第87話「土の迷宮、土粒的確」
二刀流は駄目だ、少なくとも今の俺では扱いきれない。
恐らく二刀流によりダメージが減衰している、ピーキー過ぎるのだ。。
それに疲労感が半端ではない、これは能力値云々の話ではなく直接肉体に負担が掛かっているのではないだろうか。
バタフライエッジアグリアスをオルガに渡し、再びカイトシールドを構える。
アースイーターが俺を狙って来てくれればいいが、この調子では俺が単独になった所で跳び出しては来ないだろう。
防御能力が無いアースイーターに大ダメージを叩き込んだのだから当然と言える。
あの時俺が反撃で与えたダメージは1687と想定していたダメージより遥かに少ないが、それでも一撃浴びせられた。
問題なのは先程からパーティ後衛ばかりを狙って跳び出す様になり、明らかに俺を避けているのだ。
これでは埒が明かない。
時間は既に十分を経過しており、入口の靄は薄くなっている。
何よりオルガのMPが減りつつある。
精霊魔法はスリップ消費だが、距離が広がるほど消費効率が悪くなりゴリゴリと削られる優しくない魔法だ。
だから本来戦闘で使うものではないのだろう。
もしかすれば二刀流というスキルがあるかもしれないと思ったが、少なくともスキル取得には存在しない。
であれば通常、攻撃に関してはやはり武器一本が最適という事になる。
「仕切り直しだ、一旦引くぞ」
そうして靄を潜り抜け、初戦闘は撤退に終わった。
薄くなった靄を全員が抜けると再び濃くなって、しばらくすると靄は晴れた。
そこにはまるで最初の状態が復元されていた。
再度部屋へ踏み込むと再びアースイーターの出現から始まるという事か。
という事は当然ボスも全快の状態でお出ましになるのだろう。
アースイーターは見た目に反して非常に敏捷だ。
現状こちらの勝ち筋はアースイーターの攻撃を受け止めての反撃。
しかしそれすらも圧倒的な腕力と高速後退の迅速の相乗効果で届かない。
律儀に攻撃を受け止めて隙を作らせなければならないのは、マップも精霊魔法も阻害を受けており出現位置が予測出来ない為だ。
予測……。
何かあった気がする。
何処かで見た、直感の――。
そうだ、あのロリババアの――グレイディアの持っていた、感覚を鋭くするスキル。
一見すれば役に立ちそうにもないが、しかしグレイディアの感覚はあまりに鋭かった。
それは俺のターゲット表示すら感じ取り、事ある毎に突っかかって来る程だ。
思い出すだけで胃が痛くなりそうだ。
取得するならば俺か、オルガか……。
いや、オルガだな。
感覚が鋭くなった所で、俺のマップという機能に変化はない。
しかし精霊魔法ならどうだろうか。
その原理は不明だが、しかし相乗効果で見破れる様にならないだろうか。
そしてオルガの武器は弓。
出現場所さえわかってしまえば、わざわざアースイーターの攻撃を盾受けせずとも地中から跳び出した際に先手を仕掛けられる様になるはずだ。
メニューを操作し、スキルを探す。
鋭敏 10SP
これだ。
オルガのSPを消費して、鋭敏を取得させた。
「オルガ、精霊魔法を使って見てくれ」
「え? いいけ……どっ!?」
オルガが俺の顔を見て硬直する。
大きく開いた深緑の瞳と、半開きの口。
何だその顔は。
「何か変化は?」
「い、いや。うん……」
「鋭敏という感覚強化のスキルを取得させたんだが、これでもしかすればアースイーターの位置を探れるかもしれない」
「わかった、やってみるよ」
二戦目、全員のHPとオルガのMPも全快状態だ。
入場すると、入り口に靄が掛かり地震が発生する。
シュウは最初の様にあからさまに慌てる事は無かったが、ぴたりと俺にくっついた。
未だに地震が怖いのだろう、俺的にはラッキースケベ発生装置だが。
アースイーターが出現するこの地震の間、右腕に触れるシュウの感覚を得られる訳だが、これはあれだな、俺が鋭敏を取得しておけばもっと――
「ご主人様」
「お、おう」
――突然背後から凄んで来たオルガに滅茶苦茶睨まれて、俺は盾を構えた。
オルガ、こんな真面目だったろうか。
とにかく今はアースイーターだ。
「どうだ、位置は把握出来るか?」
「精霊魔法自体は変化が無いみたい」
「そうか……」
「でも精霊魔法と併せれば、出て来る位置はわかるよ」
精霊魔法への強化には繋がらなかったが、オルガ自身の強化には繋がった様だ。
ともすれば地震の中心から位置を予測出来る様になったという事か。
「地中から出て来た瞬間に射ってくれ」
「任せてよ」
その言葉と共に、オルガは突然に射った。
地面が盛り上がり、アースイーターが頭を覗かせた瞬間――その目前には既に矢が到達していた。
もはや予測、予知に近い攻撃。
それは精霊魔法と併せてこそ出来る芸当だろう。
その鼻先に矢が直撃すると、矢は突き刺さる事こそなかったものの十全にダメージを与えている。
アースイーターは防御能力が無い為か、盛大に怯んでのた打ち回った。
もはやアースイーターに後手に回る必要は無い。
ここからは、一気に削り切る。




