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第69話「土の迷宮、二層の報酬」

68話のダメージ計算を修正しました。

 息を整えた所で立ち上がり、シュウの下へと引き返した。

 未だ魔力枯渇状態にあるシュウは荒い息遣いで座り込み胸元を押さえているが、その表情は苦痛よりも恐怖が大きいようであった。

 冷や汗と涙目で顔を強張らせ俺を見上げるシュウを、俺は立ったままただただ無言に見下ろす。


 シュウは何事かを言おうとして、その口元を震わせた。

 その桃色の唇からは吐息が漏れて、俺を見上げる澄んだ青の瞳は涙を湛えている。

 俺はどうにもその姿がひどく色っぽく見えて、興奮を覚えていたのだった。


 叱りつけるべきか、どうすべきか。

 その判断の前に、俺のなにかがいきり立とうとしていた。

 命懸けの事象に見舞われると動物の本能で性欲が増すというが、まさしくその通りだと静かに感じていた。


「ライ様……ごめんなさい」

「ええ」

「私、こんな事になるなんて思わなくて……」

「言い訳は要りません」

「ラ、ライ様……! 私、もう逆らいませんから。ちゃんと、指示通りに動きますから!」

「初めにそう言ったはずです。貴女に課したのは命を預かる役割、違わぬようにと――」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 シュウは懇願するように謝罪した。

 しかしこれは良……くない、いかんいかん。


 シュウは自分の暴挙の危険性を理解していて、だからこそ泣きそうで――。


 不和は後々尾を引く。

 シュウは優秀なタンクへと育つだろうから、此処で禍根を残す訳にはいかない。


「――とはいえシュウさんの閃いた技は見事でした。砕氷のように美しく強力なあの剣技は聖剣技というようです」

「聖……剣技……」

「今回は使いどころを間違えてしまいましたが、人は失敗から学んで成長していくものです。逆に言えば、失敗から学ばない者に未来はありません」

「失敗から、学ぶ……」

「私は失敗は悪とは考えていません。ただしそこから立ち上がれるのなら、ですが」

「わ、私は……!」


 俺はただ、右手を差し出した。


「貴女が嫌でなければ、これからも共に戦ってくれますか?」

「は、はい! 戦います、一緒に戦います! ライ様!」

「ありがとうございます」


 シュウはふらりと立ち上がって、両手でもって俺の右手を握った。

 しかしシュウは力無く倒れそうになって――あの剣技を放った者とは思えないその女らしい身体を支えようと肩と腰に手を回すと、もはや力の抜けたシュウは身を預けた。


 黒い髪が俺の鼻先にはある。

 青い瞳は既に閉じられて、安堵に吐息が艶めかしい。

 運動によるものか、はたまた俺への恐怖によるものか、汗ばんだ肉体から漂ったのはむわりと香しく成熟で――俺はヴァリスタに睨みつけられて前かがみとなった。




 聖剣技――それこそが今回シュウが閃き編み出したスキルであった。



シュウ 人族 Lv.17

クラス 聖騎士

HP 260/260

MP 0/20

SP 7

筋力 260

体力 260

魔力 260

精神 260

敏捷 260

幸運 260

スキル 盾術 剣術 聖剣技



聖剣技 MPを消費して魔力を上乗せする光属性攻撃。



 あのダイヤモンドダストの様な光を発する剣技は、光属性攻撃だったようだ。

 これと聖騎士の特殊効果である聖光――光属性攻撃強化によって、数値以上のダメージを叩き出していたのだろう。

 今はMPが少なく満足に出せない状態ではあるが、後々の火力底上げには使えそうだ。




 迷宮から出ようかと歩き出す時、ふと思い立ってシュウをオルガに任せ、単身引き返す。

 あの正方形の中央に何があるのか気になったためだ。


 中央にはこれまた正方形の部屋があった。

 奥にはふたつの燭台が灯り、その中央にはあからさまな宝箱、う-んファンタジー。

 赤を基調として金色で縁どられたそれは大きさもかなりの物で、中に入るならば人一人であれば横になれるほどではないだろうか。


 一体何が入っているのか、しかし怪しすぎる。

 もしかすれば、あの宝箱を餌にゴーレムが起動し、この部屋で幾人も始末されてきたのかもしれない。

 だとすれば恐ろしい事だ。


 ゴブリンが乱獲されて魔石を取られているように、この階層でもまたしばらくすればゴーレムは復活するのだと思うし。

 気になったのか、ついてきた仲間達を見て、少し試してみる事にした。


「ライ?」

「どうしたの、ご主人様」

「いやな……。そうだオルガ、あの宝箱に光魔法を撃ってくれ」

「いいけど、どうして?」

「トラップだったら嫌だろ」

「なるほど、やってみるよ」


 オルガが魔法を撃ちこむと、しかし変化は起きなかった。

 何より俺の詳細表示にも何も出ていないので、あれが例えば宝箱に化けたモンスターだったり、なんて事はなさそうだ。


「一応矢も射ってくれ」


 俺の言葉を受けて、オルガは肩に掛けていた弓を引き絞り、放った。

 矢が突き立ち、弾かれる。

 どうにも攻撃は効かないらしい。


 宝箱というオブジェクトは、例えばこの迷宮自体……つまり床や壁の一部なのかもしれない。

 俺は近寄って、蹴り飛ばして開けた。

 瞬間飛び退いて、しばらく宝箱とマップを観察する。




 何も起きない。




 どうやら宝箱は何かしら起こるような物でもないらしい。

 であればやはり中には超強力な武器が入っていたりするのだろうか。

 おもむろに近づいて覗き込むと、そこにはぽつりと小さな試験管のような物があった。


「回復薬かよ」


 回復薬、それも低級だった。

 これは酷い、ゴーレム戦の報酬がこれとは。

 とはいえ調度四つになったし、全員に分配しておこうか。


「今日はここまでだ、街へ戻って休もう」


 俺は自分の分の回復薬を謎空間に放り込み、とぼとぼと帰路についた。

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