3 勇者が来ない!
「何故なのだ…」
魔王は机に突っ伏したまま呻き声を上げる。
その様子を見て、側近の三怪人は互いに顔を見合わせた。
「どうしました、陛下。今日の業務は終わったっていうのに」蝙蝠姿のブラムが尋ねる。
「…疲れでも溜まりましたか」ジャンも心配そうに魔王を覗きこむ。
「命令とあらばこのルゥ、陛下のために甘味でもお作り致します」ルゥは張り切って今にも部屋を飛び出さんかというところだ。
「そうではないのだ…」
魔王は机から顔を上げずに呻く。
しかしやがてゆらりと体を起こすと、だん、と拳を机に叩きつける。
「勇者が我を倒しに来ないのだ!」
書類が既に片付けられた王の執務室に声がこだまする。
一瞬の静寂の後、ああ、とブラムが声を上げる。
「そういえば、最近見てませんねえ。特にあのレオ…なんとかとかいう奴ら。ついにレベル上げでも始めたんですかね。いやあ、平和で何よりです」
「よくないに決まっておろう!勇者が来ないのは一大事だぞ!」
魔王はむくれ顔でばんばんと机を叩く。
しかし、とジャンが言葉を続ける。
「…勇者が来ないのがそんなに問題なのですか?奴らがいなくても魔界は困ったことなどないでしょう」
「ある!あるのだ!」
怒り顔でジャンに指を突きつけながら魔王は叫ぶ。
「まず、始まりの街を始めとした、勇者向けの観光業で成り立っていた街が悲鳴を上げることになる。武器防具屋、宿、アイテム屋、飲食店!みーんな閑古鳥であるぞ!民が苦しむさまを放ってはおけん!」
「…まあ、一理ありますが…」
「それにだ、あと、全体的になんか緊張感に欠ける」
「いきなりふわっとした理由になりましたね」
ブラムは冷静にツッコミを入れるが、魔王はそれを無視する。
「それに今思いついたが」
「今思いついたんですか」
「魔族とは闘争本能が高い種族であろう?勇者たちが来て時々ガス抜きしてやらぬと、そのうち同族同士で争うことになりかねん。そんなの面倒であろう?」
「いやまあ、そうですけど、なんか雑…」
ブラムは複雑そうな表情でツッコミを入れる。
ルゥは魔王の話を聞き、真面目な顔で口を開く。
「確かに陛下の仰る通りです。勇者共が来ないと我々にもデメリットがある」
「ルゥお前な…素直すぎだろ…」
「しかし、勇者共は何故来ないのでしょう。普段奴らは何をしているのでしょうか」
ブラムの言葉を気にせず尋ねるルゥに、魔王が答える。
「うむ、人間界に行かせた者たちの報告によると、勇者たちは普段、勇者ギルドから出されるクエストを受けて日銭を稼いでいるようだ」
「クエスト、ですか?」
「うむ、内容は主に魔族…悪魔の討伐。村や街に潜む悪魔を見つけ、それを狩るのが普段の奴らの仕事というわけよ」
「そうだったのですか…」
ルゥは意外そうに目を瞬かせる。
そこではたと、ジャンが何かに気が付いたようだった。
「……ということは、陛下を倒せば勇者たちは稼ぎ口がなくなるということですね」
しん、と部屋に静寂が落ちる。
魔王は静かに、静かに、息を吐いた。
そして、震える手で額に手を当てる。
「……我、やっちゃった?」
「この前カネダに『魔王を倒すと悪魔がいなくなる』って記事書いてもらいましたもんね。察しのいい勇者もいるでしょう」
ブラムが淡々と答える。
「いやちょっと待て!我が言うけど勇者がそんなことでいいのか!我が言うけど!」
魔王は拳を机に叩きつけて叫ぶ。
ジャンはそんな魔王をどうどうと落ち着かせる。
「…まあ、そんな勇者ばかりとは限らないでしょう。勇者には世間体もありますし」
「そ、それもそうだな。ふふん、やはり勇者は魔界に来ざるをえないということだな」
ジャンの言葉に少し持ち直したのか、魔王は何故か得意げな顔をしてふんぞり返る。
ルゥはその言葉を聞き、考え込むように腕を組む。
「しかしそうなると、勇者が来るようになるような、新たな策が必要になりますね」
「げえ、また考えんの?別にいいだろう勇者なんて放っておいても。ねえ陛下?」
