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奇妙な今を楽しんで

「そっか……私に、そんな力があったんだ。何でレオも?」

「こっちが聞きたいくらいだよ、双子だからじゃないかな。姉さんは時間を巻き戻して、僕は巻き込まれたというわけさ」

「ずっと、こういうのが続くのかな」

「さあてね。正直、僕はどうでもいいよ。何度も何度も同じ日を過ごすのは嫌だから、協力はするけどさ。悪い出来事は、自己管理して事前に防ぐことだね」


 一日の初めに戻ってしまった私達は、その後いくつか残る疑問を解消しようと互いに考察を重ねる。しばらくすると、前回のようにナナミからメッセージが届く。


「よし、ナナミの無事も確認したことだし、私はもう学校に行くよ」

「……僕は今日は休むよ。疲れた。お願いだから、今日をもう繰り返さないでくれ」


 レオの顔は本当に疲れているように見える。ベッドの上でぐっすり休んだ後の状態でスタートする私と違って、起きた状態でスタートしているからなのだろうか? 申し訳ない気持ちで部屋を出ていく弟を見送り、制服に着替えて学校に向かう。こんなことになってしまったのだから当然だけど、学校に向かう途中の私の脳内は、自分の能力の事ばかりで。考え事ばかりして歩いていたから、危うく私が轢かれそうになって。


「……うん、悪い能力じゃないんだから、楽しまないとね」


 学校に到着する頃には、そんな結論に。誰だって一度は、過去に戻ってやり直したいと考えたはず。私は実際にその能力を手に入れた。有効活用しない手はない。職員室に向かってレオの担任に彼が休むことを告げ、意気揚々と教室へ。既に聞いたことのある話題を喋るクラスメイトを少し退屈だな、と思いながら眺めているうちに担任がやってきて、今日もスクールライフが始まって。


「そうだ、数学の授業」

「数学? あのハゲ凄い意地悪だよねー」


 3時間目の授業を終えた休憩時間、私は前回の事を思い出す。ナナミがハゲ扱いするくらいには数学担当の教師は性格が悪いと評判で、明らかに解けそうにない問題を生徒に答えさせて、馬鹿にしてくるのだ。そして運悪くこの日は私が当てられて、私は恥をかいて。レオの言う、時間を巻き戻してしまう程の嫌な事にはカウントされないみたいだけど、それでも嫌なものは嫌なわけで。薄っすらと問題を覚えていた私は、今回は逆に教師をギャフンと言わせてやろうと休憩時間中に必死でその問題の答えを頭に叩き込む。休憩時間が終わる頃に数学教師が教室の中に入ってきて、私のリベンジマッチがスタートして。


「それじゃあ、ここの4問を……南雲」


 ところが、教師が指名したのは私ではなくて別の生徒で。教師をギャフンと言わせることができなかった悔しさよりも、どうしてこうなったんだろうかという疑問で頭の中は一杯で、いつもと大して変わらないけど授業が頭に入らない。


「それでさ、昨日のバラエティでさ……」

「あれ? 昨日は深夜アニメ見たんじゃ」

「? 深夜アニメも見たけど、言ったっけ? バラエティも見たよ?」


 昼休憩、この前とは別の話題を振ってくるナナミ。時間が巻き戻ったなんてものは本当は夢で、ただの幻想で、私はちょっと妄想入っている痛い少女だって思ってしまうくらいには、この前とは随分と私の周りの風景は違っているように見えた。怖くなった私は、学校が終わるとすぐに家に戻り、レオの部屋をノックして、寝起きの彼に今日の出来事を伝える。


「……というわけなの。一体何が何だかわからなくて……」

「……ふむ。未来ってのはふとしたきっかけで変わってしまうってことじゃないかな?」

「ふとしたきっかけ? 私別に何も今日はやってないよ?」


 ナナミがトラックに轢かれないように遅く家を出て、この前と違う事があったとすれば、精々職員室にレオが休む事を伝えに行ったくらい。それくらいで未来が変わるなんて私には到底思えなかったが、それは姉さんの主観でしかないとレオはばっさりと切り捨てた。


「例えば、友達がトラックに轢かれたっていう事件だけどさ、数秒タイミングが違えばそんな事件は起こらなかったよね。運悪く姉さんは1回目も2回目も3回目も、同じくらいのタイミングであの場所に向かってしまったから何度も友達が轢かれる現場に遭遇してしまったわけで。例え時間が同じでも、『トラック来てるよ気を付けて!』とか叫んだら向こうも気づくかもしれないね。大した違いはないかもしれないけど、それでも結果は変わる。姉さんが職員室に入ったり、一度聞いたからって友達の話を退屈そうに聞いている、ただそれだけでも、周囲の人は前回とは違う事を考えるようになって、行動も変わる、そういうものだと僕は思うよ」


 レオの説明に一週間くらい前にあった出来事を思い出す。テレビのニュースでキリンを見て、久しぶりにキリンのマスコットキャラクターでおなじみのあのジャガイモのお菓子が食べたくなってコンビニに向かった私。そのお菓子の横に並んでいた別のお菓子が、残り1個だったからキリがいいなと思って結局そっちを買った私。テレビのニュースでキリンを見なければコンビニには行かなかったし、横にあったお菓子の在庫がもう少しあれば気にも留めなかったはず。


「なるほど……言われてみれば、あの数学教師は実は家族想いって噂だから、レオが休む事をわざわざ職員室に伝えに行った私を見て好感度が上がって指名しなかったのかもしれない。ナナミはああ見えて他人の変化に敏感だから、退屈そうだった私に気づいて、私が食いつきそうなバラエティの話をしたのかもしれない」

「実際はどうかわからないけどね。僕達はロボットじゃないんだ、同じ一日を繰り返すなんてそもそもふざけた話だけどさ、毎回のように同じ行動を取ることなんてできないよ。姉さんが朝家の中でダンスをしようがシャワーを浴びようが、友達はそんなこと知らないからメッセージを送って一人で学校に行くだろうけどね」


 これから何度、時間が巻き戻るような事が起きるのかはわからないけれど、その原因以外が、毎回同じである保証はない。一挙一動に注意しないといけない。少し私も面倒だな、と思ってしまったので、楽しい事を考えようと能力の有効活用について想像してみる。


「うーん……ねえレオ、何かうまい使い方、ないかな? 私あまり頭良くないし、性格捻くれてもないから、悪知恵も働かないのよね」

「……働かせる必要はないよ。姉さんにも僕にも、こんな能力は身に余る。あくまで、時間が巻き戻らないように動いて、この能力が消えることを考えるんだ」


 楽観的な私を苛立ちを隠さない表情で睨み付けて、パタンとドアを閉めるレオ。巻き込まれたからというのは確かにあるだろうけど、どうしてあそこまで不機嫌なのだろうと、自分の部屋に戻って私服に着替えて、とりあえずベッドにダイブして寝返りを打って屋上を見て。


「あ、そっか」


 何となく、レオの不機嫌の理由がわかって。きっとレオは、私に嫉妬しているのだろう。本当なら私よりも、彼の方がこの能力を欲しがっているはずだ。私がレオなら、すぐにでも半年前に飛んで、恋人が亡くなるのを防ぐ。けれどもそれは叶わない。姉の私が不都合な現実を書き換えて行くのを、指を咥えて見ているしかない。


「……でも、私だって、いい未来にしたいし」


 レオの気持ちはわかる。けれど、私だって人間なのであって。やり直せるなら、やり直したいに決まっているのでありまして。もやもやした気持ちになった私は、脳内にリュウくんを出現させて脳内デートと洒落込むのでありました。


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