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第44話「戦火の影響」

 エルフだ、エルフ。

 ハーフだけど。


 これまでエルフを見かけなかった訳だが、ついに出会った。

 ハーフという事は他の種族の血が混じっているのか。

 エルフは美形しかいないとはよく言ったもので、ハーフでさえこのイケメン。




 思案する俺の耳に、先程までスルーしていた奴隷商の言葉が入って来る。


「これが気になりますか。これは北東の森林地帯より預かりました、エルフの契約奴隷でございます」

「契約奴隷?」

「はい、こちらは先の魔族出現により被害に遭ったエルフらへの支援の代償として差し出されたもののひとつで、一年の契約期間となっております。街で雇用された者以外森林より出る事の少ないエルフですから、滅多に出回りませんよ」


 魔族征伐戦の前に被害にあっていた場所があったのか。

 北東というと、王城からまっすぐ北へ向かった地点だろうか。

 塔の街よりずっと北の開拓地が征伐戦の舞台であり、ゾンヴィーフはあそこを根城としていた訳だから、まずは近隣であったエルフの森林が狙われたのだろう。


 しかしやはり森林地帯に住んでいるのだな、やっぱり芋虫とか食べているのだろうか。

 カブトムシの幼虫などはそれはもうクリーミーらしいが、現代っ子たる俺には無理だ。




 ヴァリスタを撫でる手を止め、俺は質問を投げかける。


「それは戦闘にも参加出来るのか」

「可能でございますよ。契約にもよりますが、これの場合は全て可能であります」


 にたりとレオパルドは笑みを浮かべた。

 いくら美形とはいえ、残念ながら俺に男色趣味は無い。

 能力値も特筆すべき点は無いし、強いて言うならこの暗い地下において時間を知らせてくれるという精霊魔法の持ち主がエルフであったと知れたのは良かった。


 それを活かして街で働く者が一定数居るだけで、他は森林でひっそりと暮らしているのだろう。

 さて、その精霊魔法の詳細だが。



精霊魔法 精霊に呼びかける。



 何とも冴えない。

 いや、もしかすれば攻撃魔法に転用出来るのかもしれない。

 だとすれば聞いてみるべきか。


「ところでそのハーフエルフは何が出来るのだ」

「あ!」

「え!?」

「ん? どうした?」


 やばいな、また何かよからぬ事を言ってしまっただろうか。

 レオパルドだけでなくイケメンエルフまで驚いている。

 グレイディアとの会話でよく口をすっ転ばせているからして、不安になる。


「キミはボクがハーフだと気付、ぐっ……!?」

「誰が話して良いと言った! そのだらしない口は矯正せねばなるまいな! いかんせん仕入れたばかりでして、このような不躾な者を出してしまい申し訳ございません、ライ様」


 レオパルドがイケメンエルフに向けた拳を握り締めると、イケメンエルフは首を押さえて苦しみだした。

 隷属に逆らうとこんなんなるのだろうか、こっわ。

 異世界に来て以来初のドン引きである。


 イケメンエルフがガクガクと崩れ膝をついた所で、あんまりなので声を掛ける。


「それくらいにしておいてやれ、俺は怒っていない」

「は、はあ。しかしライ様、この者は……」

「何か言いたげだったろう、話をさせてやれ」

「それでは……」




 レオパルドが力を弱めるとイケメンエルフは呼吸を整えて、立膝のまま涙目で俺を見上げた。


「はぁっ……はぁっ……。ボク……私は、ハーフエルフです。魔族が襲ってきた時はすぐに逃げて生き残ったんです。でもハーフだから、忌み嫌われていて、それで、売り飛ばされました。私は、弓が使えて――」


