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Story 6.ゲロ飲み少女



注:貰いゲロを起こす可能性がありますので苦手な方は充分お気を付け下さい。また、吐いても当方では責任は負いませんので予めご了承下さい。



 土曜日。

 学校が半日で終わると、私の席に少女が二人やって来た。一人は円らな瞳と髪型以外、夏奈子とそっくりな子で、もう一人は真田 夏奈子さなだかなこだ。

「有紀雄、紹介するわね」

 そう言ってそっくりさんを差す夏奈子。

 そっくりさんは「真田 夏奈絵さなだかなえです」と名乗り、頭を下げた。

「双子の妹よ。この娘、一寸事情が有って転校してきたの」

「え、夏奈子に妹居たの?」

「居たわよ」

「でもこの前は会わなかったよな?」

「この娘、帰国子女きこくしじょなのよ。一昨日まで亜米利加アメリカに居て、昨日帰ってきたの」

「へえ、そうなんだ。で、今日は挨拶って訳?」

「そう言う事」

「あの、宜しくお願いします」

 言って夏奈絵は私にキスした。

「なっ!?一寸、夏奈絵!」

 夏奈子が夏奈絵を引き離す。

「・・・・・・」

 私は言葉が思い浮かばず、夏奈絵を見つめた。

「ごめんね。この娘、亜米利加暮らし長いから」

「柔らかい」

「夏奈絵!」

 夏奈子が夏奈絵の耳を引っ張り口元に寄せて囁いた。

「(あんた巫座戯てんの!?有紀雄は私の彼氏なのよ!?有紀雄の彼女でもないあんたが勝手にキスしないで!)」

「夏奈子、そんなに怒るなって。此奴だって悪気が有ってやった訳じゃねえんだからよ」

「・・・有紀雄がそう言うんなら、許してあげるけど・・・」

 と夏奈子は夏奈絵の耳を放した。

「んじゃ、帰るか。夏奈子」

 私がそう言うと、夏奈子が可哀想な者を見る目で見詰めてきた。

「はぁ・・・可哀想に。あんたって、自己紹介も出来ないの?」

「澤田 有紀雄だ」

「見た目は格好良いけで中身はただの変態よ」

 私が名乗ると夏奈子が要らぬ事を言いやがった。

「夏奈子ちゃん、それは違」「キモーイ」

 私が言い終える直前に夏奈子が言った。

「何が?」

「ちゃん付けが」

 私は辺りを見回して三人以外に誰かが残っている事を確認すると大声でこう言った。

「皆、聞いてくれ!このクラスに居る真田 夏奈子って、バイなんだってよ!」

 すると夏奈子の中でブチッと何かが切れた。堪忍袋の緒か、疑問符。

「あーんーたーねー!」

 夏奈子が私を睨む。

「一寸来なさい!」

 私は夏奈子に腕を掴まれて廊下に連れ出された。

「今ので私が同性もありだって勘違いされたらどうするのよ!?」

 私は教室の方に耳を傾けた。

「真田がバイ?マジかよ」

「バイって何?」

「ああ、バイってのは、男でも女でもどっちでもありって意味だよ」

 既に話題になっていた。

「有紀雄!」

「事実だろ?」

「今すぐ取り消さないと死ぬまでこれで殴るわよ!?」

 言って取り出したのは釘を打つトンカチだった。

 夏奈子が恐ろしくなった私は「取り消してきます!」と慌てて教室に入って皆に嘘だと伝えた。



 帰り仕度をして校舎を跡にした私たち三人は、校門の前を歩いていた。

 右に夏奈子、左に夏奈絵。両手に花とはこの事か。

「モテモテねぇ」

 唐突に夏奈子が言った。

「何が」

「あんたよ、あ・ん・た。女の子二人に挟まれて歩くなんてあまり無いでしょ?」

「小学校ん時はしょっちゅうだったけど」

 とは言っても、男二人だが。

「・・・・・・」

 夏奈子が珍しそうな物を見る感じで見詰めた。

「何だよその顔?」

「あんたがねぇ・・・」

「???」

「ま、確かにイケメンだし、有り得るかも。でも性格がねぇ・・・」

「何が言いたいんだ?」

「何でも無い。それより何か食べて行こうよ。駅前の美味しいお店知ってるからさ」

「良いよ。真田は?」

 と夏奈絵に振る。

「え、あ、あたしは、その、二人の邪魔になるし・・・」

