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スナック菓子で契約が成立する究極の世界。  作者: 環蝸
第三章 従順で善良で悪逆な市民
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従順で善良で悪逆な市民(2)

 何故だ!?

僕は考えた。何故、スナック菓子(棒状)がこんなにも減ってしまったのか。ネラさんに盗まれたのか? 確かに寝てしまったが、懐に入れていたのでボロボロになりはしても、盗むために懐に手を入れられれば流石に起きるだろう。思い出せ......。

(ネラさん......柔らかい)

 て、そこじゃねぇ。

 それは後でいくらでも思い出したいが、多分そこじゃねぇ。

(こら、男の子なんだから、ちゃんと自分の口でお願いしなさい)

(ネラさん......膝枕してください)

(うふ(はーと)。10分だけよ)

 ここだ。

 ネラさんは膝枕をしてくださいと言わせる事''''契約''''を成立させたんだ。

 自分の意思ではない'''''契約'''''は結べない。薬や拷問等で発言をさせても''''契約''''は結べないんだ。でも、僕は自分の意思を以て、自分の言葉を以てして発言をした。ーー故に、膝枕10分という契約が結ばれたのだ。あれは薬の力ではない。

「はぁ」

 とりあえず様子見、という悠長な事は言ってられなくなってしまった。

「仕事を探そう」


 この国に高校生でも働けるような環境があるかどうかは分からないが、それでも探すしかないだろう。生死がかかっている。

「おはようございます」

 階段を降りた俺は、カウンターの向こうのビアンカさんに挨拶をした。

「おはようございます、平人へいとさん」

 そう、俺の名前は平人へいと。どんな境遇でも人並みに、平凡に生きてほしいという気持ちで付けた名前らしい。そんな事を言ったって、ヘイトーー嫌いを連想するじゃないか。

 中学生の時には、ヘイトの意味を知ってしまったが故に、名前を呼ばれる度に嫌い、嫌いと呼ばれているみたいで嫌だった。一回一回が鉄球に打たれるみたいに重たかった。名前を呼ばれないようにするため、苗字で呼んでもらうように誘導したけど、途中から苗字も嫌だったから「厭世の法皇」と名乗りまくっていた黒歴史もある......。

 もう、名前を呼ばれるのも、最近は慣れたものだけど。

「疲れているようですけれど、よく眠れませんでしたか?」

「......いえ、ぐっすりでしたけど疲れました」

「?」

 まぁ、そら分からないよな。

「あの、ここでもう一泊したいんですけど、可能ですか?」

「えと、少し待ってくださいね……はい、お部屋は空いてるので可能です。同じ部屋でよろしいですか?」

「はい、お願いします」

 また同じ部屋に泊まる事にした。またネラさんに会っても、次は断れば良い。

「ビアンカさん」

「はい、何でしょうか。お料理をご注文ですか?」

「いえ、そうではなくて……......ごめんなさい」

 まただ。

 言いづらい事が、うまく喋れない。

 意味もなく謝ってしまった。

 顔見知りなので酷く取り乱す事はないが、うまく喋れる訳じゃない。

 それは酷く滑稽ーー俺が拉致される前、あの金髪の少女に言われた言葉を思い出した。そう、とても滑稽だ。

「いいんですよ。ゆっくり話してください」

 ビアンカさんは昨日、滅茶苦茶取り乱した俺を見ているからか優しく促してくれている。今の俺には、聖母のように感じる。

「すみません、うまく話せない時があって……」

「構いませんよ。ナンパ以外のお話なら、聞きますから」

「はは、ビアンカさんにナンパを仕掛ける勇気なんてないですよ」

 冗談を言ってくれて和ませようとしてくれている。とてもありがたい。ただの従業員と客の関係なのに。

「実は、宿泊費を払ったらもうスナック菓子がないんです。仕事を紹介していただく場所はありませんか?」

「あぁ、それなら私が依頼したいです」

「そうですか。そうですよね......無......て、あるんですか!?」

 ビアンカさんて仕事くれるの!? 仲介してくれるの!?

