第59話「村人?」
シュウがおとされたのは間接的にだが俺という存在が召喚されてしまった事にもある。
いや、しかし俺が居なくともシュウは雇われ、あの場に居ただろう。
その場合隷属されたまま勇者用のメイドとして使い潰されていたのではないだろうか、吐き気がする。
とはいえ俺が間接的に影響を与えたのは確かで、シュウにしてみれば俺という存在は――。
「すみません、シュウさん」
「あ、あの。謝るのでしたら、その……責任を、責任を取ってください!」
「責任、ですか」
「私は此処が……地下が怖ろしいです。だから――」
金を払えというのなら払おう。
衣食住の確立だって、引き受けよう。
地上に戻せというのなら……どれくらい掛かるかはわからないが、戻そう。
全てナナティンから始まった負の連鎖ではあるが、間接的に俺がシュウをおとしたというのも確かだ。
「――だから私を雇ってください!」
「え?」
「だって、ライ様ってあの奴隷……じゃなかった、お姫様と交友関係にあるんですよね!?」
「友好かは知りませんが、まぁ、敵ではありませんね」
「そしたらこの地獄でもライ様と居れば最低限の生活は送れるという事じゃないですか!」
凄い発想力と村娘根性だ、生命力に満ち溢れている。
地上で姫に雇われおとされ、地下でも迷いなく姫のご威光にすがる。
その心は、村人。
「私は何の取り柄もないですけど、何でもしますから!」
「何でも?」
「傍に置いて下さい、お願いします!」
責任を取れと言っていたのに俺に慰謝料を請求する訳でもなくいつの間にか下手に出てしまうこれは、生粋の村人故であろうか。
しかし何でもと言われても、いや確かにシュウは俺の理想の身体の持ち主であり大変興味があるのだが、果たしてそれで良いのだろうかと良心が叫ぶ。
「それにライ様なら酷い事はしないでしょうし」
「まぁしませんけど」
脳内ではしてますけど。
「今、キミいやらしい事考えてたでしょ」
「ばっかお前オルガ。俺がシュウさんの太股の感触とか思い出している訳無いだろ」
さて、何でもしてくれるという事で、どうしようか。
ひとまずシュウの良成長はヴァリスタに持たせておくべきだろう。
俺とヴァリスタはかなり特殊なクラスであり、その能力値は極端だが得意な能力の伸びが突出している。
1.5倍補正という良成長の恩恵を多大に得られるのだ。
「実は今、勇者の解放のため塔を登る戦力を集めているんですよ」
「そ、そうなんですか?」
「そんな状況ですので協力頂けるのであれば、衣食住に関しては問題ありませんよ」
「はい! お願いします!」
「まずシュウさんのスキルをこの子、ヴァリスタに渡してもらいたいのです」
「スキルって、あの良成長とかいうスキルですか? それは構いませんが、どうするんです?」
地上では能力値は見れないから、良成長のぶっ壊れ具合がわかっていないのだろう。
「特殊なやり方なのですが、まず私の情報を他に漏らさない事を約束してもらえますか。特にあのお姫様」
「は、はい」
「では……はい、スキル譲渡というものが使えるようになったはずです」
「ほ、本当ですね。凄い、何ですかこれ」
「もしこれが他に漏れれば……」
「ひゃ、ひゃい! 言いません! 言いませんとも! 私これでも口が堅い方っておじいちゃんにも褒められた事があるんです!」
この弱気っぷりであれば大丈夫だろう。
何よりシュウはこれでいて衣食住の重要性を理解している。
だからこそ地下の先人たる俺を頼った訳であるし、下手な真似はしないだろう。
さて、シュウからヴァリスタに良成長が譲渡され、これにて俺とヴァリスタという高火力アタッカーが二人揃ったという訳だが、若干バランスが悪いが一応オルガにヒーラーも兼任してもらう訳だし、そこそこのパーティになりつつある。
一応シュウのクラスチェンジもしておいた方が良いだろう。
戦わせるつもりはないが、自衛のためにもある程度レベルは上げておいた方が良い。
ただし成長率が器用貧乏な村人のままでは自衛も厳しいだろうから、剣士でも何でも、他のクラスへと変えておくべきだ。
村人
得意 無し
苦手 MP
特殊効果 不屈(致命傷を負っても死ににくい)
習得条件 出生
聖騎士
得意 全て
苦手 無し
特殊効果 聖光(光属性の威力上昇)
習得条件 多大な功績を上げた者・騎士からの派生
聖騎士、だと。
何だこれは。