ブラムはそう言って魔王を振り返る。
魔王はしばし黙り込んだ。
そして、机に肘をついたまま顔の前で手を組む。
「……始める時が来たようだな」
「な、何をです」
「第4回勇者対策会議を」
「別に4回もやってないでしょう」
ブラムの冷静なツッコミを華麗にスルーし、魔王は何故か不敵な笑みを浮かべていた。
「と、いう訳で、諸君らに集まってもらったのは他でもない!」
魔王の高らかな声が会議室に響く。
いつもは大臣たちが座るはずのその席に、今は魔王を含め七体の悪魔が集っていた。
「勇者が来ないというこの退屈な日常から脱するための会議を執り行う!皆今日は己の身分は気にせずどんどん意見を出して欲しい!」
魔王の言葉に、最初にため息が返る。
「諸君って言っても、いつもの面子でしょうが」ブラムが呆れたように言う。
「…ま、暇な奴の集まりだな」ジャンも乗り気ではなさそうに口を開く。
「先輩方、陛下の意向ですよ。真剣にやって下さい」真面目な面持ちでルゥが答える。
「ま、楽しそうだしいいんじゃない?」カティは朗らかに笑う。
「カティはまだ分かるとして、陛下。何でうちのクソ兄貴のイシドロまでいるんですか」ジルダが心底嫌そうな顔をして口を開く。
「わあお、久々に名前呼んでもらえたわ~。みんな門番門番ってそっけないんだよね~」魔界の門番のイシドロが嬉しそうな顔をして答える。
集まった面々をぐるりと見渡して、魔王は不敵に笑った。
「――では諸君、会議を始めるとしようではないか」
魔王はまず、ホワイトボードをどこからかガラガラと引っ張ってくる。
そしてどこからか取り出した眼鏡をかけ、髪をまとめて結わいあげる。
たん、と指示棒でホワイトボードを指示しながら、魔王は口を開く。
「では改めて本日のアジェンダだが、カスタマーを呼び込み長期的に魔界に来てもらうためのグランドデザインの構築についてだが」
「……はい?」
ブラムの呆然とした声だけが部屋に落ちる。
魔王は淡々と続ける。
「やはりカスタマーからのアグリーが取れてないことが問題だと思うのだ。我々もフレキシブルな対応が求められている。そのためにクリエイティブなイノベーションが必要だと思うのだが、どうだろうか」
しん、と、部屋に静寂が満ちた。
誰も、何も、言葉を発しない。
しかし、そこに一つの声が落ちる。
「陛下、一つよろしいでしょうか」
「うむ、ルゥ、申してみるがよい」
ルゥは立ち上がり、真っ直ぐに魔王を見つめる。
「クリエイティブなイノベーションも重要ですが、やはりカスタマーに対しイニシアチブを握ることも重要だと思うのです」
「あっそうくるか~ツッコむかと思ったわ~俺が甘かったわ~」
ブラムの拍子抜けた声が落ちる。
「そうなると騎士団とのアライアンスも重要になってくるわね。必要であればアウトソーシングも」カティも至って真面目に答える。
「このソリューションのためにはまずグロスをとることが重要じゃないかしら。うちにアサインしてもらってもいいけれど」ジルダも眼鏡を上げながら淡々と答える。
「…タイトなタスクになりそうだ」ジャンが呟く。
「結果にコミットでサジェスチョン!」イシドロが元気よく答える。
「おい男二人意味わかってねえだろ。ていうか何これ?仕込み?仕込みなの?俺だけ仲間はずれなのねえ?」
ブラムの空しいツッコミだけが会議室に響く。
ふ、と魔王のため息が落ちる。
「とまあ、冗談はこの辺にしておいて」
「あっ冗談だったんだ~よかった~マジでこの空間どうしようかと思ったわ~」
「勇者が来ないと色々問題なのだ。あとヒマだし」
「絶対そっちの理由だけでしょう」
「という訳でどうする?ビラでも配るか?」
ううん、とその場の全員が頭を抱え込む。
しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのは意外な人物だった。
「あ、でも、もっといい方法あると思うんです。俺やってみたいことがあるんですけど」
