいと睨み付けるようにリサを見つめる。

その顔つきを見てにんまりとするリサ。

全身が快感を貫くかのように体を震わせる。


「いいわぁ~、ボウヤ達のその目!その覚悟!ぞくぞくするわぁ~。

 ちょうどそこの場所が空いているからさっそくそこで御手合わせしましょう」


そういうと横の空き地を、持っている三叉の槍で差す。


「本気の方々にこの格好で失礼ねぇ・・・

 ではこちらも・・・」


リサがそう言うと、その格好が変化する。

その様子を見て、正信たちが驚く。


「おお?」

「これは?」


驚く正信たちにレイカが説明をする。


「戦天使の方々でも何人かは、自分の戦装束を自由に変えられると聞いております。

 特に十二戦天使の方々は、その時に応じて戦闘装束を変えると聞き及んでいます。

 あの姿はおそらくリサ様の戦闘する場合の正装なのでしょう」


「そうよぉ、この子達の覚悟に敬意を払ってねぇ」

「なんと!」

「では、始めましょうか?どこからでもよろしいわよぉ、

 もちろん全員でかかってきてね」

「承知した」


そのリサの言葉と共に、徳川勢がお互いに目で合図を送ると、先手必勝とばかりに文字通り全員が躍り出す。

が、しかし剣を振るった場所にリサはおらず、空を切るばかりだった。

危うく同士討ちをする所だった四人は驚き、周囲を見渡す。


「バカな?」

「消えた?」

「一体どこへ?」


一同が驚いていると、リサが声を後ろからかける。


「ここよぉ」

「なっ?」

「いつのまに後ろへ?」


驚く勝重たちにクスクスと笑いながら声をかけるリサ。


「いつでもよぉ」


そういうと再び一同の眼前で消えて姿が見えなくなる。


「なっ?」

「また後ろか?」


反射的に一同が後ろを向くが、そこにリサの姿はない。


「残念でしたぁ、私はこっちよぉ」


今度はリサの声が上から聞こえる。

音速に近い速さで動くリサにとって、このような動きは朝飯前であったが、その動きについていけない正信たちは翻弄され、動きようも無い。


「何と?」


散々四人はリサを追い詰めようとしたが、結局は一回も掠る事すら出来ず、走り回り、剣を無駄に振るうだけで、ついに力果ててその場に全員倒れてしまった。


「さあ、今度はもう少し違う戦いを見ていただこうかしらぁ?

