第75話「土の迷宮、既知との遭遇」
エレメントを倒し、ヴァリスタは1レベル上がっていた。
やはり敵のレベルが高く、なおかつ大きな差が開いていなければ経験値もうまいらしい。
ヴァリスタ 獣人 Lv.6
クラス 餓狼
HP 180/180
MP 0/0
SP 6
筋力 540
体力 90
魔力 0
精神 90
敏捷 540
幸運 540
スキル 良成長
状態 隷属
ステータスを確認し終え宝箱を蹴り開けると、そこには嫌に整った球体の石ころが入っていた。
二層での回復薬といいどうにも迷宮に馬鹿にされている気分だが、詳細表示をしてその考えは覆った。
ゴーレムの核 素材
ゴーレムの心臓部に当たる魔石。動力としての力は失われている。
素材だ。
もしかすればハーピーの羽に続いて属性付与に使える素材なのではないだろうか。
土の迷宮というくらいだし、もしゴーレムの核から付与できる効果が土属性であれば、水相手に強いという事か。
今現在使えるものではないのでひとまず収納しておく。
ゴーレムの核を宝箱から取り出すと、宝箱は迷宮へと溶けて行った。
二層の宝箱が今回のように迷宮へ還元されないのは、やはりあれがトラップとして存在しているからだろう。
恐らく人の欲を刺激する迷宮の餌なのだろうが、やはりこういった物も得られるのだ。
といってもこの土の迷宮が極端に人の出入りが無かったからこそこんな投げやりに配置された宝箱が残っていたのだろうが。
「さて、行き止まりだし引き返すか」
「ご主人様、ボクら以外の人が戦っている……かもしれない」
「どういう事だ?」
モンスターの湧く迷宮だから、他の者がモンスターと遭遇していてもおかしくはない。
しかしオルガの精霊魔法はそんな事までわかるのか。
「多分なんだけどね、人とモンスターが近くに居るみたいだから」
「多分?」
「あっちの方かな」
指差した方角は、左手を進んだ俺達とは反対の右手側。
恐らく大通りの一番奥の道へと向かった先か。
「ちょっと行ってみるか、どんな奴かも気になるし」
金目当ての冒険者か、怖いもの見たさの冒険者か……。
何にしても他の冒険者の戦いを見るのは悪くないだろう。
何せまともに他人の戦闘を見たのは脳筋十三騎士とグレイディアくらいだ。
純粋な冒険者の戦いは見た事が無い。
「他の奴が狙っているモンスターを奪ったら喧嘩になる可能性もあるから注意してくれ」
ここら辺は臨機応変といった所だが、魔石やドロップアイテムで取り合いにでもなったら厄介だ。
基本、苦戦している訳でもなければ傍観でいいだろう。
来た道を引き返し、大通りへと戻ると再びオルガの精霊魔法で探査する。
やはりあの最奥の右手側だった。
その道はやはり横幅三人分程度の狭いもので、しばらく進むと大部屋へと到着する。
誰も居ないが、しかし剣戟の音が聞こえて来る。
見渡すと大部屋の奥にこれまた細い道があった。
「警戒して行くぞ、いつ襲われるかわからない」
「はい!」
今回はシュウを最後尾に配置し、ヴァリスタとオルガをタンクで挟む形とする。
もしこの先で戦っている者がいれば、そこからモンスターがこちらへ流れて来る可能性もあるから、HPの高い俺が攻撃を受け止めるのが一番だ。
背後にモンスターがいないのは此処に辿り着くまでに確認済みだから、現状シュウが一番安全な位置とも言える。
しかしいつ襲われるかもわからないし、挟み撃ちとなると最悪なため、今回は前後を鉄壁とする。
しばらく歩いて、剣戟の音は大きくなる。
足元から何か割れる音がして、ふと視線を落とすと試験管があった。
この道をずっと辿る様に、試験管が二本、三本と落ちている。
「回復薬か……?」
だとすれば危険な状態なのかもしれない。
とはいえ飛び込んで俺達まで危機に陥る訳にはいかないから、慎重に進む。
道が開けた所で、遂にそれが見えた。
それはゴブリンと戦いつつ、その遠く奥にはゴーレムも見える。
赤、赤、強烈な色が目に入る。
血に塗れつつ、長い赤い髪に、赤い瞳――それは本人の持つ色だった。
強烈な意志を持つ赤い瞳で敵を睨み据え戦闘を繰り広げるその者は、しかし何処かで見た事があるような……。
そう思いつつ、どうにも思い出せない。
ともあれそれは、危機的な状況と見えた。




