第52話「仕手のオルガ」
さて、何故オルガが強敵を仕留めるという暗殺者の習得条件を達成出来たのかはわからないが、暗殺者へのクラスチェンジを迷う理由も無いだろう。
オルガ・エルフィード ハーフエルフ Lv.15
クラス 暗殺者
HP 144/144
MP 200/200
SP 15
筋力 224
体力 144
魔力 154
精神 200
敏捷 154
幸運 210
スキル 精霊魔法 弓術
状態 隷属
あまり能力値に大きな差はない。
しかし特殊効果の始末が遠隔攻撃と併せると強力なため暗殺者で問題ない。
俺の龍撃とヴァリスタの餓狼の凄まじく偏った能力値が特殊なだけであって、これが普通の変化なのだろう。
強いて言うなら筋力が狩人より上がるようだ。
逆にHPやら防御関係が苦手なクラスであるのが怖いところだが、基本はHPぶっぱ型の俺が盾となれば低レベルの土の迷宮ならしばらくは大丈夫なはずだ。
とはいえ俺はHPこそ高いが防御能力自体は高くは無いから回復役が必要だ。
回復薬を買ってがぶ飲みというのも可能だろうが、出費がかさむし、なによりいざという時の連携というか、基礎となるパーティ単位の行動が育まれない。
オルガには少し苦労を掛けるだろうが、ヒーラーも兼任してもらおう。
回復の行える光魔法の取得にはスキル取得の場合5SPが必要になるが、ここはケチる場面ではないだろう。
ヒーラー無しで強敵に襲われた場合のリスクが大きすぎる為だ。
そのため最初からアタッカー兼ヒーラーの動きというものを経験してもらい、早めに覚えて貰う必要がある。
「暗殺者に変えたからな。攻撃能力が高い代わりに紙装甲……防御能力の伸びが悪いから注意しろよ」
「気を付けるよ」
「あと光魔法も取得させておく」
オルガ・エルフィード ハーフエルフ Lv.15
クラス 暗殺者
HP 144/144
MP 200/200
SP 10
筋力 224
体力 144
魔力 154
精神 200
敏捷 154
幸運 210
スキル 精霊魔法 弓術 光魔法
状態 隷属
「うわ、何、どうしてボク光魔法が使えるの?」
「やったな」
「ええ!? キミが何かしたの?」
「そういった能力があるんだ、ただこいつは公になると厄介な事になるから……」
「わ、わかった、わかったよ。ついでにもうひとつわかったんだけど――」
オルガは頬をかいて、何やら気恥ずかしそうに俺を見た。
「強敵というのはキミかな……なんて」
「何言ってんだ」
「だってボク、これでもどうにかキミに気に入られようと頑張っていたんだよ」
「お、おう」
「それで今、キミってボクの事結構好き?」
「……」
こいつは危険だ。
もしかすればかなり早い段階で俺という男を狙っていたのだ、そうして俺は多少なりとも好意を抱いてしまったからして、それによって仕留められたと判断された。
いやいや、おかしいだろう。
「いや、そもそもそれは戦いじゃないし」
「ボクにとっては死闘だったけどなあ。だってキミに気に入られなかった場合、ボクって鞭で叩かれちゃうんでしょ?」
ちょっと期待に満ちた目で俺の右手を見たオルガ。
鞭はもう謎空間に収納している、危なかった。
叩かれても叩かれなくても喜ぶからして、俺は健全な方を選ぶしかないのだ。
「それに最悪奴隷商人の所に戻されて調教とやらを受ける事にもなるんだろうし……」
ああ、それは――。
なるほど必死にもなるか。
ここは俺の考えの及ばなかった部分であり、未だ奴隷という境遇を理解し切れていないせいでもある。
しかしオルガという女にはどうにも羞恥心というものが足りていない。
持っていない訳ではなく、開けっ広げなのだ。
それによって全力で俺を落としに掛かっていたオルガにとってそれは闘いだったのかもしれない。
俺にはヴァリスタという最強の防護壁があるから、それを突き崩す攻城戦、なるほど死闘。
それはもしかすれば俺に対して好意を抱いてくれているのかもしれないし、結果的に俺もオルガを女として捉えてしまった。
それこそが俺を“仕留めた”という事なのだろうか、この場合射止めるというのだと思うが、どちらも似たような比喩だ。
やはり調教されていたのは俺なのか、しかし俺は自制しなければ大変な事になってしまうからして――。
この世界の者はやけに信仰心……があるのかは知れないが、神の存在を当たり前と考えている。
もしそれが偶像ではなく本当に神が存在するのであれば、世界を創った者である可能性が高い。
そうなるとこの習得条件というのも神が設定しているのだろうが、いやにガバガバである。
ヴァリスタの特殊クラスの進化も恐らく俺に対する想いでの派生であり、今回の暗殺者への派生も考えてみると神は恋路が大好きなようだ、厄介だ。
ともあれ俺は聖人君子ではないから、責任が取れないにも関わらず同室で過ごすというのはやはり危険でしかない。
間違いが起きてしまってからでは遅いのだ、であれば――。
「今日から男女別の部屋に泊まる事にする」
その言葉と共に眠っていたはずのヴァリスタが起きあがり眠気眼で吠える。
「やだ!」
ヴァリスタの反論にオルガも便乗してくる。
「どうして?」
このメンツならこうなる事は予想していた。
ヴァリスタは俺と一緒に居ると安心するようだからそれは仕方ない。
しかしオルガは容赦なく色目を使って来る。
だから予め部屋を別けておかなければならない。
「理由は、俺が男だからだ」
「意味わかんない! ライ嫌い!」
「そうだよ、意味がわからないよ」
「悪いがこれはお互いの為だ、ヴァリーだってオルガがメス臭くなったら嫌だろう」
ヴァリスタは俺の言葉を受けて俯いて唸るが、すぐに答えを見つけ出したようだ。
「もうライは撫でてくれないの?」
「何、メス臭いって!?」
「撫でるぞ、凄い撫でる。ただ寝る時だけ別にしよう」
「じゃあ良いよ」
「ええ!? ちょっとヴァリスタそんな――」
「今日から男女別、決定な。ではまずは買い出しに向かおう」
「うん」
「――そんなあ」
喚くヴァリスタを言い含めて、オルガをスルーし続けた。
ヴァリスタはまだ小さいから俺に撫でられているだけで満足なようだし、やはり恋心というよりも親子愛というものに近いのではないだろうか。
オルガは何というか、同室は危険だ。
そして無視されて赤くなるのは勘弁してほしい、とても扱いに困る。
ともあれ俺はこの選択が最善だと信じて、街へと繰り出した。