あなたたち、かかってらっしゃい」


そう言って、くいっくいっと、指をレイカたちに向ける。

その言葉にレイカとやよい、なつきの三人が返事をする。


「「「はい」」」


三人は答えると同時に即座に、リサに対して攻撃を始める。

レイカはアレナックの剣、やよいは特殊軽合金の槍を持って戦うが、二人がかりでもリサは余裕で対応しているのがわかる。そしてなつきは光の矢を番え、リサを狙い打つ。


「おお、これは・・」


その四人の凄まじい戦いぶりに目を見張る正信たち。

先ほどまで、剣はおろか、矢でも鉄砲でも倒せなかった戦乙女たる二人が、全力で攻撃しているように見えても、リサはまだ余裕綽々なのが見て取れる。

そしてリサは、その二人の攻撃を相手にしながらも、さらに余裕でなつきの遠距離攻撃も避けていく。


「さ、それじゃそろそろ本気でいらっしゃい」

「はい」


その言葉を合図に、突然攻撃の早さが増すレイカとやよい。

そのあまりの速度を見て驚く正信たち。

そしてなつきは今や先ほどとは比較にならず、1秒に五発どころか、十発の勢いで光の矢を放ち、その指の動きは、余りにも早く、すでに正信たちには見えなかった。

光の矢が豪雨のごとく、あちこちに注ぎかけられるが、それが何かに当たった様子は無い。

その光の全てが空のかなたに飛んでいくのが見えるだけであった。


「な、何だこれは・・」


正信たちはほとんど何をしているのかがわからなくなり、呆然とその場に立ち尽くす。

そう言っている間にもますます戦いの速さは早くなり、ついにはリサの姿がかすんで見えなくなる。

なつきも移動して矢を打ち始め、その移動速度のためにリサ同様に体がかすみ始め、光の矢だけが、どこからか撃たれているのがわかるのみとなる。

「これは一体?」


かろうじてレイカとやよいの姿はまだ見えるが、すでにリサの姿は完全に見えなくなり、

必死にレイカとやよいの戦っている姿のみが、誰かと戦っている事を物語っていた。


「これが戦乙女と戦天使の戦い・・・」

「こんな戦いが・・・あるのか・・?」


呆然とその戦いを見つめる、いや、今や一方が消えてしまい、見つめる事すら不可能になった戦いに、ただただ驚く正信たち。


「では、そろそろ終わりにするわよぉ」


空中のどこからか、リサの言葉が聞こえると、次の瞬間にレイカとやよいが何者かに突き飛ばされる。


「きゃっ!」

「ああっ!」


最後になつきも倒されると、かすんで見えていたその姿を現す。


「ううっ」


今、正信たちの目の前には自分達の相手をした時は、あれほど無敵を誇ったレイカとやよいが見るも無残な姿で横たわっている。

そして彼女たちよりも実力は上とされている、なつきさえも空しく地面に転がっているのだ。

呆然としている一同の前にリサがスッと、姿を現すと、ニッコリと微笑みながら話しかける。


「いかがかしらぁ?間諜の参考にはなったかしらぁ?」


その様子はせいぜい余興をやってみた程度の感覚で、まだ全く本気で動いていなかった事がうかがい知れる。

リサの言葉に対して、まさに一同は返す葉もなかったが、ようやくの事で、正信が礼を述べる。


「戦天使リサ殿のお力、この目でしかと見せていただいた、御助力かたじけない」


その言葉を聞くと、リサは再びニッコリと微笑みながら答える。


「今日は中々楽しかったわぁ。

 じゃあねぇ~ん」


そう言うとリサは去っていった。


リサが去った後でも一同はしばらくの間、呆然として言葉も無かった。

そして倒された三人が立ち上がり、自分たちに負傷がないか確認をする。

三人が無事な事がわかり、ようやくの事で、勝成がレイカに質問をする。


「レイカ殿、今のリサ殿は、強さとしてはジパングの中ではどれくらいなのだ?」

「私も詳しくは知りませんが、リサ様は十二戦天使の中では、下から2・3番目位の強さで、位階は十位と聞いております」

「十位?その十二戦天使とやらの中でか?」

「はい、そうです」

「・・・あれより強い者が、まだそんなにいると言うのか・・・」

「信じられぬな・・・」

「然り、上には上がいるとはよくいったものだ・・・」


その正成の言葉にレイカとやよいがさらに説明を加える。


「ええ、私も実際にリサ様と戦ったのは今日が初めてですが、お話どおりというか、それ以上の強さでした。

 あれでは私が百人どころか、三百人いても勝てないでしょう。

 単純に兵力として考えるなら、おそらくあの方御一人で百万人、いえ、おそらくそれ以上に匹敵するでしょう」

「しかもお解りかと思いますが、あれでまだ全力の一割も出していなかったんですよ」


その二人の説明に一同が再び無言となる。

シン・・としたその場で、覚悟を決めたように、正信がレイカに質問をする。


「では、その戦天使とやらの中で、一位の者は、一体どれほどの強さだと言うのだ?」


その正信の質問に少々戸惑ったように見えたが、レイカが答え始める。


「・・・エイト様は・・・」

「エイト様?」

「はい、銀河戦天使第1位のエイト様は、2位のマヤ様、3位のジュン様と共に・・・」


そこまでレイカが話すと、正信が驚いて叫ぶ。


「何?エイト、マヤ、ジュンじゃと!」

「はい、そうです」


ごく自然に肯定するレイカに対して、正信は震えるような声で再度たずねる。


「その三人は・・・本当に実在するのか?・・・

 現在でも・・・まだ生きて・・・存命なのか?」

「はい、今現在の所在はどこか、それは私にもわかりません。

 ですが、間違いなく存在しておられます」

「むう・・・」


レイカの答えに呆然として、押し黙る正信に、勝重と正成が問いかける。


「どうしたのじゃ?正信?」

「何か気になる事でもあったのか?」

「いや、何でもない・・・話を中断させて申し訳なかった。

 レイカ殿、話を続けてくだされ」

「はい、その御三方は三大戦天使とも言われ、十二戦天使の中でも、その御三方は「絶・戦天使」として別格扱いとされています」

「ぜつ・いくさてんし?」

「はい、想像を絶した強さという意味らしいです」


レイカの説明に勝成があきれたように答える。


「想像を絶した?あのリサ殿でも、いやレイカ殿たちですら、我々の想像を絶しているのだぞ?

 それ以上となると・・・」

「想像を絶するどころか、そもそも想像がつかぬわ」

「それにしても恐ろしい事だわい」

「はい、私たちもお会いした事はありませんが、その御三方はどの方でも、五位以下の方々を8人全員相手にしても、御一人で勝てるそうです」

「何?あのリサ殿をか?」

「リサ様を含めた8人です」


レイカの説明に唖然とした勝重がようやく言葉を出す。


「・・・もはや、想像も理解も出来ぬな・・・」


その勝重の言葉に勝成と正成も同意する。


「ああ・・・」

「そうじゃな・・」


しかし、レイカの話を聞いた正信は、その後、無言のままだった。



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