イシドロが手を挙げる。
「うむ、申すがよい」
「SNSを使って宣伝ってのはどうです?」
「「「えすえぬえす?」」」
その場にいるほとんどの者が首を傾げた。
ジルダだけは即座にそれを理解したようだった。
「なるほど…世はネットの大航海時代…これを生かさない手はないわね」
「でっしょー?さすが我が妹、理解が早あい」
「実験素材にするわよ」
にこやかに物騒なことを言うジルダだったが、いつものことなのか、イシドロは気にしていないようだ。
魔王はしぱしぱと目を瞬かせる。
「してそのえすえぬえすとやらは何者なのだ?」
「えっとー、まずこれがスマホっていうんですけど」
「うむ?何なのだこの板切れは?」
「ほい、チーズ」
「わ!何だ今のは!光ったぞ!」
「これで写真の出来上がり。俺の個人アカウントで呟いてもいいです?」
「うむ?よく分からんが許す。我は寛大故な」
「やりい。バズるといいなー」
「何か…人間界に染まってる悪魔が一体いるんですが…」
「…あいつは昔からそういうところがあった」
ブラムとジャンがボヤいているうちに、イシドロは魔王やルゥにスマホやSNSの説明をしているようだった。
魔王は興味深げにそれを聞いていく。
「なるほど…そのすまほとやらで我の…魔王の状況を逐一とぅいーとすれば、ばずる…そして勇者も魔界に来る!そういうことなのだな?」
しばらくして、魔王は目を輝かせて顔を上げた。
「ええ、そういうことです。さっすが陛下!」
「陛下騙されてない?大丈夫?」
「面白そうではないか!我それやる!!」
「というわけでジルダ、陛下用のスマホ作ってあげて。ちゃんと人間界のネットワークに繋がるやつね」
「そこは私に丸投げなのね…まあいいけれど。そういえば兄さんのスマホ代まだもらってないんだけど」
「さーて、会議はこれくらいかね」
「兄さん?」
「なーんか今回私影薄かった~」
「アンタはいつも薄いから安心なさい」
「何ですって!」
「何よ!」
かくして、この日の第4回勇者対策会議は終了した。
そして、魔王のトゥイッターのアカウントが作られることになったのである――
「と、いう訳で!我!すまほでびゅーである!」
魔王はスマホを高々と掲げ、得意げになって胸を張る。
――が、ここは深夜の魔王の自室。周りには特に誰もおらず、フリルとレースがたっぷりの、ピンク色のネグリジェを着た魔王がベッドの上で佇んでいるだけである。
しかし、魔王は何故か得意げに独り言を続ける。
「ふふん、イシドロからあれやこれやを聞いた故、我もすまほの操作は完璧である!まずはトゥ
イッターのあかうんと作成であるな!」
魔王は張り切って慣れない手つきでスマホを操作する。
「ふむふむ…これをこうして…む、名前?魔王、と…。あとは、自己紹介?『魔王であるぞ。跪け』と…これでよいのか?」
魔王は首を傾げながら操作をしていく。ふと、魔王はとある項目に気が付いた。
「む、写真だと?昼間イシドロが撮っていたあれか。どう撮ればよいのだ?」
魔王はスマホを上に下に振り回しながら操作をしてみるが、自分の姿が映らず困惑していた。すると、たまたま指が当たったのか、カメラがインカメラに切り替わる。
「む、我の顔が映ったぞ!これで丸いところを押せばよいのだな!」
カシャリ、とシャッター音が室内に響き渡る。画面の写真は綺麗に撮れていた。
「よし、これで完璧であるな!あかうんと作成完了、と……おお、これで我もトゥイッターでびゅーである!」
魔王は嬉しそうにベッドの上で飛び跳ねる。
少女のような顔で、魔王はさっそくスマホの画面に食い入る。
「それで最初はどうすればよいのだ?…む、そうだ!まずは挨拶、であるな。トゥイートをするのである!えっと…『あかうんとをつくったぞ!魔王である!よろしく頼むぞ!』と…これでよいのか?」
魔王のトゥイートは何の問題もなく投稿された。
魔王は少女のような顔で反応が返ってくるのを待つ。
しかし、いくら待てど、誰からも、何の反応も返って来なかった。