「ありますけど……あぁ、そうですよね。この国ではスナック菓子で契約が成立してしまうため、個人間での契約に制限が無いんですよ」

 そう言う事らしい。

 なんたる僥倖。

「楽ですよ。他の国ではショウヒゼイっていう制度があるんでしょう? 人と人が物とお金の物々交換しているだけなのに国にお金を払うというのは理解し難いです? しかも、この国でならスナック菓子で契約が成立してしまうため、騙されてしまう事も稀です。気軽に契約が出来るため便利屋、よろず屋商売も盛んですし、契約したい事を登録する場所もあります」

 そうだったんだ......。早く相談しておけばよかった。日本ではそう簡単に職には就けないし......。この国ではスキルがあれば稼げるという事か。まぁ、稼ぐ物はうまい棒なのだけど。

「こほん。ではでは、契約内容の説明をしちゃいますね」

 そう前置きをしつつ、ビアンカさんは契約内容を僕に提示した。


 内容をまとめるとこういう事らしい。


 出発は明日の10時頃。

 ビアンカさんへ同行し、とある洞窟へ。

 目的は萌葱色の鉱石──萌葱鉱石そのままを渡された袋いっぱいに詰めてくる事。大きさは10cm四方以上の物。

 ※なお、洞窟には小動物を除いて生物は住み着いていない。


「自分で行きたいんですけどね。私、暗いところがダメなんです......」

 いかにも可憐なビアンカさんらしい。

「鉱石なんて、そんなに簡単に落ちている物なんですか?」

「えぇ、とても綺麗なんですけど、とても脆いんです。劣化もしやすいのでカットしても数日で壊れてしまうんですよ......」

「へぇ、それなら宝石としての価値がありそうですけどね」

「見える所に飾っているだけでも壊れてしまうので、宝石として購入するならその辺の石ころを加工する方が価値がありますよ。そもそもこの国では人の命以外は全てがほぼ等価値。宝石も石ころも全てがスナック菓子で交換が可能なので、あまり宝石の価値に意味はありません。基本的に輸出入も禁止されていますし」

「そうなんですね......」

 あまり文化とか社会とか、法律とかに詳しくないので何も言えないが、まぁ、輸出入を許してしまったらいけない理由があるんだろう。

「ちなみに、何でビアンカさんはその鉱石がほしいんですか?」

「そうなんですよ! 私、最近彫刻にはまっているんです。小さくてかわいい物を掘りたいんですけど、他の石や木だと簡単には削れないんですよね......。萌葱鉱石なら純度も高いし、劣化するまでは針で削るのにちょうどいい固さなんです!」

 僕が質問をすると、ビアンカさんは嬉々として語ってくれた。楽しそう。

「そうなんですね。がんばって取ってきます」

 ビアンカさん......ありがとう。

 思えばこの国に拉致されてから日が浅いが、ビアンカさんにはお世話になりっぱなしだ。口下手だから言葉にしてもうまくは伝えられないかもしれないけど、いつか伝えられるようにがんばるよ。

 ありがとう。

「契約は成立、という事でよろしいですか?」

「えぇ、是非もありません」

「では対価ですが、前払いでスナック菓子(袋詰め)1袋と、スナック菓子8本。成功報酬も同じ数量を差し上げます」

「ここここんなに良いの!?」

 僕は狼狽してしまった。何なの!? 僕は蘇生手術でもさせられるの!?

「何かとご入り用でしょう」

 普通はどんな契約もスナック菓子1つで済んでしまうので破格の対価である。僕は自治体からスナック菓子を支給されないので、ビアンカさんは気遣ってくれたのだろう。

「困った時はお互い様ですから、気にしないでくださいね」

「ビアンカさん......ありがとう」

 そうして、僕たちは光に包まれた。

 僕の目の前、宿屋のカウンター上にスナック菓子が現れた。ビアンカさんが保管していたものだろう。

「ふふ、よろしくお願いしますね」

 そう言うと、ビアンカさんは含み笑いをして、僕の耳に顔を寄せて来た。

「……それに、袋詰めのスナック菓子なら女の子も買えますからね。ご参考に」

 え......。

 ビアンカさんは顔を離して、にこりと笑っていた。僕は反射的にビアンカさんの胸と顔を見てしまった

「では、明日に備えてください」

 僕は町へと繰り出した。


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