4.いざ初の狩へ!(前編)
長くなりそうなので前後編です。
名付けの儀式から1年。
私は1歳になり、立派な成猫獣人になっていた。
言葉もきちんと喋れるようになったし、背も伸びた。うん、素晴らしい成長速度。
元の世界では猫の1歳って大体17歳くらいだけど、寿命とかってこっちだともうちょっと伸びるのかな?
あとで動物図鑑確認してみようかな。
「おーい、ハル~!今日は狩に行くんだろ!早くしろよ~!」
家で支度をする私に声をかけたのは、茶トラっぽいオスの猫獣人。
私より2つ年上で、ことあるごとにお兄さんぶってくるお調子者。
お父さんお母さんによれば今まで村の中で一番下だったから、私が生まれて『今日から俺も兄ちゃんだぜ!』って相当嬉しがったそうだ。
ま、私のほうが人生経験長いんですけどね~~!
「はーい、今行くよ、エイブ~」
「おいっエイブお兄さんだろ!何回言っても覚えないんだから!」
「はいはい、エイブおにーさん」
適当に返事をしながら準備を進める。
そう、今日は私の狩デビュー!超楽しみ!
普通はメスは狩にはあんまり出ないで干し肉づくりや薬草を採ったり、それを調合して狩に行くオスに持たせたり、要は家庭での仕事が主らしい。
センスがあるメスは狩もするらしいから最初はやってみるそうだけど。
が!!
私には獣神様にもらった加護があるのだ!
獣神様に加護を貰ったあの日から大体1か月経ったころ、たどたどしいながら喋ってお父さんお母さんに伝えてみたら目を見開いて驚かれて、村長まで呼ばれちゃって質問攻めよ。
で、固有スキルの話はしないほうがいいかなと思って、加護についてだけ喋ったら…
「なんと…ついにこの村に加護を受けた者が…」
村長が言うには目を開けて名付けの儀式を行った時にみんな獣神様に会うんだけど、大体健康に育ちますよーにって祝福されるだけだそう。
それとは別で、成人してから災いから村を守ったり、人助けとかして善行をしているとまれに獣神様の方から加護を授けてくれる事があるらしいけど。
だから目を開けた時から加護を受ける人は珍しいみたい、村長も初めてだって言ってた。
で、今日その加護とセンスを試すために初狩に行くってわけ!
なんてったって加護のおかげで攻撃力・防御力・身体能力の向上だからね!
ついでに自分の鉤爪の切れ味の確認と、まあ本当の目的は料理をすることなんだけど!
今日狩る予定の獲物はリーフラビットっていう耳と尻尾が薬草になってるうさぎと、川まで出てホーンフィッシュっていう角のついた大きめのサケみたいな魚を捕りに行く。
基本この村はそのまんま焼くか、煮るかどっちかなんだよね。味付けも塩は貴重だからって超薄味。
いい加減飽きてきたけどまだ子猫ってことで台所にあんまり入れてもらえなかったから、この一年レシピ本をひたっすら読んできたんだけど、最初開いたときはパラパラめくっただけだか気づかなかったけどこのレシピ本、調味料がこっちの世界用に変換されてて、巻末に調味料に代わる動植物一覧が載っていた。便利ぃ!
なので今日は狩のついでに必要な木の実とか薬草とか集めてきちゃおうと思ってる。
ふっふっふ…見ていろ…村中の胃袋をつかんでやるぞ…!
「よしっ準備おっけー!」
お母さん特性の薬草を調合した回復薬も持ったし、お父さんが専用に作ってくれた爪とぎもあるし、おやつに干し肉でしょ、獲物を入れる袋も持ったから完璧!
さあさあレッツゴーじゃ!
「それじゃあお父さんお母さん行ってくるね!」
「気を付けて行ってくるのよ!」
「ほ、本当に行っちゃうのか?こんなに綺麗で可愛いのに怪我でもしたらどうするんだ…」
お父さんが心配そうに声を出す。
お父さんは私のこととなるとものすご~~く心配性になる。
私がまだ小さいころ木登りをしていてその木のてっぺんで手を振ったら、顔を蒼白にして「うちの娘が木に上って降りれなくなった!!」って村中の大人たちを呼びに行ってすっごく焦った。
普通に降りて行ったら私を抱きしめておいおい泣くんだもん、宥めるのが大変だったさ。
そんなお父さんにお母さんが溜め息をついてたしなめる。
「もう、お父さん心配しすぎよ。ハルはお父さんが思っているよりしっかりしてるし、獣神様の加護だってついているわ。だからこの子は大丈夫、この歳からいろんなことに興味を持つのって大事なことよ?」
「う、うーん、しかしなあ…」
さすがお母さん、お父さんも困り顔でたじたじだ。
まあかわいい子には旅をさせよってね!