「むう…?イシドロの話だと、たくさんイイネが来るはずなのだが、何も来ないではないか…む、そうだ!」
魔王はぽんと手を鳴らす。
「イシドロに、ばずるにはふぉろわーが不可欠と聞いていたのであった!そしてふぉろわーを増やすならとにかくいっぱいふぉろーしたほうがよいと聞いたな!えっと、ふぉろーは…このボタンであるな!」
魔王は見つけた他人のアカウントを手当たり次第フォローし始めた。
それは、悪意のないフォロー爆撃。
それに対してはすぐに反応が返ってきた。
『アンタ誰』『何で魔王なんて名前にしてるの?』『なになに?本物の魔王なの?』
「おお!反応が返ってきたではないか!面白いなこれは!ええと、返事をするには…これであるな!ええと、『うむ、正真正銘、本物の魔王である!』と…」
それに対する反応も、すぐさま返ってきた。
『こいつ頭おかしいんじゃない?』『魔王がトゥイッターなんかやる訳ないじゃん』『そもそも魔王がこんなかわいい女の子な訳がないから完全にダウト』
「む、何故だ?我が魔王だと信じられていないではないか。『そんなこと言われても、我こそが正真正銘、魔界の王なのである』と…」
『じゃあ証拠見せてみろよ』
「証拠?うーむ…」
魔王は腕を組んで考え込んだ。
「証拠と言っても、一体どうすれば…そうだ!」
ぽん、と魔王は手を打つ。
「イシドロに、すまほでは動画も撮れると聞いていたのであった!今こそそれを試す時、であるな!」
魔王はベッドから降り、スマホをカメラモードにする。そして、再び上へ下へ振り回しながら操作し、なんとか動画を撮る画面へと移行した。
魔王は動画撮影開始のボタンを押したあと、魔術でスマホを浮かせながら撮影を始めた。
「えー、おほん!この動画を見ている人間どもよ、恐れおののくがよい!我こそが、魔界を統べる悪しき王、魔王である!――という訳で、ついさっきトゥイッターを始めたのだが、何故か魔王だと信じてもらえなかった故、余興に魔術を披露しようではないか!喜ぶがよい!」
魔王は両手を広げると、魔法陣を展開する。
足元の魔法陣からまばゆい光が放たれる。
魔王は魔法陣に手をかざす。
光が収束していき――突然、煙が舞い上がった。
やがて煙が晴れると、魔王の足元にいたのは――
「キュゥー」
小さなドラゴンだった。
「ふははは見たか!我が呼び出したこのドラゴンこそ、かの邪竜、ファブニール!の孫である!どうだ?愛らしいであろう?」
魔王は小さなドラゴンを抱き上げる。
「という訳で、我が魔王であることが証明されたな!ふぉろーとイイネをよろしく頼むぞ!」
魔王のその言葉で、動画は締めくくられた。
魔王はドラゴンを抱えたままベッドの上に戻り、早速スマホを操作する。
「よし、これで動画を投稿、と。……むう!?」
魔王は思わず目を剥いた。動画を投稿した途端、イイネとリプライが止まらなかった。
『チビドラゴンかわいい!』『召喚術とかこれマジモンじゃねーか』『いやいや、トリックだろ』『でもこれ、もしかしたら本当に本物の魔王なんじゃ…』
「おお、何やら盛り上がっているな!これがまさか…ばずる!!我も何だか楽しくなってきたぞ!」
魔王は張り切ってさらにトゥイートを投稿する。
「『うむ!何か質問があれば何でも聞くがよい!我が直々に答えてやるぞ!』と…」
それに対するリプライはすぐさま飛んできた。
『何でSNS始めたの?』
「『うむ、勇者が来なくて暇ゆえな!故に、勇者たちが魔界に来るよう、そなたたちも宣伝を頼むぞ!』と…」
『勇者と戦いたいの?』
「『うむ、そうである!我にとって最高のえんたあていめんと故な!』と…」
『ふざけんな』
「『む、ふざけてなどおらぬ!不敬ぞ!』と…」
『クソリプにも返信するなんて優しいね』
「『くそりぷとは何者だ?』と…」
『今日のパンツ何色?』
「む…どうだったかな。えーと、よいしょ……黒か!『黒であるぞ』と…」
『ありがとうございます』
