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第90話「窓際の変化」

「しかし俺らはどうするよ」

「仕事が無くなっちまったな」


 土の迷宮が消滅した事で、此処の見張りの仕事もまた消失した。

 俺がやらなくともじきにこうなっていただろうが、彼等からすれば微妙な心境なのだろう。

 一応見張りに二人を残し、残りの二人が俺達と共に街へ戻る事になった。


 彼等には報告だけでなく職務の異動やら何やらのやり取りがあるのだろうから、お疲れ様である。


 ようやくと長い検問を終え、平野を囲む無意味となった柵を通り抜けると、街道の隅の雑木林に潜む銀髪縦ロールと金髪女騎士が居た。

 フローラとエニュオだ。

 たいそう暇なのだろう――という訳ではないのだろうが、彼女らもまた呆然と土の迷宮だったものを眺めており、立ち尽くしている。


 身を潜めているとは言えないか。

 今回はフローラが慌てて雑木林に突っ込む事が無かったから、もうあの姫尻を拝む事も無いだろう。

 気付かない風に真っ直ぐと街道を歩き去る。




「待ってくださる、ライ様!」


 ああ、捕まった。

 振り返るとフローラにエニュオ。

 相変わらずのバイザーと胸当てにロングコートな装備の白い軽装騎士スタイルだ。


 俺達と共に来た騎士二人が、フローラとエニュオを見て突然態度を改めた。


「これは近衛騎士殿。この様な所に……如何様ですか」

「ただの視察だ、捨て置け」

「はっ」


 エニュオは近衛騎士というのか、一目で見分けるという事は、あの白い軽装備こそがその象徴なのかもしれない。

 姫の護衛をするくらいだし、いくらか上の階級だろうか。

 彼女には半ば勇者と断定されている為かほぼほぼ対等に接して来ていたから気にしていなかったが、一般冒険者でしかない俺からすれば姫であるフローラどころか、姫の騎士であるエニュオでさえ上位の者だ。

 基本的に真面目な気質の様だし、何よりこういった高圧的な言動をそのよく通る声色で聞いてしまうとこちらまで姿勢を正しそうになる。


「ライ様、こちらで一体何をなされたのですか?」

「見た所ライ殿ご一行しか見られませんが」

「迷宮を倒しました」

「たお……」

「……した?」


 エニュオが呆然とし、フローラは首を傾げる。

 確か此処いらでまともに迷宮攻略が行われていたのは数十年前までと聞いたはずだ。

 グレイディア――つまり何年生きているか知れないロリバアちゃんの知恵袋であるから、時間の感覚もおかしい可能性がある。


 その数十年が果たして本当に二桁単位の年数なのかは知れない。

 それも過去に攻略されていたのが土の迷宮だったとは思えない。

 ましてや調度迷宮が自壊するところに居合わせるなんてとても珍しい事なのではないだろうか。


 他者からすれば迷宮の自壊。

 俺からすれば迷宮を倒したというか、壊したという形になる。

 俺はグレイディアから知識だけは得ているからそういった想像がつくが、迷宮攻略が盛んではないこの時代に生まれたフローラ達には理解し難いかもしれない。




「黒い兄ちゃんは近衛騎士殿と知り合いなのか」

「知り合い……ああ、はい。そうですね」

「そ、そういやエルフも連れてるよな。もしかして……」

「ただの冒険者ですよ、変な気は使わないでくださいね」

「そ、そうか。ならいいんだ」


 エニュオと俺をちらちらと見ていた騎士の男が耳打ちして来たので、適当に返しておく。


「すみません、私達は迷宮攻略での疲労も溜まっていまして……。そろそろ街へ向かいますね」

「あ、ライ様……」

「何か?」

「いえ……」


 フローラはお忍びだろうから、あまり詮索されるとまずいはずだ。

 お前のせいでバレたじゃないか等と要らぬ問題を抱えるのもうまくないし、とっとと離れるのが吉だ。

 フローラとエニュオは当然の様について来る訳だが、もはや何も言うまい。


 一番困るのは騎士達がビクビクしている事だ。


 塔の街の騎士達はフローラとエニュオが居てもここまでの反応は示さなかったから、何かしらやましい所があるのだろう。

 それに土の迷宮の警備自体、ちょっと窓際な感じがしなくもない。

 そんな彼等からしてみれば、無言でついて来る近衛騎士様とコスプレ縦ロール姫は恐怖でしかない。




 若干暗い騎士達と共に塔の街へと戻ると、詰所に向かった彼等と別れ俺達はギルドへと向かった。

 そういえば、毎度フローラとエニュオはギルドまではついて来ない。


 何はともあれ、騎士達からずれた噂が広まる前に、俺という冒険者が土の迷宮を踏破した事を知らしめる必要がある。

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