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この愛の果てに  作者: 祐里
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出会い

《出会い》



春の体育館……

初めてユリを見た。


中学生の時の選抜合宿。


春の日差しが暖かに降り注ぐ研修センターの体育館で。

俺は3年生になりたてで、ユリは1つ年下の2年生。

数人しかいない2年生だけど、特に身体が大きい訳でもなく目立つ事もない普通の子。

他の子たちみたいに、ガムシャラにプレイするでもなく淡々としている不思議な雰囲気。

普通は合宿から選抜チームに選ばれるために、ガツガツとアピールする物なのに、ユリは全く物怖じしないというか?自然体というか?

フットワークなどの基礎練習でも特に俊足だったりする事もない。

正直にいうと何で選ばれたんだろう……?って思ってしまうくらい。

ボールを扱う技術も特に素晴らしくもなく、声だしを元気にする事もない。

その淡々としたプレイを際立たせるような容姿。

真っ白い肌に茶色の髪……瞳も茶色くて……今にも消えてしまいそうな半透明みたいな??

全ての色素が足りないみたいな……?オーラとかが全然ない?


それが紅白戦が始まった途端に……。

豹変した!!!

始まる前のコートサイドで俯いていたユリは、突然に鋭い視線で顔を上げた。

今までとは別人のような顔つきになって。

その豹変ぶりに俺の視線は釘付けになってしまった。

女には飽き飽きして興味すら薄れてしまっていた俺なのに。


そのプレイは淡々として冷静で、さらには細い小柄な身体を物ともせずに大柄な人にも向かっていく……勝ち気全開なプレイ。

このタイプの選手だとリーダーシップに長けてる人が多いのに、そういう感じではなく活かされてチームの役割を果たすタイプのプレイヤー。

変な表現かも知れないが、とにかく全てがチグハグでバラバラの個性を発揮してるのに、1つの人格として存在してる可笑しな感じ。

もう異星人を見てしまったくらいの衝撃を受けた!!


でも、そんなに良く見ていたって事は、きっと一目惚れだったのかもしれないな。

特に美人とかではないけれど、透き通るような不思議な姿を一目見て、好きになっていたのかもしれない。



選抜合宿なんていうのは練習さえ終わって、自由時間になってしまえば所詮は中学生。

ただの修学旅行まがいの騒ぎになるのだけど、しかも合宿中は学年も学校も関係ないから、大きな合コンみたいな?勘違い連中も出てくる。

ユリは孤立する訳ではないけれど、キャピキャピとする女子と行動を共にしていても、柔らかに微笑むだけで……。言葉を発するのも見なかった。無口なのか?


そのうちに、いつもの様に俺は女子に囲まれてしまう。

「連絡先を教えて?」

「彼女いるの?」

「今度遊びに行きませんか?」

集団になった女子は強気で押しが強い(笑)

全てを爽やかな笑顔で切り抜ける……女なんてどうでもいい。

彼女??抱かせてくれる女ならいるよ?って答えていいの?


子供のころからモテすぎて、さらには痛い目にもあってきた俺は、中3にして女への興味を失ってしまっていた。


どうせ見た目だけだろ?俺の何を知って声をかけてんだよ?


ひねくれた可愛くない中学生だったけど、それなりの理由と心にキズを持ってしまって。


ガヤガヤが落ち着いて、そろそろ部屋に戻ろうとした時に、あの不思議な雰囲気のままの後ろ姿がを見つけた。

誰に声をかけるでもなく、フワッと集団から外れてロビーに向かっていた。


趣味が悪いけれど後をつけてしまった。そこでコーチから氷を受けとると長椅子に座って膝に当てた。


あっ……そういえば装具を付けてプレイしていたな。

普通は堂々とアイシングしたりするのに、何故か一人でコッソリと座っているのが……?


