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第53話「身支度」

 オルガの首輪の鎖を外すと何やら悲しげな表情をしていたが、反応すると喜ばせてしまうので無視した。

 勿論無視しても喜ぶ訳だが、いちいち付き合っていたらキリがないので街へと繰り出す。

 男物の服であればいつもの店で良いが、まともな女物となると別の店を見つける必要がある。


 幸い此処は富裕層御用達の南エリア、しばらく歩けばその店は見つけることが出来た。

 店構えから漂う高級感は俺一人であれば確実に入る事を躊躇させるが、今回はオルガのためなので構わず入店。

 中を覗けばそこには下着や女物の服がわんさか見えた。


 此処で見繕う事に決めて、オルガに店内を物色させた。

 ついでにヴァリスタも物色し始めたが、子供とはいえやはり男物の下着は嫌だったのだろうか。

 俺も店内には入ったが、あまり目立って女性客に迷惑を掛ける訳にもいかないので、店の隅で黒の下着を凝視している。


「やっぱりこういうのが良いかな」


 オルガは下着を持ってきた。

 そういえばオルガのバストサイズはAカップに相当するのだろうか――いやいや、やめておこう。

 持ってきたそれはレースの付いた白の下着だった。


「黒じゃないのか……」

「なに?」

「何でもない。良いんじゃないのかそれで、オルガの白緑の髪の毛とも調和が取れているし」

「毛の色ってそんな……」


 やめろ、店の中で股を押さえるな。

 油断も隙も無いな、早く買って迷宮に突入しよう。


 それにしても買うなら黒、黒の下着が良かった。

 俺は白い肌に黒の下着という対比による色の暴力が好きなのだ。

 いやしかしオルガの好みを曲げるつもりはない。


 オルガの下着の代金を払っていると、ヴァリスタが何かを持ってやってきた。

 黒い――黒い下着だ。

 ブラジャーとパンティである。

 子供用の黒下着があるのか、とんでもない店だ。


「ライ、黒!」

「おお、黒だな。黒い下着だなヴァリー」


 ううむ、さすがはヴァリスタ。

 しかしこのなりで黒を選ぶとはませているな、将来が心配だ。

 買うつもりはなかったが、ヴァリスタの下着も買う事にした。


 見た目は子供でも、意外と成長しているのかもしれない。

 女は早熟らしいからな。

 下着を広げて見せたヴァリスタだがしかしそれは妙に大きく――。


「って、それ大人用じゃないか?」

「大きくなるから大丈夫」

「そうか……そうだな。うん、それまで俺が大切に仕舞っておこう」

「うん」


 ヴァリスタが大人になる日を俺が見る事は無いだろう。

 とはいえせっかく買った下着を持ち歩いて無くしてしまってはヴァリスタが可哀想だ。

 謎空間に仕舞い、元の世界に戻るその日に下着を返してやろう。


 何だか変態チックだが、至って真面目だ。

 しかしそれもこれも、無事に塔の頂に到達し、願いが叶えばの話だ。




 購入した下着は一枚で銀貨一枚というぶっ飛んだ価格設定だった。

 下着上下で銀貨二枚、予備で三着ずつで銀貨六枚、二人分買ったので銀貨十二枚だ。

 およそ高級宿一泊分である、高すぎる。


 思えばこんな地球レベルの下着が売っている事がおかしい気がするのだが、どうなのだろう。

 安物の下着と比べると随分形や装飾にも凝っているし、何よりあのホック状の仕組みなんて地球基準な訳だが。

 少し聞いてみようか。


「こちら随分凝った造形をしていると思うのですが、どなたが考案されたのでしょうか」

「先王の時代の物ですから……」

「先王?」

「考案者は不明ですが突然市場に流れだして普及した物なのですよ」

「へえ……」


 考案者は地球の者だったりしないだろうか。

 勇者の召喚で俺の様におとされて生き残った人間が居て、その者が下着文化を発展させたとか。

 おかしくはないが、だとしたら何故下着だけ発展させたのだろうか、変態なのだろうか。


 先王という事は結構昔の話なのだろうし、俺が考えても仕方ない事か。

 ヴァリスタとオルガの下着も購入したし、店から出ようとした所で思わぬ物を発見した。

 俺はそれを三着掴み取る。


「ライ、それなに」

「トランクスだ」


 そう、トランクスだ、素晴らしい。

 この世界の標準的なパンツはいわゆるブリーフに近い物であって、股間が蒸れて仕方なかったのだ。


 その点トランクスは素晴らしい。

 空気の通りが良いから蒸れにくいのだ。


 何故女性物の下着の中にぽつりとあったのかは定かではないが、もしかすれば此処は女性物下着専用ではなく単純な高級下着屋だったのかもしれない。

 その証拠にトランクスも銅貨五十枚だ。

 女性物より安いとはいえ、かなりの値段だ。




 先人に感謝しつつ下着の購入を済ませて、店を出た。

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