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私は少し大人になった

 結論から言えば、私の能力は完全に消えてしまったみたいで。


「ナナミ!? どうしたのその怪我」

「いやー、私おっちょこちょいだから轢かれちゃってさー。腕一本折れただけで助かったけどね。いやー、これからは気を付けますわ本当に」


 ナナミは結局あの性格が災いして私の知らないところで車に轢かれてしまって。でも時間は戻らなくて。ナナミも反省して、次からはもう少し慎重に行動しようと思うようになって、成長して。


「今日も皆いるね……」


 未来はそれなりに変わってしまったらしくて、いつまで経っても猫の誘拐なんて起きなくて、路地裏ではたくさんの野良猫がなーごなーごと鳴いていて。ロージーも外猫のままで。


「高校卒業したら結婚したいって彼女が言ってきてさ。いやー、流石に気が早いと思うんだよね。まずは大学に行ってさ……」

「爆発しろ」

「姉さん!?」


 レオは毎日幸せそうで。流石にちょっと腹が立ってきたから調子に乗るなと普段使わないような言葉を使ってみたり。


「あ、明日さ、デートなんだよな。お、女の子ってどういうとこが好きなのかな」

「教えてあげな~い」

「うぅ……」


 リュウ君も幸せそうで。いけしゃあしゃあと私にアドバイスを求めてくるから意地悪しちゃったり。





「……未来が変わることも含めて運命なんだよって、虫のいいことは言わないけどさ」


 ある日の夜、自分の部屋で独り言をポツリ。私の周りは皆幸せそうだけど、私のせいで未来が変わって損をした人も、たくさんいるのだろう。かつてレオが言っていた新しい命は結局無かったことになったし、当時は付き合っていたのに、今回では恋人と別れてしまったクラスメイトもいた。正直なところ、私が未来を変えてしまっただなんて、スケールが大きすぎて実感が湧かなくて。神様が私の前に現れて、お前は悪い奴だって叱ってくれたらどんなに楽か。


「どっちにしろ、もう過去には戻れない。私がしてきたことが大罪だとしても、やり直せない」


 無かったことになったいくつもの時間を覚えているのは私だけ。それを覚えていることが、私の償いなのかもしれない。難しい事を考えすぎて眠たくなって、私は布団に入って目をつむる。


「おやすみなさい。また明日」


 今日の次は明日。そんなの当然、当たり前。昔の私はそんなことも理解できなかったし受け入れられなかったけど、今の私は成長したから、受け入れられるから。




 色んな経験をして、私、少し大人になったから。私を大人にするために、神様があの能力を与えてくれたのかな、なんてまだまだ子供みたいな思い上がりを抱きながら、私は明日に向かって夢の世界に旅立つのだった。

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