「何遠慮してんのよ」

「え、良いの?」

「良いに決まってるじゃない。ね?」

 と私に振る夏奈子。

「あ、ああ、勿論だ」

 人数は多い方が楽しいからな。

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 こうして三人は、夏奈子が知ってると言う駅前のお店に行く事になった。



「あそこよ」

 駅前に来ると、夏奈子が古臭そうなそば屋を指差した。

「「・・・・・・」」

 私と夏奈絵は言葉を失った。

「どうしたの?」

「否、随分と古いなと思って」

「何か今にも崩れそうだよね」

「関係無いでしょそんなの。要は美味しければ良いのよ、美味しければ」

「そもそも美味いのか?」

「私の舌に狂いは無いわよ」

 夏奈子はそう言うと一人先にその店に入って行った。

 正直こんな所で食いたくない。

 私は夏奈絵の手を掴むと、駅まで駆けていた。

「え、え?お蕎麦は?」

「あんな所で食えるか。構わず走れ。夏奈子が出て来る前に」

 私は時折後ろを顧みながら走り続ける。

「お姉ちゃん怒るんじゃないかな?」

「あいつが怒っても怖くねえ」

 そう言い切って私は定期を出して改札を抜けた。

 夏奈絵も定期を出して続く。

「間もなく、2番線に電車が──」

 と電車進入のアナウンス。

 私たちは2番線ホームに向かい、丁度停車してドアを開いた電車に乗り込んだ。

 ドアが閉まり、電車が発車する。

「どうしたかな、あいつ?」

「有紀雄?」

 背後から声がした。

 私は恐る恐る後ろを見た。

 そこには、何かを企んでいる様な笑みを浮かべた夏奈子が立っていた。

「お姉ちゃん、何時から居たの?」

 と訊ねる夏奈絵。

「ずっと居たわよ。有紀雄、降りたら覚えておきなさいね」

「降りねえ」

「あんた、何処まで行くつもり?」

「何処でも良いだろ」

「良くないわよ。あんた、自分が何したか解ってるの?折角お店を教えてあげたのに逃げたのよ?それなりの覚悟って物はあるんでしょうね?」

「何だ、覚悟って?」

 電車が止まり、ドアが開いた。

 夏奈子は咄嗟に私の手を掴んで電車を降りた。

 妹もそれに続く。

「俺、もう一駅先なんだけど」

 と言ってる間にドアが閉まり発車してしまう。

「なっ、行っちまったじゃねえか!」

「知らないわよ。そんな事より、今から家に来なさい」

「はあ?何で」

「良いから来なさい」

 その言葉に私は少し考えて行く事にした。

「解ったよ。行けば良いんだろ?」

 言って私は三人で真田家へ向かった。



「で、お前の言う覚悟ってのはこれか?」

 私は夏奈子ん家のキッチンに立ちながら、横に居る当人に訊ねた。

「誰の所為でお昼食べ損ねたと思ってる訳?あんたの所為よ、あ・ん・た・の」

「・・・リクエストは?」

「え?」

「リクエストだよ。何が食いたいんだ?」

「そうね・・・」

 夏奈子は考え込んだ。

「うん、この間あんたの家で食べた炒飯で良いわ」

「よし、解った。下がってろ」

「何でよ?」

「味を盗まれたくないから」

「あ、そ」

 夏奈子はキッチンを跡にした。

 私はキッチンを適当に漁り、材料を見付けると料理を始めた。

 そして作業から僅か30分。三人分の炒飯が完成した。

「夏奈子、炒飯出来たぞ!」

 そう言うと、夏奈子が夏奈絵と一緒にやってきた。

 私は夏奈子と夏奈絵にお皿に盛った炒飯を渡した。

 二人は食卓に着いて「頂きます」と炒飯を口に運んだ。

「美味いか?」

 そう訊ねながら、私も炒飯を持って食卓に着き、食べ始めた。

「お、美味しいです」

 と夏奈絵。夏奈子はどうだろう。

「うーん、この前のと比べると余り美味しくないわね」

 その言葉、しゃくに障った。あのネタやってやるか。

「そうか。最高級の猛毒エキスを使ったのに美味しくないか」

「ぶぶーーーーーっ!」

 夏奈絵が突然吹き出した。あれ?

