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第86話「土の迷宮、土溜天敵」

 二刀流――。


 あの時は筋力値が足りないとかで構えるだけでも辛かったが、今回はそうはならない。

 何せ今の筋力値は2250もある。

 実際の肉体に変化は見られないが、それでも確かに構えられる。


 二刀流にする理由は至極単純で、まず追加効果の神速を受ける為だ。

 神速には攻撃速度上昇効果がある。

 先程は攻撃が直撃する前に逃げられたが、この効果で引き上げた攻撃速度でなら強引に叩き斬れるはずだ。


 そして神速には接敵速度上昇効果もある。

 これならば、迅速で容易に引き離される事も無いはずだ。

 あわよくば追撃も可能かもしれない。


 しかしバタフライエッジアグリアスの追加効果にはその最たる特徴とも言える逆光が含まれている。

 逆光は能力値に反比例してダメージが変化するから、今の俺の筋力値ではバタフライエッジアグリアスで攻撃しても恐らくダメージは入らない。


 そこで二刀流だ。

 実際にどうなるかは知れないが、嵐のロングソードにバタフライエッジアグリアスの追加効果が直接発揮されなければプラスの効果のみを受ける事が出来るはずだ。




 アースイーターが飛び出し、シュウがカイトシールドで受け止めた瞬間、俺は嵐のロングソードを振り下ろした。




「な……」




 避けられた。

 それも先程とほぼほぼ同様に。

 先程までアースイーターが手を抜いていた訳ではないはずだ。


 腕力でもって飛び退いたアースイーターへ追撃を仕掛けるも、しかし追い付けない。

 土中へと潜り込むその体へと嵐のロングソードを振り下ろした時、既にアースイーターは逃げ延びていた。


 俺の剣が、脚が、遅れているのだ。


 おかしい。

 能力値に減衰が見られない所からすると、もしかすれば盾と同様に表記されない補正が掛かっているのだろうか。

 いや、それで間違いないだろう。




 神速の恩恵を受けてなお等速。

 恐らく二刀流によって動きにマイナス補正が掛かっている。

 そして以前二刀流にした途端まともに構えられなくなった事からしても、余分に力を使っている可能性がある。


 思えば単純に二倍攻撃が出来るというのに、二刀流の者など一人も見た事が無い。

 この世界の者はステータスから予測して行動する俺とは違って、あくまで現実的に、実戦の中で覚え、戦っていく。

 そういった者達が使わないのだから、少なくとも有効な手段ではなかったのだ。


 動きが鈍くなる盾持ちよりも更に強いマイナス補正――二刀流とは、諸刃の剣なのだろうか。




「ご主人様、戻って!」

「ぐっ!?」


 珍しく慌てたオルガの声にはっとしたのも束の間――真下から跳び出して来たアースイーターに剣を合わせて防ぐも、その雑なガードを抜いて来た一撃に胸を突かれた。

 突かれた胸は突撃槍の如き爪先との間に発光を起こし、それがクリティカルヒットであると俺は直感した。

 まるで大人と子供ほども力の差があるのではないかという程、軽々と俺は浮き上がった。


 その光景に、浮遊感に、一瞬死んだのではないかと思って――しかし嫌に冷静な頭が真下のアースイーターを見据えさせた。


 力も入らぬ宙で、落下と共に嵐のロングソードを叩き下ろした。

 力が入らないというのはまた、俺に突貫したアースイーターも同様だった。

 単独となった俺を嬉々として狙ったのだろうが、しかし真下から“跳び出す”という事は、俺の攻撃範囲に無防備に踏み込んだという事だ。


 アースイーターは豚の様な鳴き声を上げて、のた打ち回りながら土中へと逃げ返って行った。




「ライ!」

「ご主人様!」

「ライ様!」

「悪い、無事だ。心配掛けたな、陣形を組み直すぞ!」


 駆け寄って来た仲間達に、俺は冷静に返していた。

 急所はまずい――。

 塔でゴブリンの頭をかち割った時からずっとそう考えていたが、どうやら認識に齟齬があった様だ。


 思えばまともにクリティカルらしきもの――つまり発光現象を見たのは、勇者の一人である九蘇の攻撃と先程のアースイーターの攻撃だけだ。

 あの敏捷幸運特化型のグレイディアでさえ、ゾンヴィーフへの攻撃で発光現象は起きていない……はずだ。

 はずというのは、ゾンヴィーフはカウンタマジックで光りまくっていたから見落としていただけかもしれないが、しかしそれらしきダメージ量の変化は見れなかったはずだ。




 今回は違う。

 アースイーターによる俺の胸部――つまり急所への一撃で、いわゆるクリティカルヒットが発生したのだ。

 ダメージは170で、通常の二倍といっていい。


 そしてクリティカルは恐らく“弱点部位を突いた際に確率で発動”なのだろうと思う。

 だからこそいくら幸運値が高くともクリティカル連発とはならないし、逆に弱点部位を把握する心眼を持つ九蘇は当たり前にクリティカルを出していたのだ。

 ドラゴン戦の土壇場で九蘇がその顎下を狙ったのもまた、そこが弱点部位だったからだろう。


 そして恐らくクリティカルが発生すれば防御上昇の追加効果も貫通して来る。

 何故なら俺の防具ハードジレは、胸部に硬質化が入っているはずだからだ。


 間違いない。

 そして急所を突いてHPを0にすると、恐らく即死する。

 だからこそ塔で俺がゴブリンの頭をかち割った際に、ドラゴンの顎下を斬り抜いた際に、即死したのだ。




 俺が冷静でいられたのはこの発見のおかげでもあるが、しかしどうにも俺の中に「HPが無事だから大丈夫」という考えが定着しつつあるようだ。

 これは恐ろしい事だ。

 何せ胸を貫かれる様な強い衝撃がある中で、無意識に視界の左上にあるHPバーを確認して何の感慨も無く反撃に転じてしまったのだから。


 急所を突かれて致命傷を負わなかったのだからそれは感覚も狂う。

 ステータスが見れるというのは危険過ぎる。

 いつかHPMPの見れる俺のパーティ編成が麻薬的な中毒と考えたが、まさしくその通りだった訳だ。

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