「痛むの?」

話しかけると驚いたのかビクっと身体を震わせた。

「あっ……はい……」

下を向いたままボソボソと聞き取れない声で話す。

「向こうで冷やせばいいじゃん?」

ユリ「賑やかなので……」

これ?!静かな所だから聞き取れるけど、皆の中だったら聞こえないだろうな(笑)

幼稚園くらいの人見知りする男の子と話してるみたい(笑)

「ここにいてもいい?」

ユリ「楽しいですか?」

楽しいか?(笑)楽しいよ!!なんでだか分からないけど楽しい(笑)何なんだろう?この不思議なイキモノ(笑)

俺は思わず笑顔になってしまって、俯いたままの顔を覗きこむ。

真っ赤になって更に下を向く(笑)

どこまで顔を隠すのか?(笑)あまりに面白くて、どんどんと深く覗きこむ。

ユリ「恥ずかしいので……」

恥ずかしいので?なに?(笑)

「あんまり無理しないで練習終わったら、すぐにアイシングした方が楽だよ?(笑)」

しつこくして嫌われるのもバカみたいだから、それだけ言うとそこから離れた。

背中越しにタメ息が聞こえてきた(笑)



その合宿中は、それ以上はユリと接触する事はなかった。

でも俺の興味は増す一方で……練習中もチラチラと目で追ってしまう。

小さな身体って言っても、この合宿に来てる人ではってだけで、たぶん170センチくらいはあるのだろう。

本人には小さいって意識は、まるっきり無いようだった。

このプレイならポジションを上げてもらえたら、もっと楽にプレイ出来そうなのにな……。

そんな事まで考えてしまっていた。


ユリは俺の事など何にも見えてないんだろうな。

こんなに凝視するほど見ているのに目が合う事はなかった。

そんな意識しないでくれてるのも俺にとっては好都合だった。

ご機嫌をとってくる女の子には興味なんてなかったから。



合宿の最終日……

選抜チームのメンバー発表があった。


監督が紙を読み上げる……


「男子キャプテン、前沢ケイ」


俺「はい。」



キャプテンか。

メンバーには選ばれるとは予想していたけど、キャプテンなのか。

自チームでも部長をやっていて、こういう役職には慣れてはいたけれど、選抜のキャプテンというのは、さすがに緊張するな……。


その後も名前はドンドン呼ばれ続けて男子12名の発表が終わった。



監督「女子は今年はメンバー決めは難航したけれど、この12名で頑張っねもらいたい。」


ユリは選ばれるかな?

まだ、もう少しプレイしている所を見てみたい。

でも下の学年から選ばれるのは難しいかな?実力的にはイケる気がしていたけど、将来性とかも重視しているから、あの身体では難しいかも?


10名までの発表が終わる。

ユリの名前が呼ばれる事はなかった。


監督「ポジション変更があるけれど選ばさせてもらった。

佐藤ユリ。」


ユリ「はい……。」


ぷっ(笑)

その声じゃ聞こえないだろ?(笑)その呟くような返事(笑)コートの中ではスゴく通る声を出す子なのに。何でこの場面で、その声の大きさ?(笑)声の音量調整がオカシイだろ?(笑)

俺は今にも大声で笑いそうになってしまって、肩が震えてしまっていた。


無事にユリは選ばれていたけれど、ポジション変更が不服なのかブツブツと監督と話し合っていた。

不服に見えるけれど、もしかして不安?なのか?

そんな顔で話していたら監督に思いは通じないんじゃないか?

気にして見ていると

ユウタ「よっ!キャプテン(笑)」

同じチームから選ばれたユウタが声をかけてきた。

「あぁ(笑)」

ユウタ「あの子、気になる?」

「別に……。」

ユウタ「そう?ずっと合宿中も見てたでしょ?」

「(笑)」

ユウタ「ケイが女の子見てるなんて珍しいから、俺も見ちゃったよ(笑)」

「(笑)」

ユウタ「好みなの?ケイはモテるのに、あの子?(笑)」

まぁ、そんなに目立つ子ではないし、どちらかといえば少年みたいな子。女の子らしい感じは一切ない。

細いわりにガッチリした肩と筋肉質な腕と脚。

その身体つきと似つかわしくない胸と顔。

そんな所もチグハグな感じで。個性的?(笑)

ユウタ「選抜にも選ばれてたし、またチャンスはあるんじゃない?っていうよりケイが声をかけたら付いてくるだろ?」

「いや……無理だな(笑)」

ユウタ「?」

「話しかけてはみたんだよ(笑)」

ユウタ「いつ?(笑)相変わらず手が早いな?(笑)」

「人聞き悪い(笑)」

ユウタ「その通りだろ?(笑)で、ダメだったの?」

「(笑)」

ユウタ「なんて女だよ(笑)」

ユウタが言うように俺にとっては興味を持ってくれない女なんて初めてかも知れない。


この頃の俺は自惚れていたし、女なんて……ってひねくれてもいた。






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