第72話「属性」
さて、土の迷宮攻略に当たって今回は色々と見て周る必要がある。
マッピングの臨時収入で金貨一枚を手に入れたから、これを元手に装備を整える。
しかし、まず気になる所がある。
属性相性だ。
水は火に強いみたいなアレだが、この世界においては三すくみのような形なのか、反属性の形なのか、はたまた属性に応じた相性というものが存在しないのか――俺自身が剣しか使っていなかった為、ゴーレムという物理の壁に当たってようやっと考える。
幸いグレイディアという最強の年の功があるので、こういった知識に関しては問題ないだろう。
「グレイディアさん、お聞きしたい事があるのですが」
「土の迷宮の事なら、お前以外に攻略しようという者は居ないから情報は無いぞ」
「いえ、属性に関してなのですが……」
「ほう、属性相性か?」
「知っているようでしたら聞かせて貰えませんか」
「ふむ……」
グレイディアは腕を組んで少し考え、何かを判断したのか、頷いて俺を見直す。
「良いだろう、ではまず基本の四属性からだが――」
魔法を見る限り、まず属性には六種類ある。
そのうちのまず火、水、土、風の説明から入った。
この四つが基本の属性であり、人により得手不得手が存在するらしい。
火が風に強く、水が火に強く、土が水に強く、風が土に強いという四属性のすくみが存在しているという。
火が風に強いというのはちょっと理解し難いが、そういうものとして認識するしかない。
「逆転すると苦手属性になるという事も?」
「水属性のモンスターに対して火属性で攻撃すると通りが悪いらしいな」
らしいというのは、モンスターの正確な値が見れないから先人たちの感覚での話なのだろう。
「さて、残りの光と闇だが、これは先の四属性とは別で対極している」
「反属性ですか」
「反属性……そうだな、それが通りが良いかもな。光と闇は反属性だが、重要なのはいわゆる人に当たる者は光属性、魔に当たる者は闇属性であるという事だ」
「おお」
なるほど、人と魔族とが犬猿の仲なのはこういった理由からなのかもしれない。
あれ……ちょっと待て。
ギ・グウに光魔法を取得させる事が出来た訳だが、もしかすれば俺は自然の摂理を捻じ曲げてしまったのかもしれない。
「あの、ちなみにゴブリンが光魔法を習得したりなんて事は……」
「無いな、少なくとも私は聞いた事が無い。とはいえ人族でも闇魔法を会得する者は居るから、やはりこれも得手不得手があるのだろうが」
「そ、そうですか。ありがとうございました」
もしギ・グウが怪しまれても、弛まぬ努力で会得したという事で大丈夫だろうか。
何はともあれ属性については理解した、土の迷宮のゴーレムを突破するには風属性が有効だろう。
魔法でいきたい所なのだが、生憎と魔力が高いメンバーではない。
そこで今回は実験も兼ねて属性武器を作ってみようと考えている。
火属性付与の炎のロングソードというものは見たから、風属性付与で風のロングソードにでもなるんじゃないだろうか。
とはいえ素材がわからない。
困った時のグレイディア、おばあちゃ……ロリババアの知恵袋だ。
「ところで風属性付与の素材とかってわかりますか?」
「さあ、悪いがそういった知識は無い」
「そうですか……」
「はあ、何をしたいのかは想像がつくが、そういった素材なら行商人じゃないか」
「行商人ですか、それまたどうして」
「此処は塔の街だ。塔と土の迷宮しかない。風属性なら、それに準じた迷宮から得られた素材が必要なのではないか」
「おお、さすがグレイディアさん。ありがとうございました」
なるほど、どうやら土の迷宮以外からのドロップ品を転売する業者から買い上げるのが一番らしい。
風の迷宮とかがあるのかもしれない。
という事はだ、俺の向かう迷宮は土の名を冠しているくらいだし土属性のドロップ品が得られる可能性がある。
そういった物で武装を強化していけば、モンスターとの戦闘はぐっと楽になるだろう。
グレイディアから情報を得て、視線を感じつつギルドから出る。
どうにもフローラ以外にも目を付けられているようだが、冒険者として目立つ分には問題は無い。
行商人の大半は大通りで物を売っているらしい。
ギルドを出て早速街中を歩き回ってみたが、しかし目ぼしい物は見当たらない。
砥石なんかは売っているが、あれは調理器具用なのだろう。
とはいえ歩いているだけでは見つからないか、声を掛けてみる事にする。
「すみません、武装刻印に使用する素材が欲しいのですが……」
「ああ、今回は全部武器屋に卸しちまいましたよ」
「そうですか」
なるほど、素材を買い上げる者もそれはいるよな。
今回はという事は、売れない時もあるのだろう。
武器屋へ向かい、早速話を聞く。
「すみません、素材は置いていますか」
「素材ですか? ってあの時の旦那。武装刻印なら請け負いますけど」
「いえ、素材だけ売って頂ければなと」
「さすがエルフ奴隷連れてるだけはありますね。そうですねえ――」
渋る店主。
あちらにしてみれば素材だけを売っても武装刻印を請け負う際の儲けが無くなるから旨みがないのだろう。
さすがに二束三文では渋るのも無理はないか。
「あとあちらのロングソード二本とカイトシールドをひとつ頂けますか」
「――ところでどういった素材が欲しいんで? お目に留まる物があるかは……」
「風属性が付与出来る素材ってありますかね」
「ハーピーの羽ですね、五枚ほど在庫があります。ええと……ひとつ銀貨二十五枚でどうでしょうか」
「ではそれをふたつ」
「毎度あり!」
価格は盛られていると思うが、気にしない。
これを別の迷宮まで取りに行く事に比べれば安いもの……と思っておこう。
何より行商人から全部買い上げて在庫五枚しかないという事はドロップ率はそこまで高くないと見受けられるし、自力で入手しようとすればどれほど掛かるかわかったものではない。
追加効果持ちの既製品自体も馬鹿高いし、素材の値が張っても結果としては得だろう。
その後は宿へ。
安宿にしようと思ったが、シュウが居るのであの丸見えシャワールームはまずい。
稼いだ持ち金を今日一日でほとんど消費していつもの高級宿に二部屋を借りた。
一泊銀貨二十枚、保険に貯めておいた分の資金もいよいよ無くなった。
再びパーティ編成職人に戻るかどうかは、明日の成果次第か。




