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第58話「地上の状況」

 結局フローラとエニュオが護衛と言い張ってついてきたので、出来るだけ無言を貫いて帰還した。

 塔の街へついた俺はいつかのギ・グウを真似て、検問で銀貨を握らせるとシュウの検査をスルーさせる事に成功した。

 怠慢だ何だとフローラがお冠であったが、エニュオに制止されていたのは言うまでもない。


 ギ・グウに会っていて良かった。


 街へと入るとすぐにオルガが駆けて来て合流出来た、MPは全消費しないで済んだようで、MP自動回復もあってかある程度回復していた。

 安宿へと向かおうとすると、フローラに呼び止められる。


「何故こちらに向かうのです? 宿でしたらいつもの場所に泊まれば良いじゃないですの」


 ナチュラルに追跡していた事を告白しているのだが。

 エニュオはビクッと震えて俺を流し見たが、フローラは自分の言葉の意味を理解していないらしい。

 大丈夫かこの姫様は。


「恥ずかしながら金銭的な問題でして」

「なら私が払いますわ」

「それは大変ありがたい提案なのですが……」

「何か問題があるのですか? 父上も人の好意は無碍にするものではないとよく言っていました」


 大変ありがたいお言葉。

 本人は気付いていないようだが、一国の姫への貸しってのは安くないんだよなあ。

 どうにか断ろうと考えていると、エニュオがフローラに耳打ちした。

 フローラはふんふんとエニュオの言葉を聞いて、はっとして俺を見直す。


「では、その女……シュウの為にお金を出します。まことに遺憾ですがライ様はそのついでです。これなら問題無いでしょう」

「は、はあ。しかし……」

「安宿ではその女も休まらないでしょう」

「それは……」


 安宿では個室の風呂もないし、確かに女性にとっては快適な空間とは言い難い。

 エニュオは恐らく俺の貸しを作りたくないという意図を教えており、そこからフローラなりに考えての結論なのだろう。

 だとすれば俺達にわざわざ何かを仕掛けるつもりは無かったのだろうか。

 知らぬ存ぜぬで関わり合いになりたくなかったが、聞いておいた方がいいかもしれない。


「その、どうして私達を追っていたのですか」

「ライ殿、いつから気付いていましたか?」

「最初から」

「そ、そんな! ではどうしてお声を掛けてくださらなかったのです!?」


 尾行されていて危険を感じたからとか言えないよな、これ。

 動転するフローラはどうにも悪意があって俺を追っていた訳ではないようだし、エニュオはそれを見て溜め息をついているし。

 悪意が無いという事を知れただけで十分か。


 とにかく今はシュウを休ませて、話を聞きたい。

 

「すみません、フローラ姫。ではご提案を受け入れます。シュウさんを休ませてやりたいので」

「え!? え、ええ!」


 縦ロールを微かに弄って、フローラは目を逸らして高級宿へと向かって歩き出した。




 フローラらが部屋の手配をした訳だが、ついに堂々と俺達の隣の部屋を取っていた。

 完全に追跡するつもりだ、何が目的なのか。

 いや、今はシュウの方が大事か。


「す、凄い部屋ですね。でもすみませんライ様、何だか迷惑掛けっぱなしで……」

「良いんですよ、それに関しては俺も……。とにかく一旦休んでください」


 部屋へと入ると逸る心を落ち着けて、シュウには風呂へと入ってもらい、使っていないヴァリスタの下着と俺の予備の服に着替えて貰った。

 水気の残る黒髪に青い瞳、だぼっとしたシャツはそれはなかなかに来るものがあったが、今はそんなピンクな話はいい。

 俺とヴァリスタとオルガにシュウ、それぞれ席についてようやくと話を聞く。


「今、地上はどうなっているんです?」

「ライ様が居なくなった後、勇者様たちは塔へと突入しました」

「やはりイケメン……茶髪の優男が指揮を執っていましたか?」

「指揮を執っていたかは知りませんが、出立の際には先頭に立っていました」


 なるほど、やはり隷属された勇者達をイケメンに率いてもらう算段であったか。

 であれば恐ろしい状況だ。

 イケメンは戦闘能力こそ高いが、指揮能力は芳しくない。


 他の勇者達の安否が危ぶまれる。

 ゴリくんに、九蘇……三十人の大部隊だが、皆は無事だろうか。


「それで、その後は……?」

「わかりません。その後私は幽閉されて、それで――」


 おとされた、という事か。

 正確な状況は不明だ。

 だがイケメン率いる勇者部隊が塔へと突入したのは間違いない。


 出来る事ならば助けに行きたいが、今の戦力では無茶が出来ないのも事実なのだ、歯がゆい。

 それに例えにわか仕込みの部隊で駆け上がれたとしても、勇者との戦いで圧倒出来なければ多数の死者を出す事になる。

 勇者達を無事解放するにはある程度の戦力差が必要なのだ。




「それと――」


 シュウは口ごもった。

 目は泳いで、話すべきか迷っているようだ。


「話してください、地上の状況は知っておきたい」

「はい、実は――伝説の勇者は、ライ様は、大罪人として処刑されたと発表されています」

「大罪人? 俺が?」

「偽りの剣でもって欺き、国の転覆を計ろうとしていたのだと」


 参ったな、面倒事を全て押し付けられた形か。

 冴えない俺が勇者の象徴として押し出されていたのも、いざという時に切れるからこそだったのかもしれない。

 俺がレベル1だった時点でナナティンは捨てる気満々だったという訳だ。


 下手をすればメイドをかどわかしただとか、そういった訳の分からない罪、要するに国の汚点を全て押し付けられている可能性もある。

 万一俺が生きて地上に出られたとしても、俺という存在は罪人、石を投げられても文句は言えない立場。

 生きる場を奪い去ったつもりなのだろう。


 それもこれも地下という場がなければの話だが。


「そうですか、ありがとう」

「ライ様……」

「それで、シュウさんは……」

「私は……」

「いえ、すみません」




 どうしてシュウがおとされて……というのは考えるまでもなく、俺のせいなのだろう。

 俺にあてがわれたシュウが失敗した。

 それだけだが、恐らく王城の実態を知ってしまったから……ではないだろうか。


 他のメイド達も隷属させられていただろうが、隷属の首輪を破壊したのはシュウだけだ。

 であればシュウが何かしらの力を持っていて、隷属の首輪を破壊出来るのではないか、と、そういった発想に至るのもおかしくはない。

 何せバタフライエッジアグリアスがレベル1村人も斬れないナマクラであったのはナナティンも承知だし、俺以外の原因があったと考えたのだろう。


 通常、俺やシュウといった残念クラス、低レベルな存在が地下におちるというのは、すなわち死であるはずだ。

 まず転落死であり、生き延びたところで餓死、もしくはシュウの言っていた通り怖ろしい生物に食われて死ぬ。

 恐らく地上の者は長い年月を経て「地下は魔境」みたいな拡大解釈の知識を持っていて地下の真の状況を知らないから、そういう事なのだろう。

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