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第41話「追加効果」

 土の迷宮へ向かう為、カンテラを片手にヴァリスタを連れて南門から街を出る。

 検問を通って、そのまま真っ直ぐ南下だ。

 マップは北を上として固定してあるから、こういった時に非常に便利だ。


 歩き続けて三十分。


 魔族征伐戦の直後であるから人影ひとつ見えはしないがそれ以前には人が行き交う事が多い道だったのだろう、舗装されている訳でもなく道はゴツゴツと踏み慣らされておりており草も生えていない。

 とはいえ俺のマップには白点がふたつあり、何だか昨日よりも距離が近い。

 およそ十メートルといった所か、左右にはおあつらえ向きに浅い木々の層があるから、調度その左手後方に潜伏しているようだ。


 そういえば、俺がおちてきたのもこの道から少しずれた地点、調度この左手側だったか。

 この薄い壁となった木の奥手には平野が広がっており、真っ逆さまだった訳である。

 嫌な事を思い出してしまった。




 それから更に進むと、いくらかの光が見え始めた。

 あそこが土の迷宮だろう。

 ざっくりと柵の仕切りが設けられており、入り口となる正面には簡易的な小屋もあり、検問があるようだ。


 塔もそうだが、迷宮というのはある種国の財産なのかもしれない。

 そしてもし迷宮からモンスターが外へと出た場合に始末する役割を担っているのだろうか。

 といっても塔と同質であればそんな事態になるとは思えないが、いざという時の措置は必要なのだろう。


 いや、開けっ広げである塔を見た限りではまた違う役割なのか、例えば誰が迷宮へと進入したのだとかを記録に取るとか。

 そういえば犯罪奴隷なんて存在するくらいだし、盗賊なども居るのだろう。

 ともすればそういった手合いが入れないようにしているのかもしれない。


「どうも」

「身分を示す物を提示しろ」

「ギルドカードでよろしいでしょうか」

「ああ、通っていいぞ」


 ギルドカード強いな。

 そのまま通ろうとした所で呼び止められる。


「この娘は」

「私の奴隷です。首輪もついていますよ」

「少し調べさせてもらうぞ」


 何やら石版を持ってきて、俺とヴァリスタの血がそこへ採取された。

 どうやらこれで奴隷か調べられるらしい、ある種のネットワークだろうか、凄い仕組みだな。


「……よし、通っていいぞ。金があるなら娘にもギルドカードを発行してやれよ」

「そうします」


 その発想は無かった。

 物扱いしていた訳ではないが、奴隷というから形式上は完全に所有物扱いなのかと思っていた。

 奴隷商が色々な説明を省いたのはヴァリスタが犯罪奴隷だからなのかもしれない。


 人権的に最下位に当たるであろう犯罪奴隷、それも監禁状態だったものを好んで購入するという事はつまり――そういう事だ。

 奴隷商のブラックリストに載っていたりしないだろうな。

 やはり次からはそれなりの奴隷を買おう、そうしよう。




 ひと手間あったが無事に検問を抜け、いざ土の迷宮。

 辺りは魔法的な光で淡く照らされており、こんもりと盛り上がった大地にぽっかりと入り口が開いている。

 何というか、神秘的な雰囲気ではない。


 一歩踏み入ると、階段が見えた。

 次第に暗く暗く、視界が薄ら闇に包まれ、カンテラの光を頼りに降って行くと突然明かりが射し込む。


 そこは土を抉り取ったような空洞の一本道。

 枝分かれした左右の道があり、どうにも塔の六十階層を思い出す。

 マップを確認してみたが、どうやら迷宮では地形を表さないようで、敵の位置を知れる程度だ。


「ヴァリーは入った事あるか?」

「塔しかない」

「そうか、俺もだ」


 二言三言話していると、わき道からモンスターが現れた。

 大きすぎる鷲鼻に緑の体色、ボロい服を着た――。



ゴブリン 悪霊 Lv.1

クラス ゴブリンファイター

HP 70

MP 0

筋力 15

体力 5

魔力 0

精神 0

敏捷 4

幸運 1

スキル



 ゴブリンだ、弱い。

 絶望的な弱さだ、俺の攻撃では即死してしまうだろう。

 ヴァリスタに魔剣ゾンヴィーフを渡して、攻撃してもらう事にした。


「よっ」

「ギャアアア」

「あっ……」


 ヴァリスタが軽く振った魔剣ゾンヴィーフはゴブリンの身体を撫で斬り、それだけで絶叫を上げた。

 ヴァリスタの筋力が60で、ゴブリンの体力が5だから、そのダメージは55となる。

 HPのほとんどを持っていく一撃だ、それは絶叫ものか。


「ヴァリー一旦離れて様子を見るぞ、剣を返してくれ」

「う、うん……」


 何だ、どうにもヴァリスタの顔色が悪い。

 まさか自傷ダメージとか、自分もゾンビ化とか、そういった要らぬ副次効果があったりはしないよな。

 一応確認しておこう。



ヴァリスタ 獣人 Lv.1

クラス 餓狼

HP 60/60

MP 0/0

SP 1

筋力 60

体力 10

魔力 0

精神 10

敏捷 60

幸運 60

スキル

状態 隷属



 よし、大丈夫だ。

 そういえばこの小柄でありながらスキル無しで戦っていたんだな、素の剣術の腕前は俺より上かもしれない。


 さて、ゴブリンを見てみよう。