「あんたバカじゃないの?家に毒なんかある訳無いでしょ。それと夏奈絵、今のは有紀雄の悪い冗談だから気にしちゃ駄目よ」

 ちっ、有紀雄ん時みたいに行かないか。だったら・・・。

「持参した猛毒エキスなんだ」

「「・・・・・・」」

 二人が口を閉ざして可哀想な者を見る目で見詰めてきた。

「(バカって言ってやりなさい)」

 と夏奈子が夏奈絵に耳打ちをする。

「あの、お姉ちゃんがバカって言ってます」

「夏奈絵!」

「夏奈子、冗談を間に受けないお前の方がバカだからな」

 そう言うと、ぐちゃっと私の顔に炒飯が半分程残っているお皿が被せられた。

「ごめーん、手が滑っちゃった。大丈夫?」

 私は皿を退かしてテーブルの上に置くと、顔に付着した米粒を掻き集めて口に詰めて飲み込んだ。

「お前な、人が作った食べ物を粗末にするな」

「大丈夫よ。被せたのはあんたのだから」

「何!?」

 私は自分の皿を見た。確かに、顔が埋まった跡がある

「夏奈子、お前飯抜きな」

 私は自分の飯を平らげ、夏奈子のを取りあげた。

「何すんのよ!?人が折角食べてんのに!」

「知るか。飯を粗末に扱う奴には飯なんかあげねえ」

 私はそう言って夏奈子の分も平らげた。

「私の炒飯よ!?」

 夏奈子が椅子の上に立ち、テーブル越えて襲ってきた。

「うわっ!」

 椅子から投げ出された私は、床に落ちて夏奈子の下敷になった。

「お、落ち着け夏奈子!」

「五月蝿いわね!今すぐ吐き出しなさい!」

 無茶な注文だ。

 やってやれない事は無いが・・・否、やっぱ無理だ。夏奈子に私の胃液ごと食わせるなんて無理!

「ほら、早く吐きなさいよ!」

「お、お前は吐いた物をどうするんだ?」

「食べるに決まってるでしょ!?」

 その時、夏奈絵が引いたのは言うまでも無い。

「お前、俺の胃液ごと食う気か?」

「それがどうしたって言うのよ!?」

「胃液だぞ、気持悪くねえか?」

「あんたのなら平気よ」

「・・・・・・」

 私は夏奈子の言葉に引き攣った。

「何よその顔!?」

「い、今、私の中のお前の株が下がった」

「下げるな、上げろ!」

「解った、解ったから少し落ち着け、な?」

「私の炒飯返してくれたらね!」

 言って夏奈子はプイッと横を向いた。

 食って気が済むならそうさせてやるか。

「夏奈子、俺の腹を思いっ切り叩け」

「思いっ切り?」

「ああ、そうだ」

ガスンッ!

 夏奈子の強力なパンチが腹に食い込んだ。

「う゛っ!」

 何かが私の胃から食道へ上がってきて、口内に溜まる。

 傍らで顔を真っ青にして佇んでいる妹が確認出来る。

 私は夏奈子の顔をこちらに向けて唇を近付ける。

 夏奈子は抵抗もせず、口と口を合わせた。

 私は夏奈子の口内に炒飯ゲロを送り込んだ。

 ゴクゴクとそれを飲む夏奈子。とても気持悪い奴だと思った。

「ぷはっ」

 飲み終わった夏奈子が唇を離した。

「ご馳走様、美味しかったわ」

 此奴、イカレてる。

「気持、悪く、ないか?」

「平気よ、あんたのだから」

 マジで引くわ此奴。


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