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第82話「土の迷宮、枯渇」

「ヨウ、行っちゃったね」

「生きていればまた会えるんじゃないか。それに他人の心配が出来るほど余裕はない」

「そうかな? わざわざ駆けつけて助けたりして、ボクはてっきりああいう子がタイプなんだと思ったよ」

「……それはないな」


 迷宮での目的はレベル上げと金稼ぎ、そして俺の活躍を知らしめる事だ。

 それになによりタイプといえば性格というよりシュウの肉体がストライクな訳で。

 あのしっかりとした腰つきから伸びる肉付きの良い太股などはそれはもう――いかんいかんけしからん。

 俺は心を鎮めて振り返る。


「さて、迷宮に戻ろうか」

「え!? 戻るんですか!?」

「まだ四層を見てないでしょう」

「でもご主人様、急ぎ過ぎじゃない?」

「この迷宮、グレイディアさんが言っていた通り自壊が近いんじゃないかと思うんだよな」

「自壊?」

「三層の強襲、モンスターの枯渇。迷宮に意思があるかは知らないが、他の層のモンスターを捨ててでも俺達を仕留めようとしていたんじゃないか」


 各々俺の考えを読んで勝手に納得したようだ。

 雑木林に生えたフローラの姫尻を遠景に眺めつつ、俺も思案する。


 今塔の街へ戻って休憩したとして、そろそろ魔族征伐戦から復帰した冒険者達も魔石拾いにこちらへ訪れる可能性がある。

 その際に一層にゴブリン一匹見当たらないとなればどうなるか――。

 俺が二層を突破した事は知られているだろうから、それと併せて二層、三層と下って行く者が現れてもおかしくない。


 そうして手柄を取られるとうまくない。

 無数に存在する冒険者の中で名を上げるには強烈な成果が必要だろう。

 それもハーピーの羽などの素材が流通しているという事は、もしかすれば塔の街以外では普通に迷宮攻略が行われていてもおかしくはない。


 つまり土の迷宮の最初の踏破者にでもならなければ、魔族征伐のインパクトに埋もれる可能性がある。

 そこで土の迷宮最下層まで下り、その証拠として丁寧にマッピングされた地図も提出してやれば冒険者の評価としては盤石なものとなるのではないだろうか。




 迷宮へと入りなおすと、やはりそこは静寂の土くれ。

 四層がどうなっているかは知れないから、モンスターが完全に枯渇しているかは知っておきたい。

 その偵察に併せてマッピングも完璧に仕上げてしまおう。


「俺が先導するからオルガはマッピングに専念してくれ。シュウさんは最後尾でもしもの事態に備えてください。ヴァリーもオルガの警護だ」

「うん」


 前衛に俺、中衛にヴァリスタとオルガ、後衛にシュウ。

 もうシュウも戦闘には慣れているから、この隊列ならば突発的な事態でも対処は容易だ。

 俺とシュウの盾持ちが前後に居る事でオルガもマッピングに集中出来るだろう。


 そういえばモンスターハウスでの報酬――つまり魔石の取り分だが、ヨウに持てるだけ持ってもらう事で決着がついていた。

 といってもヨウはどうやら本当に身一つだったらしく、俺の使っていないシャツを袋状に縛って詰め込み持たせてやった訳だが、それでも大量に余った。

 一応形だけ俺達もポーチに詰め込んで見せたが残った魔石は未だ回収しておらず、後で回収すると適当に言葉を濁しておいた。


 謎空間への収納が出来ないというのがあそこまで不便とは思わなかった。

 ともあれヨウを帰した今ならば土の迷宮は俺達の独壇場だ。

 誰に見られる事も無いため全部謎空間へ放り込める。




 一時間は歩いただろうか、一層は難なくマッピングを完了する。

 枝分かれした地形だが、それほど広いものでもなかった。


 二層はいわずもがな、ぐるりと外周を回ってマッピングし、中央の部屋も記入して終了だ。


 ようやくと三層に戻り、一層からマッピングしながら下るだけで三時間は消費している。

 まずは魔石の回収だ。

 魔石が迷宮に吸収される可能性も危惧していたが、どうやらそれは無いらしい。

 やはりモンスターを討伐される度――いや、生み出す度に迷宮は弱体化していくのだろう。




 魔石の回収が終わると二層からの階段まで引き返し、マッピングを再開する。


 まずは三層で一番初めに向かった左手前の部屋だ。

 狭い通路を通り抜け、大部屋に辿り着く。

 宝箱は勿論、エレメントも復活していない。


 記入を終えて引き返し、そのまま正面――階段から右手前の通路へ。

 こちらも左手前の通路と同様で、その奥には大部屋があった。

 ただエレメントが漂っているだけの部屋だ。


 左手前の部屋と同様の配置であるから、これはモンスターハウスより前に発生していたモンスターだろう。

 とすれば宝箱の無い外れ部屋という事か。

 エレメントを一太刀で斬り捨てて、大通りへと引き返す。


 こんな感じで大通りから伸びる左右三つずつ、合計六つの通路を探索した。

 左手前以外に宝箱は存在せず、ただ一体エレメントが漂っていただけだった。

 これは迷宮はモンスターを生み出したり単純な罠として配置する事は出来ても、モンスター自体を操作する事は出来ないという事なのだろう。


 とはいえエレメントがひとつの部屋を漂い続けていたり“当たり”部屋である右最奥の部屋はモンスターハウス化する前から数体のモンスターとヨウが交戦していた事から、部屋単位での指定配置も可能といった所か。

 俺はマップで待機状態のトラップ型のモンスターも見破れるから、モンスターを表す赤点にだけ注意して行動すれば問題無いという事だ。




 迷宮の攻略法もおおよそ固まって来た。

 三層のモンスターハウス部屋も抜け最奥についた所でマッピングもとうとう終わり、四層への階段がお目見えだ。

 此処まで事前配置されていたであろうエレメント以外と遭遇していない事から、モンスターは枯渇したと見て良い。

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