Story 4.日曜の危ないデート
日曜、午前8時。
空腹で目を覚ました私はベッドから出てカーテンを開けた。
空は雲一つ無い快晴。
飯食って夏奈子ん家に行って弄ぶか。
私は部屋を出て階段を降り、キッチンに移動して朝食のしたくを始めた。
「って、何を作ろう?」
そこへ有紀雄がやって来てリクエストをする。
「俺、炒飯食いてえ」
「炒飯だな・・・って、何で居るんだよ?」
「腹減ったからだよ」
「バカ。飯なんか食ってる暇あるか。お前は私なんだ」
「だから何だよ?」
「バイトに行け。日曜はバイトの日なんだ」
「え?」
「9時からだからな。今から走れば間に合うだろ」
「で、でも腹が・・・」
「食ってる暇なんか無いと言った筈だ。解ったらとっとと行け」
「ちぇ。で、何処だよ?」
「駅前の喫茶店だ」
「そうか。行ってくる」
言って有紀雄は出て行った。
「炒飯食おう」
私は有紀雄のリクエストした物を作り、食卓に運んで食べた。
ピンポーン
半分くらい食べた所で家のチャイムが鳴った。
私は食事を中断して玄関に行ってドアを開けた。
その先に居たのは私の彼女だった。
「暇だから来ちゃった」
夏奈子は笑みを浮かべて家に上がり込んだ。
「俺は未だ良いなんて言ってない。住居不法侵入罪で警察に連れてくぞ」
「そんな事したら殺すわよ?」
と睨み付ける夏奈子。
「冗談だ」
「そう。あら、良い匂いね。炒飯?」
「よく解ったな。大正解だ」
「誰が作ったの?」
「俺」
「え、あんたが!?あんた、ご飯作れたの!?」
「疑ってんの?何だって作れるぞ」
「そう。じゃあさ、今度私ん家来て作ってよ。家でご飯作れるの春樹だけなのよね」
「親は?」
「早朝から仕事」
「良いじゃん。弟に作らせとけば」
「駄目よ。可哀想だもん」
言って涙を零す夏奈子。何か事情があると見た。
「解った。作りに行く。所で飯は食ったのか?」
「未だ」
「何か食べるか?」
「良いわよ、別に」
言って頬を赤くする夏奈子。しかし。
グゥ〜
夏奈子の腹の虫が鳴いた。
「・・・食べる」
「何が良い?」
「何でも良いわ」
そう言ってリビングに入る夏奈子。
「あ、これ食べて良い?」
夏奈子は私の食べ掛けの炒飯を見るとそう言った。
「それ俺の食べ掛けだぞ」
「知らないわよそんなの。食べて良いよね?」
私は暫し考えたが、結局折れる事にした。
「良いよ」
「有り難う」
そう言って椅子に座り、私の食べ掛けを口にする。
「美味しい。ホントにあんたが?」
「疑り深いな、お前」
「ホントにあんたが作ったんなら凄いわよ。あんた、調理実習の時ケーキを思いっ切り焦がしてたしね」
有紀雄だ。
「あ、あん時はどうかしてたんだよ、屹度」
「はーん?あんた、5回もやり直してたじゃない。あれで偶々だって言えるの?」
と夏奈子が可哀想な者を見る目で見た。
「あ、あれは態とだ。お前の気を惹く為の」
「あんた、バカじゃないの?」
墓穴を掘った私はドーンッと音を立てて両手を床に着いた。
確かに夏奈子の言う通りだ。あんな事で女子の目を惹く事なんて出来ない。
「まあ、ある意味引いたけどね」
「引かれちゃ意味無えよ」
「そうね。ご馳走様」
食べ終わった夏奈子がスプーンを置く。
ああ、私の炒飯が・・・。カムバック、私の炒飯!
「つーかさ、何しに来たんだ?」
私は立ち上がり様に訊いた。
「先刻言ったじゃない。暇だから来たって」
「じゃあさ、何処か行かねえか?休みの日に一日中ゴロゴロするってのもあれだろ」
「あんたがそうしたいなら付き合っても良いけど、何処へ行くの?」
「・・・・・・」
何も考えてなかった。
「何も考えてないの?」
私は頷いた。
「じゃあ映画行かない?」
「映画?」
「私ね、見たい映画があるの。一緒に行こうよ?」
「ああ。良いけど」
「じゃあ決まり。仕度してきて頂戴」
「はいはい」
私は部屋に行き、デートに最適な服を選んで着替え、玄関に来た。
「遅い」
「しょうがねえだろ。服選んでたんだから」
「ふうん。まあ良いわ。行くわよ」
言って先に家を出て行く夏奈子。
私は靴を履いて家を出ると、ドアに鍵を掛けた。
「場所は何処なの?」
「駅前のシネマビル。そんな事より早く行こうよ」
そう言って私の手を掴んで歩き出す夏奈子。
駅前に来ると、夏奈子は迷う事無く目的の建物へと入って行く。
「あれを二枚お願いします」
夏奈子は窓口スタッフの後ろにある『こちらときめき高校』と言う物を指差した。
名前から察するに恋愛物だろう。
「一般の方でしょうか?二人で3,600円になります」
夏奈子は私の脇腹を小突きながら生徒手帳を出した。
私はポケットから生徒手帳を取り出す。
「失礼致しました。3,000円になります」
夏奈子がまた脇腹を小突く。私に払え、と言うのだろうか。
私は仕方なく財布を取り出し、中から千円札を三枚出して窓口に置いた。
