第70話「冒険者として」
フローラには相変わらず尾行されているようで、迷宮から出ると雑木林にフローラの尻が生えている光景ももう慣れた。
そして迷宮から出た後にメンバー全員のステータスを確認したのだが、ヴァリスタだけはゴーレム戦でレベルが上がっていた。
ヴァリスタ 獣人 Lv.4
クラス 餓狼
HP 120/120
MP 0/0
SP 4
筋力 360
体力 60
魔力 0
精神 60
敏捷 360
幸運 360
スキル 良成長
状態 隷属
アタッカーに特化したクラスに良成長の効果で、物理の攻撃性能だけで見ればこの時点でシュウを追い抜いている。
さて、塔の街へと帰還した俺達は冒険者ギルドへと向かった。
相変わらず一瞬視線が飛ばされるが、オルガを見てその視線も外れる。
何だか面白いが、今回は隅の方からガン見されている視線を感じた。
目を合わせたら絡まれそうなので、スルーして受付へ向かう。
これまでは冒険者としてまともに活動していなかったため、今回が初となる魔石の換金を行う。
「換金お願いします」
「ギルドカードを提示してくださいね」
ズボンのポケットより取り出した風に魔石とギルドカードを取り出し、小皿へと置いていく。
合計十個、若干多いがどれも小さな魔石なので怪しまれないだろう。
ゴブリンとゴーレムから回収した物だが、やはりレベルによって魔石の大きさや質が変わるのかもしれない。
ゴブリンの魔石がひとつ銅貨五十枚、ゴーレムの魔石がひとつ銀貨一枚となったようで、合計金額は銀貨六枚。
パーティ編成の仕事と比較してしまうと金稼ぎとしてはあまりうまいものではないが、経験を積みながらというのは大きい。
俺達に気付いたグレイディアが魔石を見に来たので声を掛ける。
「どうも、グレイディアさん」
「ああ、どうやらまだ攻略途中の様だな」
「買い被り過ぎですって」
俺のギルドカードを確認していた受付嬢が声を上げる。
「す、凄い能力値……。それにグレイディアさん、このスキル……」
「ああ、あの時の……武装刻印だな」
「武装刻印ですよね」
そうして受付嬢が俺を見る。
ついでに経由させてもらって知っているはずのグレイディアも俺を見る。
わざとやってるだろこのロリババア。
オルガは武装刻印はエルフの技と言っていたし、そういえばドワーフも人族が覚えるのは難しいだとか言っていた。
「たまたまですよ」
「たまたまで使えるようになれば職人も苦労はしないだろうな」
「ハッハッハ」
「ふふふ」
よし、話を変えよう。
「ところでグレイディアさん、もしかしてなのですが……」
「何だ、言いたい事があるなら言え」
「俺をハメましたか?」
「ハメる? 何故だ?」
グレイディアは心底不思議そうな表情で俺を見上げた。
グレイディアが妙に迷宮攻略を推してきた事がどうにも胸に引っかかっていて一応聞いておく事にしたのだが、そういった考えではなかったらしい。
ともすればやはり俺を買い被り過ぎているだけなのか。
「グレイディアさんに勧められた土の迷宮ですが、二層から妙に厳しかったもので」
「そうは見えんが、どうだった?」
「ゴーレムに襲われました」
「ゴーレム……石人形か?」
「ええ」
「なるほど、そういう事か」
グレイディアは少し笑みを浮かべ、周囲を見渡す。
「お前なら気付いているだろうが、現在の冒険者は近接型ばかりだ」
「ですね。塔へ入るパーティも近接だらけですし」
「大半が必要最低限の金を稼いでその日暮らしをしているからな。それに魔術師への適性がある者は国のお抱えになるのが利口だ」
そういった理由もあったのか。
先のゾンヴィーフ戦でも俺達が倒し切れなければ魔術師部隊が投入される予定だったのかもしれない。
低階層で魔石集めをするだけなら近接だけでも十分だし、魔術師の中にわざわざ塔や迷宮を攻略しようという冒険をする者がほとんど居ないという事だろう。
「それで、土の迷宮の二層はどういった様子だったんだ。詳しく聞かせてくれ」
「ゴーレムが起動した時点で二層から出られなくなります。中央の小部屋にゴーレムが二体おり、狭い外周を利用して挟撃を仕掛けて来ました」
「ふむ……道理で攻略されなかった訳だ」
「どういう事です?」
「お前なら余裕だろうが、あの迷宮は一層より先に進んだ者が戻って来なくなると此処らでは知られている。それで廃れ、結果が今の姿だ」
「そ、そうですか。そうですね」
「いや、お前知らなかっただろう。なあ」
以前には突入した者もいたのかもしれないが、二層はゴーレムが起動すれば逃げられないようだから変な噂のみが残って自然と誰も降りなくなったという事か。
俺は相変わらず無知を晒していたようで、カマを掛けられていたらしい。
いや、グレイディアは俺が実力を隠していると思い込んでいるから、本人が言ったように勝利を確信していたのか。
変な所で期待されていて困る。
それにしても、塔や迷宮を利用するのは冒険者だけなのだろうし、今の物理特化な連中では確かにあの二階層は突破出来ないだろう。
「何はともあれ、さすが龍を撃滅する者だな。この分だとゴーレムも物理で押し切ったのだろう? 私では抑止力にすらならないかもな」
「このオルガの魔法のおかげですよ。事実魔族征伐戦でも私は指揮くらいしかしていなかったでしょう?」
「ふうん」
グレイディアはまるで納得していない表情で俺を見た。
実際あの時点での俺は低レベルでまさに雑魚だった訳なのだが、誤解が解ける日は来ないのかもしれない。




