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第77話「土の迷宮、延熱の視線」

 振り返ったヨウは悠長に俺の頭を凝視した後、目を合わせた。

 右に持った斧槍バルディッシュの石突を地面に突きさし深く息を吐き出すと、その戦士の顔付きは途端に緩くなる。

 猛獣の如き戦闘からは予想だにしなかったが、年齢は俺より下だろうか。


 といっても元からなのであろう強い目つきは変わらず――気丈といえばいいか、切り傷と赤を帯びた左腕は自身の血で濡れたのであろう。

 その腕を曲げ、腰に手を当て胸を張る。


「黒……確かライ、だったわね。私は――」

「後ろ! ゴーレム来てるぞ!」

「――ファイアボール!」


 接近するゴーレムを無視して話し出したものだから冷やりとしたが、ヨウは俺の言葉にすぐさまに反応した。

 振り向き様にゴーレムに火魔法を浴びせると、バルディッシュを両手でもって構え直しそのまま爆炎に突っ込んで行った。

 条件反射とも言える敏捷な動きは、その技術がスキルだけのものではない事を、そして恐らくそれが高度な訓練で叩き込まれたものである事をまざまざと見せつけていた。


 あの巨体のゴーレムに気付いていなかったというはずはない。

 しかしまるでスイッチで切りかえたかのように落ち着き払って俺を見ていた。

 その脱力状態からこうも素早く戦闘状態へと転じられるのは、普通ではない気がする。


 咄嗟に動けるというのは凄まじい胆力を備えているか、もしくはその状況を想定している証拠だ。

 例えば猫なんかは突発的な事態に身が竦み、硬直してしまうという。

 この動物的な反射を克服出来るのが人の強みであり、訓練による一種の慣れだ。




「待ってなさい! 話はコイツを始末してからよ!」

「オルガ!」


 ゴーレムをバルディッシュでもって横薙ぎに叩き付けるヨウだが、盛大に弾かれる。

 オルガに目配せすると、頷いてすぐさまに回復魔法を飛ばした。

 それを見送って、俺は盾を前に駆けだす。


「助太刀する!」

「はあ!? 何勝手に出て来てるのよ! 私がこんな石人形に……ッ!?」


 ゴーレムのボディーブローをバルディッシュの柄で受け止めて、ヨウは身を曲げて怯む。

 地を擦って後退したヨウの前へ躍り出ると、遅れてシュウもやって来る。


 ゴーレムの一撃は重過ぎるのだ。

 少なくとも体力が足りていない場合は衝撃を逃がさなければ受け止められないから、必然的にこうなる。

 ましてこのゴーレムは二層のものではない、三層であれば当然そのステータスも――。



ゴーレム 人形 Lv.10

クラス ロックゴーレム

HP 9399/10000

MP 0/0

筋力 1000

体力 1000

魔力 0

精神 0

敏捷 100

幸運 0

スキル 格闘術 重撃



 ヨウは一撃で714のダメージを負っていた。


 何せゴーレムのあの筋力値だ、彼女の能力値では全快状態の武器防御でやっと受け切れる威力。

 追加効果の防御上昇を貫通するという重撃が、どうやら武器防御を貫通しなかったのは幸いだ。

 武器防御というのは一時的に防御力を上げるという認識ではなく、完全に盾として作用すると考えていいだろう。


「げほっ……何、これ……」

「ゴーレムだ。物理特化のモンスター」

「一撃で、なんて……ッ!」


 バルディッシュを杖に立ち上がったヨウはオルガの回復を受けながら構えなおした。


「シュウさん、こいつはまずい。引いてください」

「わかりました!」


 HPで耐え抜く俺とは違い、シュウは体力と精神とで相手の威力を削ぐタイプだ。

 これは体力値の上から殴って来る特化型のゴーレムとは相性が悪く、この場面では俺が受け持つしかない。

 シュウが下がったのを確認して、ゴーレムの攻撃を引き受けた。


 重い一撃。

 ヨウほど弾き飛ばされない辺り、やはり防御面に関しては武器のバルディッシュより中盾のカイトシールドの方が性能は上か。

 この一体だけならば俺が受け持っている間に他の者が背後に回り込めば一方的に削り切れるのだが、生憎体力値が高すぎる。


 本来魔法で倒す相手なのだろうが、今の俺ならば――。




「近寄るなよ!」


 この言葉だけで、少なくとも俺の仲間達には相手が危険な奴だと伝わったはずだ。

 能力値が見えるというのは、それほどの強みだ。

 ヴァリスタの攻撃も恐らく1ダメージしか通らないだろうし、もしもの事態に備えてオルガは回復に専念してもらいたい。


 ヴァリスタは聡い子だし、オルガは変態だが理解力がある。

 シュウにしても先日のゴーレム戦で指揮を聞く重要さは痛感したはず。


 オルガの回復がヨウから俺に移行したのを確認し、カイトシールドを投げ捨てゴーレムへと向かう。

 能力値として明確に反映はされていないようだが、どうやら盾は敏捷を削いでいるようだから、この広い地形では高火力アタッカーとしての俺の能力値を殺す事になる。

 だから防御を捨て、斬り込む。


「ちょ、ちょっと! 貴方さっきの見てなかったの!? 物理攻撃は弾かれるわ!」

「大丈夫だ!」


 ヨウは先程の打ち合いでゴーレムの特性を把握している。

 どう見ても石の塊であるゴーレムに躊躇無く突っ込んで行く辺り性格が如実に現れてしまっているが、それでもやはりただの猛獣ではなかったようだ。

 異常な物理特化のロックゴーレムにおいて普通であればまともにダメージを与えられるのは魔法だけだが、それでもなお俺の筋力値はゴーレムの体力値を上回る。

 ロックゴーレムというクラスに存在するのであろう特殊能力硬質化が作用してなお、俺の攻撃は通って行く。




 468ダメージ。


 これが俺が一撃で与えた威力で、ゴーレムが反撃するまでに二度は叩き込める。

 思えばゴーレムには多少の敏捷値が存在していて、それでもこの動きの遅さ……全身硬質化しているせいで動きが緩慢になっているのだろうか。

 人が全身甲冑で耳が遠くなるように、盾で動きが遅くなるように、多少のリスクもあるという事か。


 弱点属性を突く嵐のロングソードによってゴーレムに弾かれる事無く攻撃出来るため、攻撃速度も阻害されない。

 敏捷値は圧倒的であり盾を捨てて嵐のロングソード一本という軽装でもあるため、ゴーレムの攻撃を避けるのは容易い。

 風属性の効果による緑色の剣閃を幾重にも連ねて、その膨大なHPを一息に削り切る。




 ゴーレムに叩き込んだ攻撃はおよそ二十発程度。

 俺自身の能力値をフル活用して戦ったのはこれが初めてかもしれない。


「まるで暴風じゃない――。これが、本物の勇者の戦い……!」


 当初、唯一戦闘への介入を危惧していた猛獣のようなヨウだが、今はまるで初めてモンスターに打ち勝った少年の様にその表情を無邪気に綻ばせて、倒れるゴーレムを、倒した俺を見ていた。

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