「自由席になっておりますので、お好きな席をお選び下さい」
言いながらお金をレジに仕舞い、チケット二枚と交換する。
私はそれを取り、一枚を夏奈子に渡した。
「上映まで一時間はあるわね。何処かでお茶でもしましょ?」
「そうだな」
私たちは一旦建物を出ると、向かい側の喫茶店に入った。
「いらっ・・・」
目の前の店員が固まった。そして汗をタラタラ流す。
その店員の正体は有紀雄だった。
「姉貴、何で固まんだ?」
「え、この人が有紀雄のお姉さん?」
夏奈子は元私をまじまじと見詰める。
「意外と可愛い顔してるのね」
私はその言葉に赤くなってしまった。
褒められてるのは有紀雄なのに何故。
「つーか、この人固まってるわよ」
「ああ、それは多分俺たちと鉢合わせしたからだ。おい、固まってねえで働け」
私は目の前で固まってる有紀雄の胸を突いた。
「うわあっ!」
有紀雄が反射的に私を突き飛ばした。
その勢いで私は尻餅を着いた。
「痛!」
「有紀雄、大丈夫?」
「ああ、何とか」
「マスター!」
有紀雄が店長を呼ぶと、髭を生やしたハゲ頭が慌ててやって来た。
出たな、クロちゃん。
「有紀檸くん、どうかしたのかな?」
「この方が私の胸をいきなり触ったんです!」
「脚色し過ぎだぁ!お前が固まってたから我に返らせてやっただけじゃないか!」
「お客様、少しお話しを伺いましょうか」
言って店長が私を睨み付けた。嫌な予感がする。
店長は私の手を掴むと、Staff onlyと書かれた扉の向こうへ連れ込み、そしていきなり私を殴り付けた。
ガスン!
私は勢いで倒れてしまった。
「何すんだこのハゲ頭!」
「は・・・ハゲ頭だとぉ!?」
神経を逆撫でされた店長が拳をポキポキ鳴らす。
「俺の一番気にしてる事を言いやがったな!?貴様は生かしちゃおけねえ!」
店長の拳が一気に降ろされる。
私は慌てて寝返りを打って間一髪攻撃をかわした。
そこへ丁度、有紀雄がやって来た。
「グッドタイミング!お前、此奴を止めてくれ!」
「どうすれば良いんだよ?」
「やめて下さい店長、と後ろから抱き付くんだ。それで止まる」
「そんなキモイ事出来るか!」
「良いからやれ!私の命が懸かってんだ!」
「わ、解ったよ」
有紀雄は店長の背中に抱き付いた。
「やめて下さい店長!」
するとどうだろうか。店長は落ち着いて「はーい」と甘えた声で返事をした。
私は立ち上がり、有紀雄の耳元で囁いた。
「(こいつ、私にベタ惚れなんだよ。だから私の言う事なら何でも聞いてくれるんだ)」
「(マジかよ!?)」
「(ああ、マジだ。それと多少の事は我慢してやってくれ)」
「(多少の事?)」
「(胸触ったりケツ触ったりするセクハラ行為だ)」
その途端、有紀雄の顔が真っ赤になった。
「(姉貴は良いのかよそれで)」
「(言うなりになるんだから安いもんだろ)」
「(えっ、俺、先刻思いっ切り殴っちゃったよ)」
「(なっ!?拙いだろそれ!ハゲ頭の中の私の株が下がったらどうすんだ!?)」
「(否、殴られて嬉しそうな顔してたぞ此奴)」
そうか。Mだったのか店長は。
「お前、此奴を死なない程度に殴っとけ。ストレス発散には良いだろう」
「良いのかよ!?」
「だって此奴、Mなんだろ?問題無しじゃん」
「ああ、適度にやるよ。つーか、夏奈子ちゃんとデートか?」
「ま、まあな」
「頑張れよ」
言って有紀雄は出て行った。
「お前、有紀檸くんとはどう言う関係だ?」
二人っきりになった途端、ハゲ頭がそう訊いてきた。
「知りたいか?なら教えてやる。俺のコレだ」
言って私は拳を作って小指を突き立てて見せた。
「うぉーっ、失恋したー!」
店長は豪快に泣き出した。本当に私に惚れてたんだな。
可哀想に思えた私は本当の事を言ってやる事にした。
「悪い、今のは嘘だ。本当は姉弟だ」
「えっ、そうなの?」
泣き止んだ店長が目を丸くして私を見る。
「何だ。だったら最初からそう言ってくれれば良いじゃないか」
ガハハ、と笑いながら私の背中を強く叩く。
「弁解する前にあんたが此処に連れ込んで攻撃してきたんだろうがよ。つーか、痛えぞハゲ!」
と最後にハゲを強調しておく。
「ハゲ?」
ヤバイと思った。離れよう。
「じゃあ俺、デート中なんで失礼します」
そう言って出て行こうとしたが、項を掴まれてしまった。
「一寸待て」
「な、何ですか?」
私は冷や汗を掻いた。
ガスンッ、バキッ、ドカッ!
全てが終わり、私はボロボロの姿で倒れていた。
結局最後はこうなるのか・・・。
その後、何とか自力で夏奈子の下に戻り、一緒に映画を見た。
恋愛物では無くホラー映画だった。
放課後に主人公が好きな娘に告白しようと声を掛けたが、実はそいつはゾンビで主人公に襲い掛かると言った内容だ。
凄く怖かった。
もう夏奈子と映画は見ない。そう心に決めた私だった。