第92話「攻撃的なパンツの盾」
「ところで魔石の換金はしないのか。踏破したという事はそれなりに取得したのだろう」
「一部は換金しますが、かなりの量になってしまいましたので、それは後日という事で……」
魔石は全て謎空間に収納している。
あれだけの量を突然出したらさすがに怪しまれる。
三人のポーチに詰め込んでおいた合計三十個の小さな魔石と、俺もそれとなくポケットから十個の小さな魔石を取り出して、換金した。
換金額は銀貨四十枚。
三層で詰めた魔石だが、どうやら質が良いらしい。
ともあれこれで今日の宿泊代は問題無い。
「ふむ、他に得られた物は無いのか」
「ああ、それならシュウさんの持っているこれですかね」
俺が横に退いて、シュウが左手に持っている爪盾パンツァーを見せた。
グレイディアは受付から出て来ると、まじまじとそれを見た。
「ほう、盾か。それにしては攻撃的な外見をしていて面白いな」
「ええ、パンツァーと言いまして、実はこれは――」
「ちょっと貸してみ……」
俺の言葉の途中でシュウから盾を取ってしまったグレイディアは、それを両手いっぱいに持って構えて見せ――。
次の瞬間、グレイディアの特注制服、そのタイトなズボンが弾け飛んだ。
白、純白の下着が目に入った。
黒ずくめの男の前でズボンが吹き飛んだ金髪幼女。
この光景だけ見れば実に犯罪的だろう。
「やべえぞ! 丸見えだ!」
「ババアのズボンが、無い!」
「俺は見たぞ! 黒い兄ちゃんが話しかけたらズボンが吹き飛んだんだ!」
「野郎とんでもねぇ事しやがって!」
「退避だ! 退避しろ!」
「何だ!?」
「魔族か!?」
「黒い兄ちゃんがババアのズボンを剥ぎ取りやがったらしいぞ!」
「あれを勇者とか言った奴誰だよ! ただの変態じゃねえか!」
「見るな! ぶっ殺されっぞ!」
「逃げろォッ!」
喧騒を演じた荒くれ共は一瞬で退散し、冒険者ギルドには嫌な静寂が訪れていた。
職員達が呆然と流れを見守る中、俺は冷や汗の出る思いを押し殺し冷静を装いつつ、紺藍のマントを脱いだ。
パンツが丸見えとなり爪盾パンツァーを抱えたまま立ち尽くす小さなグレイディアにそれを羽織らせ、俺はシュウへと視線を向ける。
「グレイディアさん、この盾は何やらズボンを弾き飛ばす呪いの様なものが掛かっているらしく……」
「……」
「こちらのシュウさんも同じ様にズボンが弾け飛んだのです。ですからこうして腰にシャツを巻いて隠しているのですが、その――」
装備の解呪とかの方法はあるのかと聞こうと思ったが、停止したグレイディアが恐ろしくて俺は口を噤んだ。
「――そのマントはお貸ししますので」
「……ない」
「え?」
「下着だから恥ずかしくない」
「そうですか、そうですね」
マントに包まったグレイディアは恥ずかしくないと、凛とした表情で俺を見据えてはっきりと言った。
しかしどうしてその頬が瞳の様に赤いのか。
いや、俺は何も見ていない。
「どうもこの度はお世話になりました」
シュウが爪盾パンツァーを回収し、俺達は冒険者ギルドを出た。
ギルドから一歩出ると、遠巻きに俺を見る荒くれ共の視線が突き刺さる。
俺は善良な冒険者だ、何もしていない。
「とりあえずスカートを買って、メイド服を発注して……。パンツァーを解呪出来るか試して来ようか」
「は、はい」
「ライ、大丈夫?」
「いいじゃないご主人様、これでもう絡まれる心配はないね!」
「お、おう……」
オルガのポジティブさには頭が下がる。
元々絡まれた事なんてほとんど無いが、確かにギルドのお局グレイディアに喧嘩を売った俺に絡む者なんていないだろう。
しかし次にグレイディアに会うのが億劫というか、恐怖だ。
とぼとぼと俺は街を歩いた。
まず目指したのは以前下着を購入した高級な服屋だ。
スカートを三着買い、シュウはそれに着替える。
シュウはひとまずスカートを身に付ける事になった訳だが、やはりズボン系でなければ大丈夫な様だ。
しかしスカートは機能性としてはズボンに劣る。
脚を守る様な作りではないから、防御を捨てたミニスカートでもない限り男装の方が戦いには向いているのだ。
メイド服は別だが。
あれは、そう、俺を鼓舞する機能が搭載されているから、あれは別だ。
ともあれシュウの服装はひとまず落ち着いた。
その間に俺はメイド服を参考として店員に渡し、銀貨一枚袖の下に同様の物を出来るだけ早く作るよう注文した。
さすがは王族の下で使われるメイド服だけあって同等の物を短期で作るのは厳しいらしい。
素材の質が落ちるらしいが、特段素材にこだわる必要もないので了承した。
五日もあれば出来るらしいので、この期間はひとまず休息と情報収集に当てるとしよう。




