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第81話「勇者に血道を」

「さて、二層にはゴーレムが居るが、多分ヨウは遭遇していないよな?」

「そうだったの?」

「やっぱりな。あそこはゴーレム二体で今回の様に挟み撃ちを仕掛けて来る階層だ。外まで送るよ」

「でも私は――」

「ソロでは、無理だ」

「……」


 ヨウが帰路で死んでしまっては意味が無い。

 魔族征伐の勇者としてではなく、迷宮攻略の冒険者としてのライという存在を生で見た生き証人が必要だ。


「ねえ、やっぱり私の仲間にはなってくれないの?」

「残念ながら無理だ」

「でも、私は……。もう私が強いとは言わないわ、確かに貴方よりは弱い。でも――」

「俺の仲間である彼女らの選定基準、その最初にあるのは力でも技術でもない」

「――それは?」

「信頼出来るかどうかだ」

「信頼……」

「俺の仲間をいたずらに挑発した者を、警告を無視した者を、仲間には入れられない」

「そう……」


 それは上辺だけの理由だ。


 挑発ならヴァリスタも返していたし、何より俺達はそんな高尚な集団ではない。

 理由なんてどうだっていいのだ。

 ぶっちゃければ契約奴隷にでもなってくれるのであればヨウを仲間に加えてもいいが、この性格だし、それは無いだろう。


 第一ヨウは一貫して俺に「仲間になれ」と言っているのだ。

 俺の仲間になるつもりではないのだ。

 その時点でヨウの誘いは俺には届かない。




 それにまずヨウは力を求めている。

 その目指すべきところは知れないが、きっと何か目的があるのだろう。

 それを詮索するつもりはないが、血塗れで戦う程だ、それなりのものに違いない。


 しかし俺の仲間となれば、当然俺は俺自身の目的を優先させるから確実に反発が起きる。

 これは良くない。


 例えば俺の塔攻略を手伝う代わりに、ヨウの目的も手伝う、なんて事も出来ない。

 俺は塔を登れば元の世界へ帰るからだ。

 だからいくらヨウが戦力的に強力でも、仲間にする事はありえない。




 無言で歩きとうとう二層へ着くと、どうにもおかしな状況だった。


「おかしいな」

「そうなの? 私が来た時にはこの状態だったけど」


 そこには何もなかった。

 ゴーレムも居なければ、宝箱も開いたままだ。

 マップにも俺達しか映らない。


 ともあれ無事に二層を抜ける。




 随分久しぶりに感じる一層。

 長く大通りを歩きつつ、マップには赤点が表示されない。

 気味が悪い。


「オルガ、精霊魔法で探知してくれないか。MP消費は気にしなくて良い」

「わかったよ……。うん? 結構広く探ってみたけど、何も居ないみたいだよ」


 しんと静かな迷宮内に、足音だけが鳴る。

 その音も土くれに吸収されて、反発してこない。

 だからただ、嫌に静かなのだ。




 何も起こらず、モンスターも現れずヨウを迷宮の外へと送り出した。

 メニューを操作しヨウをパーティから脱退させると、その体をびくんと震わせ、赤い髪は微かに揺らいだ。

 立ち竦んだその赤い少女の瞳は、振り返ると呆然と俺を見ていた。

 少しして、小さく口を開いた。


「ねえライ、私がもっと強くなったら――」

「次に会う時はヨウの仲間を紹介してくれよ」

「――そう。わかった……またね!」


 何か再三の言葉を述べようとした彼女に、俺は口を挟んだ。

 答えがわかっていたかのように、彼女は頷いた。

 赤い髪をたなびかせ、大き過ぎるバルディッシュを担いで――切り傷と血とが肌にこびり付いた少女は立ち去ったのだった。




 彼女はきっと、これからも力を求めて行く。


 ただただ勇者に憧れていた、少年の様な少女。

 しかし俺にとって邪魔になるという理由で、突き放した。

 もしかすれば、今後ともあの猛獣の様な戦いを続けて行けば――


 見も知らぬ、何処かに赤く、消えて逝く。


 それもまた、仕方のない事だ。

 この世界の、軽い命だ。

 それが、冒険者だ。


 俺は、俺自身の為に往く。




 ただただ勇者を解放し、いつかの日常へと戻る為に。

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