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第46話「フルメタル・ジャバウォック 中」

 俺は威風堂々と部屋へと引き返すと、待っていた二人の奴隷に目を向ける。

 オルガはヴァリスタと自己紹介を済ませていたようだ。


「では宿へ向かうとしようか。これは奴隷の証である首輪だ、付けさせてもらうぞ」


 俺はオルガへと近寄り、おもむろに首輪を掛ける。

 首輪から繋がれた鉄の鎖がジャラリと音を鳴らし、俺の左手がその先を握り込んでいた。


「え? あの……」

「では行こうか」


 首を傾げるヴァリスタと共に歩き出す。

 オルガは鎖に引っ張られないよう微妙な速度を維持してついてくる。


「ね、ねえ、キミ。これなに、どうしてボクだけ」

「大丈夫」

「え?」

「大丈夫」


 俺は自分に言い聞かせるように言った。

 これより俺は、修羅となる。

 右には鞭を携え、左にはオルガを繋いだ鎖。

 それはもう奴隷というよりもはやペットのようで、俺は震える心を抑え込んだ。




 奴隷商を出て街の中でも富裕層の利用がメインの南地区へと向かう。

 入った宿の玄関ホールはそれは広く、優雅で豪華絢爛。

 魔法的な明かりに淡く包まれた世界はまるで地下ではないようで、カウンターの受付が俺の左手にある鎖を見て、引き攣った顔で仕事を始める。


「お泊まりですか」

「はい、とりあえず一泊」

「一泊銀貨二十枚となります。お部屋はどう致しますか」

「ダブルで」


 本日より、一泊銀貨二十枚の高級な宿に泊まる。

 理由は金があるから豪遊したいという訳ではない、奴隷調教の為だ。

 案内された部屋は二階の奥、俺は奴隷を作り上げる。


 大きな白い部屋には暗い赤の絨毯、奥にはベッドがひとつある。

 中央に配された白の机は金色に縁どられており、それは華美過ぎず、美しい。

 椅子にしてもそうだ、ほどほどに綺麗で主張し過ぎない家具達は窮屈さを感じさせない。


 俺とヴァリスタが椅子に座ると、オルガもまた続いて椅子に座る。

 鎖がジャラリと絨毯に落ち、俺は鞭を握り締めて決意する。


「うわあ、凄いね。いつもこんな所に泊まっているの?」


 きっと森林地帯に住んでいたから、こういった部屋は珍しいのだろう。

 未だ貫頭衣を着用したままのオルガはあちこちを見ながら椅子でくつろいで……だが駄目だ――。




「おいハーフエルフ」

「え、なに? それよりボクはオルガって名前が――」

「何故貴様が椅子に座っている」

「え!? でもヴァリスタも……」

「口答えするな! 床に座れ!」


 オルガは白緑の髪を大きく揺らして椅子の上で身を縮こまらせたあと、ゆっくりと床へと座り、両足を腕で抱えた。

 いわゆる体育座りの姿勢のオルガは、その深緑の瞳が恐る恐ると俺を見つめて、そうして数秒、俺達は停止した。

 いや無理だろ、鞭で叩くとか出来ないだろこれ。


 このイケメンエルフ相手なら俺は修羅になれる気がしたが、そんな事は無かった。

 肉体的な苦痛はよくない、鞭を振ってしまえば、俺は恐怖の対象でしかなくなってしまう。

 鞭の存在はあくまで威嚇。

 もっとこう、何か――。


「座り方が違う! 正座だ、足を折り曲げて下にしろ! 貴様自身の体重が罰だ! ガリガリしおってからに!」

「こ、こう? 難しいね」


 一体何を食べて育ったらこんな細くなるんだろうか、やっぱり雑草とか芋虫を主食としているのだろうか。

 自分の足を見下ろしてその白緑の髪を揺らしながらぎこちないイケメン正座となった所で、俺はオルガの前に片膝をついて見下げると、その顎に手をやって顔を上げさせた。

 随分綺麗な顔してるな、やはりエルフの血筋というのは男も美形揃いなのだろう。


「今日から俺が貴様の飼い主だ。剣を持つ前に、魔法を撃つ前に、役立たずなゴブリン以下である今の貴様には『はい、ご主人様』とだけ応える事を許可してやろう」


 ギ・グウごめんなさい。

 役立たずなゴブリンというのは迷宮のゴブリンの事なんだ。


「わかったかハーフエルフ!」

「はい、ご主人様」

「お、おう」


 あれ、おかしい。

 何故あっさりいう事を聞いたのだろうか。

 先程口答えするなと言ったのが効いたのだろうか。


 いや、奴隷だから、表面上は従っているだけかもしれない。

 何せイケメン、何をするかわかったものではない。

 油断は禁物だ。


「キミは優しい人だって、精霊が言って――」

「言葉も理解出来ないのか! 何が精霊だこのメンヘラ小僧め!」

「え? めんへら?」


 心が痛い。

 間違っている気がしてならないが、この良心は塗りつぶす。

 俺はもう裏切られる訳にはいかないのだ。


「俺の言葉には何と応えるのか、教えたはずだ」

「ご主人様?」

「その無駄に長い耳は飾りか! よく聞け、『はい、ご主人様』だ、メンヘラ小僧!」

「は、はい、ご主人様!」

「それで良い」

「はい、ご主人様……」

「声が小さい! 股間の魔石から声出せ!」

「え!? は、はい、ご主人様!」

「よし、お前はそこに座っていろ!」

「はい、ご主人様!」


 正座のままのオルガを置き去りに椅子へ座ると、俺はヴァリスタをひと撫でして心を落ち着けた。

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