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第二章 瓦解の残響(2)
起きた時は、俺の住むアパートだった。台所には食事を作る母がいた。玉ねぎを切っているような音がする。
「うなされていたけど大丈夫?」
「だ、大丈夫に決まってるだろ!?」
声がうわずってしまった。
最近は母と話す機会がめっきり減ってしまったため、こんな感じになる時が多い。
料理を作る母。包丁とまな板がぶつかる音。寝っ転がっている俺。いつも通りの空間。いつも通りの、他愛もない空間だ。
あの冷たいコンクリートも、見知らぬ文字も存在しない。帰るべき空間。
今日の夕食はビーフシチューだった。よく下味の付いた牛肉、ほくほくのじゃがいも、よく煮られた人参。変わらぬ母の味。温かいと感じるのは、単によく煮込んだからだけではないだろう。
心なしか、母が微笑んでいる気がする。もしかしたら、いつもそんな表情をして見守っていたのかもしれない。こそばゆいような、曖昧な感覚だ。
宿題をして、テレビを見て、布団に入る。幸せを感じながら眠りに落ちた。まぁ、それは全くの嘘なんだけど。
すみません。