プロローグ
サバイバル。それは人間の文明からの恩恵を享受し難い状態で生存し続けること。以上、Wikipediaより抜粋。
恩恵を享受し難いとかそんなオーバーな、と思う。そして、しかし彼女は確かに恩恵を享受し難い……というか享受するのを拒んでいるようにも思う。
俺の彼女は、今日もサバイバル生活を送っているのだから。
「秋人ー、見て見て!アサツキ!」
屈託なく雑草を掴んで泥だらけで笑うこの女は、俺の彼女、高宮加奈である。アサツキって何よ。それ雑草じゃないの?だって用水路並みの小川の土手に生えてるただの草だよ?
「これはねー、青い部分は小ネギみたいに使えるし、根っこの部分はエシャレットとかみたいに生で味噌付けて齧っても美味しいんだよー!」
「はぁ、左様ですか」
博識な彼女に対して俺は返す言葉もなかった。ドン引きしているわけでは、決してない。だが、ちょっとその生き様はワイルドすぎると思うのだ。
「加奈は文明の恩恵とかいらんな、おそらく」
呟いたはずの言葉に、そのまま真っ直ぐあっけらかんと返事が返ってきた。
「自然の恩恵あるからいらんよ、文明の恩恵なんて!」
自然の恩恵。言葉では簡単だがその知識量は俺の脳内では覚えられる許容範囲を超えている。自然の恩恵を受けるには、知識がないと死ぬこともある。
毒草を食べて死ぬ、毒魚を食べて死ぬ、なんてニュースが必ず年に2回くらいは流れるのだから、素人が簡単に手を出すわけにはいかないジャンルであることは間違いない。
「秋人は何でも食べてくれるから好き」
ふふ、と笑いながら呟いた彼女に、俺は違うよと言ってやりたい。
加奈の作った料理を何でも食べるのは、もちろん確かに味が美味いからというのもあるが、彼女が正確な知識の持ち主であると知っているからである。だから安心して箸をつけることが出来るのだ。
俺の彼女の日常生活は、サバイバルすぎる。
そんな彼女と、一般ピーポーな俺の日常の一幕をお届けしようと思う。