「『うむ、何だかよく分からぬが感謝するがよい!』と…」
魔王は上機嫌だった。人間たちとの語らいは、彼女にとって未知の世界だったからだ。
魔王は夢中になってスマホをいじる。
ふと、そこに一つのコメントが飛んできた。
『お前が本当に魔王なら、悪魔のせいで死んだ俺の父さんを生き返らせてくれよ』
「む?そうだな…『我にはそんなこと無理であるぞ』と…」
すぐさま、同じ人物から返信が来る。
『何でだよ。悪魔のせいで俺の父さんは死んだんだぞ。だったらお前にも責任があるだろ』
「…む?『何を言っているのだ?その悪魔とやらは我の命令でそなたの父を殺めたのではないぞ。我には関係ないことである。それに、己の身を守れなかったそなたの父の責任であろう?恨むなら無力な父を恨むがよい』と…」
その返信を投稿した途端、リプライの数が急激に増えた。
『うわひっどい』『そんな言い方ないよね』『そもそも悪魔がいなければこんなことにはなっていないのに』『お前のせいだ』
「むむ、返信が追い付かんな。ええと…」
『お前たちさえいなければ』『なりきりアカウントなのかもしれないけどさ、不謹慎だよね』『悪魔のせいで死んでいった人たちに申し訳ないと思わないの?』
「む、ちょっと待て、返信が…」
『何とか言ったらどうなんだ』『都合が悪くなるとだんまりかよ』『やっぱ小物だな』『通報しました』
「ぬ…何やら不敬なことを言われているではないか!?」
『通報しました』『さっさと勇者に倒されろ』『通報しました』『通報しました』『通報しました』
「つうほうとは何だ?むう、早く返信をしなければ…」
その時、スマホの画面がぱっと変わる。
そこには「このアカウントは凍結されました」の文字があった。
「……とうけつ?」
魔王は首を傾げながらスマホをいじる。
しかし、スマホの画面はうんともすんとも言わない。
「な、な……」
魔王はぷるぷると体を震わせる。
「何が起こったのだああああぁぁぁ!?」
魔王のその叫びは、深夜の魔王城に響き渡った。
「あっはははははは!!腹いてえ!!」
「イシドロ…いくら何でも笑い過ぎだ」
「いやだってははははは!!アカウント作成後数時間で炎上して凍結って!!こんなことあるんだ!?」
「イシドロ…いい加減にしてやれ…陛下が落ち込んでいるから…」
執務室の机に突っ伏している魔王はうんともすんとも言わない。
アカウント凍結事件があった次の日、イシドロとジルダは魔王の執務室に呼び出されていた。
三怪人が心配そうに見守る中、ジルダは一人で大笑いをしている兄を無視し、苦笑いをしながら口を開く。
「陛下。そう気を落とさないで下さい。アカウントなら私がハッキングして復旧させておきますから」
「そうそう、妹に任せれば問題ないっすよ。それに、炎上したとは言え結果的にバズったし、よかったんじゃないですか?」
魔王はその言葉に反応し、ぎしぎしと首を上げる。
「――ない」
「え?何です?」
「我は、諦めない!!」
魔王はだん、と拳をテーブルに叩きつける。
「いくら炎上しようと!いくらあかうんとが凍結されようと!我は!充実したえすえぬえすライフを諦めぬぞ!!そう、これは人間たちからの宣戦布告!我が凍結されるのが先か、我がばずるのが先か!そういう戦いである!」
「違うと思います」
「故に、我は諦めない!必ず今度は正しくばずってみせるのである!!」
魔王は張り切って指を突き出した。
部屋の中にいる全員があっけにとられる中、ブラムがため息を吐く。
「忘れてそうだからいいますけどね、陛下。本来の目的は、勇者たちを魔界に呼び込むための宣伝ですからね」
「――――あ」
かくして、後にアカウントはジルダが何とか復旧させ事なきを得た。凍結される前のトゥイートも合わせたその後のトゥイートにより、魔王本人のアカウントであると噂が広まり、日々、そのフォロワーは増えていくようになる。
さて、肝心の勇者の来訪者数はというと…結局、あまり芳しくなく、ぱっとしない結果となったのだった。




