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第66話「土の迷宮、殴打応酬」

 ゴーレムの硬い体表に弾かれつつ斬る……いや、殴りつけると437のダメージを確認した。

 これが俺の与えられるダメージ。

 火力的には問題ない、しかし――。


「ぐっ……!」


 重い、一撃が重い。

 俺は斜め上から叩き付けられた右の拳に膝をつきそうになりつつも踏みとどまる。

 ゴーレムの一撃は、盾で防いでもなお押し潰されるような重圧があった。


 それはそうだ、この石造りの巨体、骨と肉の人の身で受け切るのは至難。

 何の事は無い、体積やら質量やらの現実的な問題だった。


 ましてその体格差から繰り出される無慈悲な一撃は上方から重力を乗せて振り下ろされたものであり、破壊力は相当なものになる。

 俺は能力値のみに目を向けてしまっていたのだ。

 これがまた圧倒的な体力を有していれば違ったのだろうが、今の俺に攻撃に専念出来る余裕はない。


 基本に忠実に、まず攻撃を受け止めて、ゴーレムの隙を作って反撃に転じる。

 ゴーレムのスキル重撃の効果は防御上昇系の追加効果を貫通するものだから、盾を通さずに身体で受けた場合、ハードジレに接触したとしてもダメージは直接通って来るだろう。

 まして急所への攻撃は能力値を越えて直接肉体にダメージを与えて来るはずだから、守備が最優先だ。




 ゴーレムの攻撃を受け止めた事でそこに隙が生じた。

 狭い道であるから、全員で攻撃を行えば一撃で薙ぎ払われてしまうだろう。

 そこで俺が盾受けする事で反撃の機会を作り出し、アタッカーの飛び込む隙を作った。


「くっ……!」

「硬い!」


 ヴァリスタとシュウは俺の脇を通ってゴーレムの懐に潜り込んだ。

 しかしその攻撃は弾かれ、1ダメージがゴーレムに与えられる。

 だが攻撃は止めない、弾かれながらもロングソードを振りおろし、僅かずつそのHPを削っている。


 俺は予想外のゴーレムの攻撃の重さに痺れる左腕を上げつつ、オルガの回復を受けながら対応策を考える。

 出来ればフリーに動けるヴァリスタとシュウの攻撃が入るように――そうだ、体力値を貫通する重剣技があった。

 ゴーレムがカイトシールドに叩き付けた腕を戻すのを確認し、メニューを開いて素早くスキル取得欄をスクロールさせる。


 しかしそれは見当たらなかった。

 重剣技だけではない、暗黒剣も存在しないようだ。

 これはもしかすればクラス固有のスキルなのかもしれない。


 であればやはり俺が合間を縫って攻撃を当てて行くしかない。




 メニューを閉じて再度振り下ろされるゴーレムの一撃をカイトシールドで受け止める。

 しかし痺れる左腕を下ろさぬよう右のブラッドソードで石の腹を殴りつける。


 このダメージ量なら、ヴァリスタとシュウのダメージも累積してあと八発も殴れば勝てるか。

 オルガがタイミングを掴んで魔法攻撃も開始されれば、その削りは高速となる。

 であれば今一度攻撃を受け止め、オルガへの指示を飛ばそう。


 俺がゴーレムの次の右打ち下ろしに備えると、しかしゴーレムは左腕を下段に引き絞って力を籠めた。

 ボディーブローのように打ち出されるそれは、全身強打の殺人的な一撃。


「下がれ!」

「うん!」

「えっ!?」


 ヴァリスタはすぐさまに飛び退き難を逃れたが、攻撃に躍起になり石人形を殴り続けていたシュウはワンテンポ遅れて、そこに俺が飛び込んだ。

 俺のノックバックで押されたシュウは尻もちをつき、しかしダメージとはならなかったようだ。

 呆気にとられるシュウ。


 無事でよかったが、どうにも危なっかしい。

 そして全員にHPMP表示があるにも関わらず、ダメージを受けていないシュウにすぐさま回復魔法が飛んでいた。

 それはミスではあるが、状況に合わせて予め行動に移す癖がオルガについた証だ。


「シュウさん、一旦下がって! 危険です!」

「は、はい!」


 シュウが下がったのをちらと確認して、再びゴーレムが打ち下ろす右の拳を受け止める。

 ダメージとほぼ同時にすぐさまに回復が飛んで来て、一転攻勢の機会と確信する。


「オルガ、攻撃魔法に切り替えろ! 俺の回復は二回に一遍で十分だ!」

「わかったよ!」


 実際はもっと受けられるが、もしもの場合を想定して全快付近を維持するように促しつつ、攻撃へと転ずる。




 そこからは一気呵成である。


 攻撃を受け止めてブラッドソードで殴りつける俺。

 反撃を警戒しながらコンパクトにダメージを蓄積させるヴァリスタ。

 一応の警戒もしつつ剣の乱打を浴びせるシュウ。

 そして攻撃魔法と回復魔法とを交互に使用し、攻撃に参加しつつ戦線維持を器用にこなすようになったオルガ。


 真正面からの殴り合いであるが、しかしそれは粗削りながらパーティの形を成していた。




「倒れるぞ、離れろ!」


 遂にゴーレムのHPが0になると、その石造りの人形はまるで動力を失った玩具のようにがっくりと膝をつき、そのまま俯せに倒れる。

 トドメを刺そうと駆け寄ろうとして、しかしそれは迷宮に溶けて行った。

 小さな魔石だけがそこに残って、俺達は一瞬の安堵を得る。


「どうにか勝てた、皆良い動きだった。後一体、じっくりと攻略しよう」


 俺は魔石を拾うと振り返って勝利宣言。

 未だ一体ゴーレムは残っているが、此処まで辿り着いてはいない。

 この切羽詰まった状況を打破出来たというのは大きな達成感をもたらしていた。


 ヴァリスタは大きく頷き、オルガは安堵に息をつく。

 シュウは――シュウは両手でロングソードを緩く構えて、その黒髪の下、青い瞳には微かに動揺が見られた。


「大丈夫ですか、シュウさん」

「ひ……」

「ひ?」

「閃いた! 私、閃いちゃいました!」


 何故だかぱあっと明るい表情がそこにはあった。

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