5.いざ初の狩へ!(後編)
森に入ってから1時間。
私たちは森の中腹当たりに差し掛かっていた。
獲物はまだ見つかってないけど薬草がいっぱいあってウハウハ!
レシピ本の巻末見ながら必要なものを採っていく。
ちなみにレシピ本は他人には見えないみたいだ。
今まで人前で出したことなかったんだけど、さっきうっかりしてエイブたちの前で出しちゃってやっべー!!と思ったら
「何手振ってんだハル?虫でもいんのか?」
だって。見えないならこっちのもんさ、使いまくったるわい!
で、さっき採ったものはこちらになりまーす。レシピ本巻末参照~。
【ニーオン】玉ねぎに似た野菜。楕円形をしている。
そのまま食べると辛いが、火を通すと非常に甘くなる。皮と球根共に
乳白色。
【キロット】人参に似た野菜。細長くねじれているのが特徴。
生でも食べられるが、火を通すと甘くなる。葉は赤く根は黄色い。
【テーポ】 じゃがいもに似た野菜。丸形で1つが大きい。
火を通さないと食べられない。ホクホクで癖がない。皮は黒く、中は
オレンジ色。
【ツマナ】 小松菜に似た野菜。葉先が丸くなっている。
生でも食べられる。茎が太めなので食べ応えがある。
茎、葉共に赤色。
【ビーンズシープ】豆苗に似た野菜。葉は4つ又に分かれている。
煮ても炒めても美味、成長が早く半日~1日ほどで食べられる。
根本はオレンジで葉先は緑。
【ソメの花】コンソメに似た味の花。
花の中に大量の雄しべがあり、その雄しべの先がコンソメ顆粒のよう
になっている。
逆さにして振ると簡単に取ることができる。花は白く雄しべは茶色。
【ショーの実】醤油に似た汁が出る実。
垂れ下がるように実が生り、先が黒くなると収穫時。
上から下に絞ると先端から黒い汁が出る。実は黄色く、熟成して
いくと黒くなる。
こんなとこかな!
村ではこういう野菜全然出てこないんだよね…。
なんでかっていうと、大体こういう野菜の上の方の花とか葉っぱを薬草として採るから、土に埋まってるものとかはそのままにするっていうのが常識っぽい。引っこ抜こうとしたら怒られちゃった。
薬草の採取は森の入り口付近でするんだけど、全部抜いちゃうとまた野菜ができるのに時間がかかるらしくて、上だけ切ってそのままにしておくと次の日には花とか葉っぱ再生するからびっくり!1日ってすげーな!
なので今日はいつもより森の奥のほうに来たから丸ごと採っちゃうのだ。
でもまさか醤油とかコンソメに似た植物があるなんて思ってもなかったよ。
これで料理の幅が広がっちゃうぞ!ウフフフフフフ!
「ハルの奴なんかニヤニヤしてて気持ち悪ッ」
「まあそう言うてやるなエイブ。初めて森の中ほどまで来たんじゃ、目新しい薬草に興奮するのも仕方ないじゃろうて。ふぉっふぉっふぉ」
なんか聞こえるけど無視無視!
もうちょっと採ってストックせな!
みんなに付いて行きながら薬草を採取していると
「止まれっ」
先頭を歩いていたウェルーダさんが合図を出した。
耳をぴくぴくさせて様子を探ってるみたいだ。
そして私に手招きして、そばに来た私に耳打ちする。
「……あそこにリーフラビットがいる。ハル、お手本を見せるからよく見ていろ。」
「はっはひっ」
ウォアアアアアアア!!ええ声!びっくりして噛んじゃった!
見てます見てます!ばっちり目に焼き付けちゃいます!!
「……リット、レット。脇に回ってサポートにつけ。村長、アルバ、エイブは後ろを頼む。」
「「「「「了解」」」」」
的確な指示~!カッコいい~!
いま私たちの前にいるのはリーフラビットか。
どれどれ、教えて動物図鑑ー!
【リーフラビット】
【体重】約5~20㎏
【体長】約30㎝~60㎝
耳と尾は薬草でできており、背中には苔が生えている。
場所と食べる薬草によって耳と尾の薬草が変化することがある。
主食として薬草を食べて育つため、肉は柔らかく味が濃い。
大きいものでは約1mの巨体に及ぶものもいる。
へえ、薬草食べていて、肉が柔らかくて、味が濃い…
美味そう…。
焼いてヨシ煮てヨシ鍋でヨシ!って感じかなぁ、元の世界にいたときはウサギ食べる機会なかったもんなー。
ネットで検索すると鍋とかステーキとか相当おいしいみたいだったけど。
悔しい!食べておけばよかった!!