 息も絶え絶えに語られたのは売られた経緯と持ちうる技能。

 ハーフエルフって嫌われているのか、村八分状態だったのだろうか。

 それで支援に対する献上品として差し出されたと、なるほど、なかなか胸糞悪い。


 だがこれに不正は無い。

 相応の対価と称して行き過ぎた条件で契約奴隷化されたこのイケメンエルフは、しかし泣き寝入りするしかないのが現実だ。




 決して残虐な性格ではなく、本人に他者を殺せるだけの力が備わっていないにも関わらず犯罪奴隷におとされたヴァリスタがそうであったように、だ。




 さて、それでこのイケメンエルフはどうしたものか。


「私は戦力となる奴隷を探している。ハーフエルフ、お前は何が出来る」

「弓で、敵を倒せます」

「殺した事はあるのか」

「……無い、です」


 別段これは重要ではない。

 俺も、ヴァリスタも、誰だって初めは殺しの経験なんて持っていないのだ。

 このイケメンエルフの場合ハーフエルフとして忌み嫌われていたという事だし、自衛手段として弓術を持つまでに修練したのだろう。


 知りたいのは精霊魔法、果たしてどのような効果を持つのか。


「他にはないのか」

「精霊魔法……精霊魔法が使えます!」

「それは何が出来る」

「時間がわかります! 他のエルフよりも、正確に!」

「私はお前よりも正確にわかる」

「え!?」


 俺には視界に表示させた時計機能がある。

 だからその能力は必要ない。

 他だ、もっとこう、モンスターを爆破出来ますとか、そういった過激なのが欲しい。


「他には何が出来る」

「……場所! 敵の位置がわかります! 正確に!」

「私も小規模だが正確にわかる」

「え!?」


 こんな所か、どうやら精霊魔法とは攻撃性能は度外視の魔法らしい。

 駄目だな。

 前二人の価格からして、このイケメンエルフも恐らく高いだろうし、やはり金貨十枚でそれなりの者を見繕うべきだ。


「主人、もういいぞ」

「はい。お目汚し失礼致しました」

「ま、待って! そうだ! まだ――」

「いい加減にしないか、これ以上お客様に迷惑を掛けるな馬鹿者!」

「――うっ……ぐ……! ボクは……ま、ぞく、魔族……場所、わか……る」


 魔族の場所が、わかる。

 そう言ったのだろうか、だとすれば――かなり、使える。


「待て、話をさせてやれ」

「は、はあ」

「ごほっ、ごほっ……。ボ、ボクはこれまでも魔族が出て来る前に精霊に教えてもらっていたんです。だから今回も真っ先に逃げられたんです! それにキミ……貴方の力は知りませんが、ボクは広範囲まで敵の位置がわかります!」

「魔族の出現予測か」

「そうです! ボクには魔族の出現が予測出来ます!」




 精霊魔法、使える。


 よくわからないが、この話しぶりだと普通のエルフよりも精霊魔法に対しての適性が高いようだ。

 いや、あるいは精霊に愛されているとか、そういった元の世界ではオカルトと切って捨てられてしまう類の話なのかもしれない。


 魔族を真っ先に叩く事が出来れば被害は少なくて済む。

 地下を救う気はないが、地下を亡ぼされて困るのは俺なのだ。


 そのためにこのイケメンエルフは、使える。


 今を逃せば手に入らないだろう。

 何せこの美形、下手をすると何処ぞのお貴族色惚けオバチャンに飼われてしまうかもしれない、それはまずい。




「よし、買おう。主人、このハーフエルフを売ってくれ」


 俺がレオパルドを見上げると、そこには青ざめ引き攣った顔があった。

 俺は全財産をはたいた所で金貨十二枚程度だ。

 俺とレオパルドのよしみで、その辺りに抑えて頂くしかないだろう。




「もしやとは思うが、魔族征伐戦で王も認める戦果を納めた新進気鋭の冒険者に、ハーフをピュアと詐称して売り付けよう……などと考える者はいまいな」

「こちら、金貨百枚となっております……」

「忌み子とは存外高いものだな」

「金貨五十枚……」

「時にフローラ姫をご存知か」

「は、はあ。それは勿論」

「実はあの謁見以来、私の後ろにはフローラ姫が――」

「金貨二十五枚!」

「ちなみに今、私の出せる金貨は十枚だ」

「金貨十枚でお身請けください……」

「なんという価格破壊。人を見る目のある主人は、奴隷商人として大成するだろうな」




 かくして俺は最高のスマイルを浮かべて二人目の奴隷を購入したのである。


 商談を成立させニヒルな笑みを浮かべたレオパルドは、心なしか老けたように感じられた。

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