 行動に目立っておかしなところは無い。

 いわゆる肉を貪るだとか、他者に感染させるだとか、そういった現象は見られない。


 試しに俺の左腕を斬り付けさせてみたが、能力値の差が酷過ぎてダメージは1とかそういった値であり、まるで痛みも無い。

 どうやら以前イケメンから攻撃を貰った時のダメージ0は逆光ならではのバグ現象だったようだ。


 肝心のゾンビ状態はこんな感じだった。



ゾンビ 回復効果が逆転する。



 回復がダメージに転化される、いわゆるアンデットタイプの効果だろうか。

 なかなかどうして微妙な物を遺してくれたなゾンヴィーフ。

 まず俺のパーティにヒーラーはいないから、回復魔法で攻撃なんて真似は出来ない。

 回復魔法が使える光魔法の習得はスキル取得で誰でも可能ではあるのだが、そもそもとして俺もヴァリスタも近接特化の能力値だから、有効活用は出来ない。


 現状魔剣ゾンヴィーフは使い物にならないとして、確認も終わったしゴブリンにはトドメを刺しておこう。

 魔剣ゾンヴィーフを振り下ろして、違和感に気付く。

 何やら刀身がぶれる。


 そんな感想も置き去りに、振り下ろした剣はゴブリンを断ち切った。

 ガチャリと、嫌な音と手ごたえがした。

 魔剣ゾンヴィーフを見てみると、その刀身はぐらついており、既にガタがきているようだった。


「壊れかけているのか」

「ごめんなさいごめんなさい!」


 ヴァリスタが土下座の如き姿勢でもって謝罪を連呼し始めた。


「捨てないで!」

「捨てないから、ってゴブリンが湧いて来たな。一旦逃げるぞヴァリー」

「ごめんなさいごめんなさい!」


 声に反応したか、ゴブリンが何体か脇道から出てきたので、魔剣ゾンヴィーフを謎空間に収納し、ヴァリスタを右肩に担いで階段を駆け上がった。

 ヴァリスタは軽いなあなどと馬鹿な感想を抱きつつ、耳ともで連呼される言葉にどうしたものか悩む。

 この状態のヴァリスタでは戦いにならないだろう。


 迷宮から跳び出して、淡く照らされた暗い世界へと舞い戻った。

 ヴァリスタを肩から下ろしてやると、猫耳をぺたりと伏せて、尻尾は股座に挟み込むようにしており、そんな乱心の姿で足元に縋り付いて来た。


「ライ! ライ、さま!」

「な、なんだよ突然」

「怒ってる、ます?」

「怒ってないから、大丈夫だから」

「捨てない、です?」

「捨てない」


 言葉遣いが最初の頃の微妙な敬語に戻っている。


 あの奴隷商の地下へと叩き込まれる光景を想像してしまったのだろうか。

 買ってからは散々肉で餌付けしたから、それは戻りたくはないだろうが、こちらも捨てるつもりは毛頭ない。

 いや、ただ細すぎたので肉付きをよくしてやりたかっただけだが。


 ここは奴隷の主人として適当にそれっぽい事を説明して納得させるべきだろう。

 武器破損の度に泣き付かれてはたまったものではない。


「まず装備ってのは消耗品だ、壊れる度にそんなになっていたら戦いにならないだろ。それにこの俺が武装刻印した武器は、素材となったあのくっせえゾンヴィーフのせいでボロボロに腐ったに違いない」

「そうなの?」

「そうだよ、全部あのゾンヴィーフって奴が悪いんだ。だから今回はヴァリーは悪くない、あと装備壊しても泣かない。それに捨てないから安心しろ」

「そっか、わかった」

「でもだからといって俺の言う事を聞けないようなら叱る事くらいはあるからな、今後はよく考えて行動するように」

「うん!」


 全部を全部ゾンヴィーフのせいにすると、何をしても良いとかそういった歪んだ思想を持ってしまいそうなので釘を刺しておいた。


 しかし実際問題、この武器の脆弱っぷりはゾンヴィーフの腐肉のせいなのかもしれない。

 バタフライエッジアグリアスは特殊として、ブラッドソードですら壊れる気配が無いのだから、一振り二振りで壊れかけになるのはさすがにおかしい。

 もしかすれば魔族の素材で武装刻印すると装備の耐久力が落ちて芳しくないのかもしれない。


 魔族素材は鎧などに使う……のも結局は耐久性の問題で、攻撃を受けてしまえば一緒か。

 アクセサリーなどに使うのが正解なのかもしれない。

 とはいえゾンヴィーフの腐肉に関してはゾンビ化アクセサリーなど欲しくも無いので、武器で妥当であっただろう。




 落ち着いた所でヴァリスタのステータスを確認してみたが、レベルが上がっていない。

 これまで極端に高レベルな相手としか戦ってこなかったが、適正レベル帯の相手では複数体倒す事でようやくレベルが上がるのだろう。




 さて、迷宮に関しては入ってみてわかった事がある。

 それは土の迷宮の入り口は、塔の六十階層と同じ構造を有しているという事だ。


 恐らく一階層は直進すれば階段が見つかるだろうが、その先は未知の領域だ。

 地図がなくともあのレベル帯であれば余裕だろうが、ゾンヴィーフ戦を共にしたグレイディアがわざわざ勧めてきたのだからそれなりの理由があるはずだ。

 もしかすれば先人がマッピングした地図なども販売しているかもしれないし、今回は魔剣ゾンヴィーフの追加効果を知るついでに小手調べとして訪れただけだから、一旦塔の街へ帰還して準備を整えよう。

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