「…ハル?大丈夫か?」
「ハッだっだいじょうぶですっ」
「…よし、ゆっくり近づいていくぞ」
いかんいかん、おいしいご飯を作ることに想いを馳せてしまった。
全員四つん這いになって、抜き足差し足忍び足でゆっくりと近づいていく。
リットとレットは二股に分かれてあっという間に草に隠れて見えなくなり、後ろを任された3人も気づいたら見えなくなっていた。
もう完全に猫だこれ!イイネ!
私も見様見真似で歩いていく。猫の歩き方ってこんな感じだよね…そーっと…
見えた!
「っ!?」
その瞬間、瞳孔が開いて身体が勝手に動いた。
身体だけ。
「ハルっ!!」
ウェルーダさんの声が聞こえる。
その声は聞こえないかのように、私の体は全身をバネにして大地を蹴った
あっという間にリーフラビットとの間合いを詰め、相手が気付くより前にその体に鉤爪を、喉元に、牙を突き立てる
「ヴヴウゥゥーー!!!」
リーフラビットの悲鳴が響く
暴れだすリーフラビットにしがみついて噛みついている牙と鉤爪にさらに力を籠め、さらに足で思い切り蹴り上げる!
突き立てた牙の傷口から口の中いっぱいに鉄臭い血の味が広がっていく
「ヴッヴゥッ……ッ……」
だんだんとリーフラビットの抵抗が弱くなり、力が失われていくのがわかる。
トドメとばかりに私の体は噛みついた喉元を思い切りひねる
バギッ
鈍い音が牙を伝って体中に伝わる。
…あっけなく、一瞬で、リーフラビットは絶命した。
それを見届けた途端、全身から力が抜けて、感覚が戻ってくる。
「お、おわった…?」
その場に立ち尽くす。
うーん、今の動きは完全に猫、それも元の世界の、普通の猫。
でも私の意志で動いたわけじゃないし、私じゃあんな動きできっこない。
と、いうことは。
私の中に、あの時ぶつかった猫がいる……!?
◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
あの後立ち尽くしてたらウェルーダさん達が駆けつけてきて、血だらけの私見て全員から悲鳴が上がるわ村長とウェルーダさんにお説教されてこってり絞られるわで、今は川に連れてかれてバシャバシャ洗われているところでーす。
「ま、無事でよかったよ。ものすごい勢いで飛び出して行った時はどうしちゃったのかと思ったけどねえ。」
アルバにばしゃばしゃ水をかけられて、体中に付いた血を流していく。
結構かかってたんだなあ、水が赤く染まって流れていきお腹の毛が真っ白になる。
「うー…ごめんなさい…。」
「そう凹まないの!凄かったよあんた、まさに瞬殺!って感じでさあ!あたしゃ同じメスとして鼻が高いよ!」
アルバは目を輝かせて胸をポンと叩いてみせた。
アルバ曰く突然目の色が変わったと思ったら、目にも留まらぬ速さでボンッて感じで飛び出して、ガッてしがみ付いてガブーッて喉元に噛み付いてズドン!って蹴りを入れてバキバキバキィ!って首の骨を折ったらしい。
私なりに訳しております。
体育会系か!擬音が多いわ!
相当インパクト強かったということだけはわかる。
しかもものすごい早業だったらしく「最初何したかわかんなかったんだよ!」ってものすごく強調された。
私にできるわけないし…やっぱあの時の猫が私の中にいるとしか言えない。
こりゃ帰ったら獣神様に聞いてみなくては…。
「おーい!ハルー!アルバおばさん!ホーンフィッシュ獲ったから帰るぞー!」
「ハル、冷えんようにしっかり水切るんじゃよ~」
「はーい!アルバおばさん、あとブルブルするだけだから先行ってていいよ!」
「そうかい?なんかあったらすぐ呼ぶんだよ、近くにいるからね」
「うん、わかったー」
アルバは私の頭をぽんぽんと撫でて、みんなが待つ方の草むらへガサガサと入っていった。
それを見届けて、体をブルブルさせて水を払い落とす。
「ふー……」
そこら辺の石に腰かけて、息を吐く。
や、ちょっとボーっとしたいだけなんだけど。
うーん…1年経ったなあ。
意外と平気だった、服じゃなくて毛皮なところも、四つ足で歩いたりすることも、トイレから帰るとみんな村中駆け巡るところとかも。
そして――――――こっちでで暮らすことも。
割と大丈夫なもんだ。うん、私は大丈夫なんだ。焦ることなんて1つもないね!
なので決めました!
私はこの村を拠点として、違う村や違う種族に会いに行くぞ!そんでここにはない食材を手に入れるのだ!
そして私はこのレシピ本を制覇するのだ……!
「よしっ」
何はともあれお腹減ったから!帰る!
私は大きな野望を胸に、みんなの元へ戻るのであった。