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第51話「モーニンググローリー」

 朝、息苦しい朝。

 昨日といい体に変な圧が掛かっていて、俺は唸りながら目を覚ました。

 胸にはヴァリスタ、腹部にはオルガの頭が乗っかっていた。


「朝だぞ」


 時刻は五時、良い時間だ。

 ヴァリスタの背中を揺すってやると、むにゃむにゃとその小さな口を動かして頭を擦りつけて来る。

 参ったな、起きそうにないので先にオルガを起こす事にする。


 ヴァリスタを抱いて左横に寝かせてやってから、上半身を起こす。

 オルガが腹部からずり落ちて、その頭が下腹部へと到達した。

 ううむ、何とも言えない気分になる。


 その白緑の髪へと手を伸ばして揺すって起こそうとすると、オルガは目を開いて笑みを浮かべた。


「起きていたのか」

「キミって意外と大胆」

「お前さあ……」


 いつから起きていたのか、はたまたわざと腹に頭を乗せたのか。

 この邪険にされて頬を染めるオルガという女の考えが俺には読めないという事だけはわかった。


「オルガは俺を怒らせて楽しんでいるのか」

「ち、違うよ。いや、違わないけど」

「違わないのかよ」

「ええと、まずボクはキミが本気で嫌っているかどうかがわかるから――」

「ちょっと待てなんだそれ」

「――だって精霊が教えてくれるからね」


 つまり俺がブチ切れていれば、少なくともその瞬間はオルガに対して嫌悪感を抱く訳で、そうなっていればオルガは察知して行動を変化させるという事か。

 それはもしかすれば奴隷商で初めて会った時の必死の態度がそれなのかもしれない。


 そうして、恐らく俺の態度の矛盾に気付いたのはオルガを罵倒した時。

 それは椅子から降りるように命令して、その後の数秒間の静止の間なのではないだろうか。

 あの時の俺はオルガを鞭で叩くのはまずいと考え、その後の行動を激しく迷っていた、いわばターニングポイントだ。

 その心情を表面的にだが覗かれて、俺の矛盾に気付いてしまった。


 その後はオルガは一気に従順となり――怖ろしい話だが、もしかすれば調教されていたのは俺の方だったのかもしれない。


「それでキミって意外とボクの事好きでしょ?」

「いや、嫌い。胸無いし、腰細いし」

「ほら、今嘘ついた」

「……嫌いではないが」

「まぁ今のはボクの予想だけどね」

「はあ!?」

「言ったでしょ、精霊が教えてくれるのは善か悪か、つまりボクを好いているか嫌っているかの単純なものだよ」


 善人、悪人はそれ即ち“自分にとって善か悪か”なのだろう。

 であればオルガを傷付けるつもりのない俺は、善という事になる。

 それ以上は俺の態度からの推測で、もしかすれば俺という男はそれほど見破りやすいのか。




「もういい、この話はやめよう」

「どうして? ボクの事嫌いになっちゃった?」

「どうせわかってんだろ」

「ふふ」


 俺はオルガを嫌っていない。

 身体は好みでなくとも美人であるから、男としてそれは悪い感情は抱かない。

 本人に美人の自覚があるかはさておき、これは男の性だ。


「とりあえずヴァリーが起きる前に準備を済ませてしまおう」

「任せてよ……って、何を準備するの?」

「まずはクラスチェンジからだな」

「ボクは森林に住んでいたから詳しくないけど、確か神殿で出来るんだよね。これから行くの?」


 やはりクラスチェンジは神殿なのか。

 とすると、やはり普通にクラスチェンジする場合はパーティ編成よろしく神官が神と交信して云々の面倒な行程が入るのだろう。


「クラスチェンジは俺が使える」

「へえ……へえ!? どういう事!? あれって神様にお願いして変更してもらうとか、そういうのだって聞いた記憶があるけど」

「いや、何かよくわからないけど出来る」

「武装刻印といい物を消す魔法といい、ボクのご主人様は凄いね」

「からかうなよ」

「はい、ご主人様!」


 手玉に取られてる感が凄いのだが、とりあえず俺はオルガと話すと負ける。

 俺がヴァリスタに強くて、ヴァリスタがオルガに強くて、オルガが俺に強い、三すくみの関係だ。

 いや、俺もヴァリスタを撫で回して心を落ち着かせるから、もしかすればヴァリスタ一強なのかもしれない。


 そんな変な事を考えつつ、メニューを開いてパーティ申請を投げる。


「うわっ」

「承認してくれ」


 オルガがぎこちなく手を動かしてパーティインした所で、オルガのクラスチェンジを行う。

 さて、どんなクラスがあるのか。

 俺は龍撃択一状態だったし、ヴァリスタは特殊クラスしかなかったし、そもそも二人とも近接型だ。

 思えば遠隔クラスのクラスチェンジは初めてだ。



狩人ハンター

得意 筋力 精神 幸運

苦手 無し

特殊効果 狩猟(矢の飛距離を伸ばす)

習得条件 出生・狩猟者


暗殺者アサシン

得意 筋力 魔力 敏捷 幸運

苦手 HP MP 体力 精神

特殊効果 始末(未発見時に初撃の威力が上がる)

習得条件 強敵を仕留める者・狩人からの派生



 ふたつしかない、普通はこんなものだろうか。

 暗殺者……物騒だが狩人からの派生のようだ。

 能力から見ても狩人を攻撃特化へとピーキーに強化したクラスだろう。


 特殊効果の始末はなかなか有用そうだ。

 オルガ自身が精霊で索敵も得意と言っていたし、先手必勝で一撃を加える事が出来るはずだからこれはかなりオルガと相性が良いだろう。


 問題は習得条件だ。

 オルガはレベル的に見ても、本人の談からしても戦闘経験が無いはずだ。

 それで“強敵を仕留める”という功績を挙げられるとは考えにくい。


「オルガは何かモンスターを倒した事はあるのか」

「無いけど、どうして?」

「暗殺者ってクラスが出ているんだが、その条件が強敵を仕留める事なんだよ」

「条件? クラスチェンジの?」

「そう」


 思えばクラスチェンジの条件が見れるというのも異常なのか。

 スキル取得で取ったものを当たり前に使っていると、どうにも世界の常識から外れて行くな。


「強敵と言われても、ボクはそもそも戦闘経験が無いよ」

「ううむ、なら知り合いに滅茶苦茶強い人が居て亡くなったとか」

「狩人だった父さんは死んじゃったけど、それほど強い人ではなかったと思うなあ」

「悪い事聞いたな、ごめん……」

「いいよ、キミになら」


 にこりと笑んだその顔はいやに嬉しそうで、どうにも胸が高鳴ってしまった。

 マゾ怖いとか思っていたのに、我ながら現金なものだ。

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