第80話「土の迷宮、モンスターハウス!」
対峙するのはレベル10のゴーレム。
俺の攻撃をおよそ二十発叩き込んでようやく倒せる相手だ。
狭い通路においては前進を許さない為にも張り付く必要がある。
このまま前進を続けさせればヴァリスタ達の下まで辿り着いてしまうから、とにかく張り付いて片付ける。
その為今回はカイトシールドを捨てて特攻は出来ない。
ゴーレムの一撃は盾受けして595ダメージ、俺のHPは4500あるから七発までは受けられる。
オルガの回復で持ちこたえて攻撃を叩き込む。
一撃をもらう毎に刃で返し、与えるダメージは468ダメージ。
これを二発まで返して900以上を削れる。
悪くない、悪くないが後方の状況が気になる。
HPを見る限り苦戦はしていないが、時折ヴァリスタとヨウが削られている。
これはシュウのガードを抜いたゴブリンからの攻撃を受けているのだろう。
ヴァリスタもヨウも火力はあるからその度に片付けているはずだが、それでも痛い。
間接的な影響だ。
ヴァリスタとヨウへ回復が飛ぶ事で、俺やシュウへの回復が途切れるのだ。
此処に来て初めて回復薬を飲む。
HPが200回復するが、雀の涙とはこういう事を言うのか。
雑魚相手ならいざ知らず、回復魔法でないと無駄に飲むための時間を消費するだけのようだ。
飲み終わるとゴーレムが拳を振り上げたのが見え、回復薬の試験管を放り投げて盾を構える。
重い拳を盾受けし、斬る、斬る。
ようやく十発、半分削った。
後方を見てみると、オルガが弓でエレメントを打ち抜くところだった。
見事な射撃、これならばエレメントの固定砲台化の心配は無い。
ヨウもその手に持つバルディッシュの穂先でもってゴブリンを突き、目前であれば斧部分で叩き斬りつつ、火魔法でゴーレムを攻撃している。
ゴーレムは三体いるが、前方を闊歩する一体を除きまだまだ遠い。
ヨウのMP残量は十分だから余裕で落とせるだろう。
モンスター自体の数も減りつつある。
大量だったゴブリンは防御能力に乏しいからヴァリスタとヨウの火力であれば瞬殺出来るし、何よりシュウも手を出さない訳ではない。
その盾に取り付いたゴブリンを押し飛ばして叩き斬っている。
着実に数は減っている。
しかし回復が散漫になって来ている。
これは大部屋から溢れるゴブリンからの被ダメージによる回復の乱れと、そもそものオルガのMP残量が減りつつあるためだ。
HPが全快されないまま受け持つゴーレムを打ち倒すと、その奥に待つ残りの二体を見る。
前にゴブリン、後ろにエレメント。
嫌な構成だ、そしてやはりどちらもレベル10――だがゴーレムに比べれば敵ではない。
この土の迷宮において天敵と言ってもいいゴーレムが居なければこちらのものだ。
俺はカイトシールドを捨てて真っ直ぐにゴブリンへと突っ込む。
そのまま嵐のロングソードで薙ぎ払い、一撃で沈めると次の標的へと視線を移す。
串の刺さったドーナツのような土器色のそれをただただ見据え、地面を踏み抜く。
速度を緩めず、跳ぶように駆ける。
射出された土魔法を嵐のロングソードで受けると、土の柱は砕けて消えた。
しかし速度は落とさない。
どうやら魔法はノックバックが発生しないようだ。
土魔法の第二射が来る前に、エレメントを叩き斬った。
これで大通りから突入して来た三体のレベル10部隊は潰した。
後は大部屋に集ったレベル5の雑魚だけだ。
「待たせた!」
カイトシールドを拾ってシュウの横につく。
二人並んでもまだ隙間が出来るが、先程よりはずっと漏れは少ない。
「ヨウはゴブリン討伐に回れ、ゴーレムはしばらく放置で良さそうだ」
「わかったわ!」
ヴァリスタが漏れたモンスターを斬り、ヨウはバルディッシュの利点を生かし隙間からチクチクと攻撃を加える。
ゴーレムは一体落としていたようで残り二体残っているが、その二体はゴブリンの群れの後ろで立ち往生だ。
さすがに味方を踏み潰して来る事は無いらしい。
これで防衛は盤石なものとなった。
マップにも不審な点は見られない。
「魔力が切れそうだよ」
「悪いなオルガ、ここからは弓メインで良いぞ」
オルガはある程度MPが回復しているが、それでもあの激戦での消費は激しかったようだ。
しかし俺の予想以上に残量があるから、もしかすればエルフはMPの自動回復が早いのかもしれない。
ここからは一方的だ。
俺とシュウの防御を貫通してまともにダメージを与えられるのはゴーレムだけだが、そのゴーレムは近寄る事が出来ない。
エレメントはゆらゆらと姿を現した瞬間にオルガが射って片付ける。
ゴブリンの数も減りある程度勢いが収まって来た所で、どうやらモンスターハウスも終わりが見えてきたようだ。
「ヨウ、火魔法でゴーレムを狙い撃て」
ヨウの攻撃対象をゴーレムへと切り替えさせる。
数体残った向かって来るゴブリンを斬り、これにて制圧。
突発的で焦ったが、どうにかなるものだ。
「ふう……」
「そ、その。凄いわね」
「何がだ?」
「私、いつもボロボロになって戦っているのに、今回はそうはならなかった」
「盾役が居るからな」
「それだけじゃない! 何故だか、貴方の言葉は頭に入って来たわ! それで……勇者に憧れて、馬鹿にされながら剣を振っていた頃を、小さい頃を思い出したわ……」
それは戦闘指揮の効果なのだが、言わなくていいだろう。
何処かに遺る勇者の活躍を知って、訓練して、ヨウはこうした猪突猛進な性格となったのかもしれない。
伝説なんてものは、良い様に脚色されて後世に語り継がれるのだ。
その超人的な伝説を真面目に辿っていけるのは、もはや人ではない。
魔王を倒した伝説の勇者なんてのも、考えてみれば結局どちらも化け物同士なのだから笑えない。
詳しくはないが、貴族のご令嬢ともなれば必要なのは社交に美貌だろう。
剣や槍ではない。
だからこその、猪突猛進なのかもしれない。
「パーティで戦うって、こういう事なのね……。貴女たちを悪く言って悪かったわ。全然、弱くなんてない」
ヨウの言葉にヴァリスタはそっぽを向くが、別段嫌そうな表情は無い。
真っ向からの口喧嘩であったから、後腐れもないのか。
オルガはさっぱりした性格だし、精霊魔法で悪意が無い事にも気付いていたから問題は無いだろう。
シュウは少し自慢げな表情だ。
「それと、勇者の戦い……なんて言って悪かったわ。貴方はただ力があるだけじゃなかった。きっとこういうのが、本当の強さなんでしょうね」
「……そうだ、俺は勇者じゃない。冒険者だからな」
計らずも冒険者としての活躍の一ページとなりそうだし、ヨウが適当に脚色して尾ひれがついて、冒険者ライの活躍として広まれば願ったり叶ったりだ。
俺は黒い考えを抱きつつ、真面目腐ってヨウに応えた。




