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第49話「ついてない」

「よし! 風呂に入っていいぞ!」


 俺はオルガに向かって言った。

 風呂、風呂だ。

 風呂は気持ち良い。


「ボクが入っていいの?」

「ああ、一緒に入ろう!」

「え!?」


 素っ頓狂な声を上げたオルガ。

 俺はこのイケメンエルフを信じる事にした。

 結局完全奴隷化計画は失敗だが、俺に合っていない事はわかった。


 だがそれ以上にオルガには嫌な思いをさせた。

 これは良くない。

 やはり奴隷だからといって酷い扱いはするべきではないと、思い知った。


 俺は人生初の土下座をする。


「今まで本当に申し訳ありませんでした」

「え! ちょっとやめてよ! ヴァリスタも見てるよ」

「いいや、だからこそだ。謝らせてくれ」

「う、うん……。でも何でそんな。何だかんだ言っても結局ボクはキミの奴隷なんだよ?」


 俺は身体を起こしてオルガを見上げる。


「俺はお前のようなイケメンに盛大に裏切られた事があってな、それで警戒していたんだ」

「あ、うん。いけめん?」

「そう、それで奴隷として調教してやろうとか、酷い事をしていたんだ。だけどもう止める、お前を信じる事にするよ、オルガ。罵った事を水に流せとかそんな都合の良い事は言わないが、これから共に戦ってほしい。あとハーフエルフって俺は格好良いと思うぜ」

「そ、そんな事言われたの初めてだよ。それとキミが色々言っていたのはわざとやっているって知っていたから、ボクは特に気にしていないんだけど」

「え?」

「だって結局一度も手を上げてないよね、それに精霊もキミが悪人ではないと言っているよ」


 精霊って、一方通行でなく会話をしたりも出来ているのだろうか。

 つまり最初から、俺は一人で踊っていたという訳か。

 あれ、ちょっと待て。


「ちょっと待てオルガ、どうして俺を選んだんだ。俺は最初、お前を買うつもりはなかったし、完全に見捨てていたのは気付いていただろ。自分で言うのもあれだが、俺は優しい人間じゃない。でも苦痛を受けても必死に自分の技能を語っていたよな」

「精霊が囁いたんだよ、この人なら大丈夫だって」


 思えばあの場で主張してきたのはオルガだけだ、他の二人の奴隷は声すら出さなかった。

 だとして、こいつは、オルガは、はなから俺が安全な物件と知っていて買われようと躍起になっていたのか。


 俺はそんな事も知らず、馬鹿みたいに下種な奴隷主人を演じていた。

 だからこそオルガはそんな俺を見て飄々と奴隷を演じていたというのか。

 うわ、何やってんだ俺、これ凄い恥ずかしい人ではないだろうか。


「そんな顔しないでよ。ボクはキミに出会えて幸運だったんだよ。あのままあそこに居れば、それこそあの奴隷商人の調教とやらを受けていただろうからね」

「うぐぐ……」

「でも精霊でなくともキミのあの表情ではわかってしまったかもね。時々素に戻っていたし」


 何という事だ、イケメンはやはり裏があるのだ。

 真意を隠せるからこそのイケメンであるのか。

 赤くなっていたのも男色趣味ではなく、俺の馬鹿っぷりに笑いを堪えていたのだろうか。


「背中を流してやろう」

「え!?」

「さっさと来い!」


 俺は風呂場へと向かうと、素っ裸になり布に石鹸で泡立てはじめる。

 男と男の付き合いだ、あの貧弱ボディの背中を流して、俺達は仲間となるのだ。

 何だか凄く古臭いけど、男同士だからどうでもいいや。




 遅れて入って来たオルガは前面を布で隠している。

 恥ずかしがりやさんめ。


「あ、あの……」

「ほら、そこ座れ」

「う、うん……」


 俺は座ったオルガの背中を洗い始める。

 小さい背中だ、果たしてこの身体で弓なんて射れるのだろうかと考えてしまうが、あのヴァリスタでさえ身の丈ほどの剣を振る世界だ。

 俺はこれまでの無礼の詫びにしっかりと洗ってやり、背を向ける。


「よし、今度はオルガの番だ。これはな、俺の国では背中を預けるに値する相手にのみ許される神聖な儀式なのだよ」

「嘘でしょ」

「まあそうなんだがな」


 これが精霊パワーか。


「あ、ちなみに今のは精霊が囁いたんじゃないよ。キミは嘘をつく時なんだか大袈裟な態度を取るよね」

「うぐぐ……」


 これがイケメンパワーか。


 決して強くない、しかし弱いわけでもないその力で背中を洗って貰い、この一日の自分の馬鹿さ加減を振り返る。

 結局、身の丈に合わない事をしても空回りする、意味が無いのだ。

 だから俺は、俺のやり方で信頼の置ける仲間を見つけるしかない。




「ふう、ありがとう。お前には本当に迷惑を掛けたな、オルガ。俺は良い主人では……ない、が……」

「あ……」


 振り返ると、そこには白緑の髪のハーフエルフ。


 顔は紅潮していて、前面を隠していた物がはらりと落ちて――俺の視線は自然と追う。

 細い身体はしかし腰で更に細くなり、臀部に掛けて僅かに膨らみを見せる。

 そうして落とした視線の先、そこにはあるはずのものがなかった。


 イケメンにならあるはずの天を穿つ塔が――。




「ない、ついてない」

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