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第85話「土の迷宮、土隆点盛」

「オルガ、精霊魔法を」

「任せて」


 MP自動回復用にバタフライエッジアグリアスを取り出して渡すと、弓を肩に掛けてそれを手に取った。


 オルガが精霊魔法で探知出来るか、これは非常に重要だ。

 俺のマップが地中には作用していない事から、この地面に浮かぶ文様に阻害されているのかもしれない。

 アースイーターはお構いなしに地中へと潜って行くから、俺達が不利な地形であると言える。


 しかしあの能力値からして、アースイーターは一撃必殺を狙うタイプと見える。

 こちらには俺とシュウの二枚の壁があるから、滅多な事では突破されない。

 能力値からしても守りを固めれば耐え忍ぶ事は容易だ。


「右手側に居るみたいだね」

「距離は?」

「ごめん、大まかにしかわからないみたいなんだよ」


 どうやら精霊魔法も多少の阻害を受けているようだ。

 本人の談によればオルガは精霊魔法に大きな適正があるらしいから、他のエルフであればこうはいかなかったかもしれない。

 とはいえ地の利は敵側にある。


 完全にアウェーな環境だ。

 しかし方角さえわかれば盾受けに問題は無い。

 であれば少なくとも負ける事は無い。


「オルガは俺の後ろ、ヴァリーはシュウさんの後ろに付け。奴の攻撃を見切るぞ」


 一撃必殺を狙って来るのならば、重要なのはダメージを稼ぐ事ではなく致命傷を負わない様に立ち回る事だ。

 的確に急所を狙われればどうなるかは想像もしたくないが、防御能力に乏しいヴァリスタとオルガを庇いつつとにかく隙を見付ける。


 多少離れた位置に土が盛り上がると瞬間、突撃槍の様な五本爪を纏め上げた切っ先をこちらに向けて、アースイーターが飛んで来る。

 カイトシールドでもって受け止めて、ダメージは85と微々たるものだ。

 しかしやはりノックバックが発生し、立て直した時には既にアースイーターは遠く離れ土中へと戻って行く。


 それを数度繰り返し、あちこちを掘りまわしたアースイーターにより土の隆起も多く点在するようになった。

 アースイーターはこの一撃離脱戦法しか取れないと予測して行動を組み立てる。


 剛腕による肥大化した上半身と貧弱化した下半身ではバランスが悪く継戦能力は芳しくない。

 腕での強引な前後移動で下半身の弱さをカバーしているのだろう。

 例えば俺達の真下から跳び出せば後衛に大打撃を与えられるが、その場合取り囲んで袋叩きにすれば終わりだ。


 そこで後退速度が上昇する迅速を活用しての一撃離脱なのだろう。

 当然反撃に打って出れば行動パターンが変わる可能性もあるが、ひとまず突撃に合わせての反撃を基本の戦法とする。


「シュウさん。次、受けられますか」

「はい!」

「よし、オルガ! アースイーターの方角は!」

「左!」


 俺を基準として全員が左方へと向き直る。

 土の隆起を見てシュウが腰を落とすと、そこから突撃槍のアースイーターが直進に突貫して来た。

 その右手は鋭く真っ直ぐにパーティの中央を狙い、シュウは微かに脚を摺り寄せ位置を修正する。


「くっ……!」


 ノックバックにずり下がるシュウにすぐさまオルガの回復魔法が飛ぶ。

 カイトシールドに突き込んだ爪の槍が離れるより早く、俺は嵐のロングソードを振り下ろした。




「早いな……!」


 俺の攻撃は容易く避けられた。

 アースイーターはフリーの左手で地面を打ち、飛び退いたのだ。

 振り下ろされた剣よりも早いその速度は、圧倒的な腕力に迅速を乗せた高速の後退によるものだ。


 貧弱な下半身を見て若干の余裕を感じていたが、動きがあまりにトリッキー過ぎる。


 そしてアースイーターの敏捷値は俺の二倍近くある。

 俺は敏捷値1500で確かに移動速度や攻撃速度は上昇しているが、それでも超人的とまではいっていない。

 つまり単純に二倍速く動ける訳ではないはずだが、アースイーターの持つスキルがその一撃離脱に上手く特化されており、数値以上に差が広がっているのだろう。


 強靭な腕力で数値以上に速度を出されるだけでも追撃は厳しいが、ましてや迅速により増強された後退速度には生身の移動速度では追い付けない。

 であれば有効なのは遠隔攻撃か。


「次は俺が受ける。オルガ、奴が引き返した先に矢を射れ」

「任せてよ!」


 次の攻撃を受け止め、俺の横合いからオルガが矢を放つ。

 地中へと潜ろうとするアースイーターへ吸い込まれる様に向かった矢は、しかし後一歩の所で避けられてしまう。

 そうして射程圏内から逃れたアースイーターは、次の攻撃からは更に遠方まで逃れて潜伏に移行する様になってしまった。


 ゴブリンと違い行動を変化させるだけの知能はあるようだ。


 こうなると直撃覚悟で殴り合うべきかと思ってしまうが、しかしあの爪の槍に直撃して無事で済む気がしない。

 こちらが安全策を講じる様に、あちらも安全策で対抗して来る。

 それを上回る手段が必要だ。




「オルガ、一旦剣を返してくれ」

「え、うん。どうするの?」

「上手くいくかはわからないが……」


 カイトシールドを謎空間へと収納した俺は、バタフライエッジアグリアスを空いた左手で受け取った。

 右に嵐のロングソード、左にバタフライエッジアグリアス。

 バタフライエッジアグリアスは長大な剣であり左右で少々バランスが悪いが、しかし今の筋力値ならば問題にはならない様だ。


 いつか――この地下におとされた当初、構える事すらままならなかったそれだ。

 ギ・グウに対し醜態を晒して以来、使う気にもならなかった二刀流。

 能力値の上がった今なら、使いこなせるのではないだろうか。

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