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第89話「土が散る」

 迷宮から発せられていた淡い光が収束し、暗く静寂に包まれた。

 天は暗黒、地は平原。

 目前には肌と下着の――白と黒の衝撃。


 いつの間にか俺達は土の迷宮から吐き出されていた様だ。


「終わったな、俺達の勝利だ」

「あ、あの、ライ様。ズボンを頂けませんか……」

「履いてみます?」

「はい!」


 ズボンを謎空間から取り出して渡すと、シュウは嬉々として脚を通す。


 シャツを引き下ろす手が離れた事で、再び見えるものが見えてしまっているので俺はしかと見届ける。

 良い太さである、素晴らしい。

 すらりと引き締まった長い膝下と、対照的にむちりとした太股。


 純粋な日本の血ではこうはなるまい、ありがとうおじいちゃん。

 あまりにあんまり過ぎるその美と肉の権化を凝視しながら、ズボンを腰まで引き上げ包み隠されたそれに物悲しさを覚えたが、次の瞬間には目を剥いた。

 履き切った瞬間に、ズボンが弾け飛んだのだ。


「ひゃ!?」

「……」

「ううう……」

「とりあえずこれをどうぞ」


 凄い光景だった。

 何というか、3DCGで作った映像の如き見事な弾けっぷりだった。

 ズボンを弾き飛ばすパンツァー、撃滅撃滅、眼福眼福。


 真っ赤になったシュウを見かねてシャツを取り出して手渡すと、それを腰に巻いて事なきを得た。

 どうやらズボンの類でなければ弾け飛ばないらしい。


「何でこんな事に……。わ、私もしかして太ってますかね」

「いやいやまさか、そんな、良い身体ですよ。自信を持ってください」

「そ、そうですか?」


 どうやら爪盾パンツァーのせいだとは思わないらしい。

 俺はてっきり呪いの装備かとも思ったが……。




「オルガ、ちょっとパンツァー持ってみてくれ」

「あ、ご主人様そういうのが好きなんだね」

「やっぱいいや。シュウさん、俺に貸してください」

「ええ!?」


 オルガは察している様で、何やら面倒なので俺が装備してみた。

 するとズボンが弾け飛んだ。

 ご丁寧にトランクスとコンバットブーツは残ったままだ。


「わっ!?」

「すみませんシュウさん、軽率に持たせてしまって。やはりパンツァーのせいみたいですね」

「ひ、ひゃい……」


 真っ赤になって両手で顔を覆い隠したシュウは、しかしその指の間から俺の下半身を凝視していた。

 俺の様に変態ゆうしゃに片足を突っ込んでいる訳ではないだろう。

 シュウは年頃の女なのだ、仕方ない。


 度重なる戦闘とラッキースケベ、目に焼き付いた白と黒の衝撃に、ちょっとばかり俺の土竜が隆起している。

 最近どうにも堪え性がない我が息子は、死地に置かれた影響と、シュウという理想の肉体美が間近に居る影響かもしれない。

 これは生理現象なのだ、仕方ない。




 俺は視線を一身に浴びつつ仁王立ちしていたが、爪盾パンツァーをシュウに渡して新しいズボンを履いた。


「あ、あの、これやっぱり私が持つんですか?」

「そうですね。盾攻撃というのは魅力的ですから、慣れる為にもそれがいいでしょう」

「そ、そうですか……」


 とはいえ服装が厳しい。

 ズボンの類が履けないという事は、何かスカートでも買うしかないか。


 ……そういえばメイド服があったな。

 あれはスカート状にそれなりの長さもある。

 それに長過ぎないから、シュウがタンクをしている際に背後に回ればこう、後方から見え――。


「街へ戻ったら服屋でメイド服を発注しましょう」

「メイド服……ですか?」

「ええ、シュウさんが地下に着て来たあれならスカート状ですから、ズボンの様に破損はしないでしょう」

「なるほど!」

「それにあれを型に作ってもらえば、量産もそれほど時間は掛からないでしょうし」

「ありがとうございます!」

「いえいえ」


 シュウのメイド服を着せる口実が出来上がった。

 あって良かったメイド服。

 やはりシュウにはあの服が似合っていると思うのだ。


「ライ!」

「ご主人様!」


 ヴァリスタとオルガに呼ばれて、はっとして振り返る。


「どうした」

「ライ、おかしい!」

「一体何考えてたの? 凄い顔してたよ」

「いや、今後の戦略を練っていたんだ。やはりシュウさんをタンクとして俺はその後方につくのが良いのではないかとな」

「ふうん」

「絶対嘘だよ」

「馬鹿言え、俺はいつだって勝利だけを目指している。考えても見ろ、俺の指揮で勝てなかった事は無いだろう? こうして常日頃勝利に対して貪欲であるからこその戦果だ」

「そっか、うん!」

「ヴァリスタ、乗せられてるよ!」


 下手な口実を作らずにスマートにシュウへメイド服を着せられるこの状況、勝利に他ならない。


「さあ、帰ろうぜ!」

「ライ、嬉しそう」

「ああ、最高にハッピーな気分だ」

「はっぴー?」

「嬉しいって事さ」




 俺は消失した土の迷宮を颯爽と後に……出来なかった。


 検問の騎士達に捕まったのだ。

 ぼうっと土の迷宮だったはずの平野を見つめて立ち竦んでいた彼らだが、別に捕縛されるとかではなく、単純に質問攻めにあった。

 何故なら俺達しか入っていない土の迷宮が消え去ったのだから。


「突然光ったと思ったら消えてんだもんな、一体何したんだよ」

「ボス……守護者を倒しました。土の迷宮内部のモンスターも全てです」

「本当かよ……。いや、でもこの状況は……」

「黒髪黒目って、噂の黒い兄ちゃんか」

「やっぱ勇者ってのはすげえな。先王時代がぶっ飛んでたはずだぜ」


 先王時代にも勇者が居た、というのはおかしな話ではない。


 シュウの存在もあるが、何より俺の高級トランクスもその先王時代に作り出されたものだからだ。

 俺と同様におとされたか、はたまたレイゼイの様に地下に出現してしまったか。

 ともあれその勇者を基準に扱われては困る。


 二人の検問と、詰所に待機していたもう二人。

 計四人に囲まれて問答していく。

 内容はただこうだ――。


「土の迷宮を踏破したのは勇者ではありません。俺達、冒険者です」


 この地下で円滑に行動する為に、俺は冒険者として名を広める。

 この検問の騎士からも他の騎士や民間人に伝わり、人伝に広まって行くだろう。

 噂というのは捻じ曲がり、誇張されていくものだ。


 だから俺は、冒険者でなければならない。

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