「さ、ハル。エイブ君待たせてるんだからお父さんのことはいいから早く行きなさい。怪我には気を付けてね!」
「はーい!じゃあいってくるね!獲物獲って来たら私がご飯作るからね!」
「はいはい!期待して待ってるよ!」
「あ、あ、ハルゥ~~……」
お父さんの嘆きの声が聞こえるけど無視!
家から出ると待ちぼうけを食らっていたエイブがムスッとした顔で腕を組んで待っていた。
「ごめんごめん、お待たせ」
「待たせすぎだぞ!待ち合わせに遅れたらどうするんだ!」
「走れば間に合うよ!さっ行くよエイブ!」
「だーかーら!エイブお兄さん!!」
むくれるエイブを置いて私は村の広場に駆け出す。
走っていけば5分程度で着くはず。
「もー!!待てよハルー!!」
「待ってあげなーい!」
私たちはじゃれあいながら村長たちが待つ広場へと向かった。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
「ふぉっふぉっふぉ、待っておったぞ。走ってくるとは元気じゃのう。」
村長がニコニコ顔で出迎えてくれた。
「………これだけ元気なら、今日の狩は大量…。」
村長の隣にいる村で一番体の大きいウェルーダさんだ。
ウェルーダさんは村長の息子で、村長と同じようなフワフワの毛が特徴的なイケメンだ!
でも基本無口で、クールに見えるが実はシャイなだけなんじゃないかなー?って思っている。
思ってるだけ!ギャップ萌えFOO!
「………どうした、ハル?」
いかん見つめてたら気づかれてしまった!
「なんでもないよ、ウェルーダさん!今日楽しみでねー!」
「………そうか」
ニコッと笑いかけられる。
やっべ、イケメンだぁ。
つい顔を逸らしてしまう。心なしか顔も熱い!
もぉ~やだやだぁ!
「何顔赤くしてんだよ!ウェルーダさんがお前に興味あるわけないだろ~?
こんな貧相なちんちくりんにさっ!」
エイブがにやにやしながら腕をつついて茶化してくる。
カッチーン
言うてくれたなエイブにーさんよぉ…私は年上が好みなんじゃい!
スーッと息を吸って、足を踏ん張り、腕を曲げて引いて、肘で…
「せいっ」
ズドン!
「ぐおッ」
脇腹にかましてやったわい。
エイブは唸りながら脇腹を押さえて悶絶している。
「おやおや、朝から仲良しじゃなあ」
ふぉっふぉっふぉと村長がまた笑う。
エイブが何か言いたそうな顔でこっちを睨んでいる。
ふん、年頃の女子に失礼なこと言うからこうなるのよ。
「さて、全員集まったようじゃから、さっそく狩に向かおうかのう。
今日は初めて狩に向かうハルがおるでな、それに加えてまだ1歳になったばっかりじゃ。みんな気を使いながら狩をしておくれ。
ハルに何かあったらダイになにされるかわからんからの」
狩に行くメンバーから笑い声があがる。
今日のメンバーは、村長のローガさん、ウェルーダさん、エイブ、私、力持ちの双子の若いオス、リットとレット、男勝りなメス、アルバ。この8人で森に向かう。
「ダイさんは心配性だからなー、ハルになんかあったらキレそうだよねー」
「ねー、怒られるの嫌だねー」
リットとレットが顔を見合わせながらクスクス笑う。
「ま、それほど愛されてるってことさ。よかったねえハル」
わははと笑ったアルバにぐしぐしとなでられて、ちょっと照れちゃう。
リットとレットは目が青と黄色のオッドアイで、白と黒の毛並み。
びっくりするぐらい力持ちで息が合っていて、連係プレーが得意な双子。
アルバは灰色に黒で模様が入っている毛並み。
肝っ玉母ちゃんで子供3人ともオス!旦那さんも気が強いらしいけど、アルバには敵わないんだそうだ。
そのおかげでアルバは家庭でも狩でも強い。
これだけ慣れてる人たちがついてきてくれるならお父さんが心配するようなことは起こらないでしょう!
「さあ出発じゃ!」
村長の掛け声を合図に、私たちは森へと歩き出した。
なかなか展開が遅くて申し訳ない、次回はレシピ本が活躍します!