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第39話「追跡者」

 レイゼイと別れ、俺はヴァリスタと共に武器屋へ来ていた。


 ヴァリスタの筋力値的に今はまだバタフライエッジアグリアスでも戦えるだろうが、レベルが上がればすぐにナマクラになるだろうから、普通の武器が必要になった次第である。

 木造建築の立派な面構えのその店で、端から武器を物色する。

 俺には詳細表示があるから、良質な武器でありながら外面の悪さで叩き売りされているものが見極められるというのではないかという算段だ。



ロングソード 剣

追加効果


ロングソード 剣

追加効果


ロングソード 剣

追加効果



 こんな感じで、良い武器というのはまるでない。

 というかロングソード多過ぎだろ。

 良い武器というものがあれば今の俺の持ち金では買えないのだろうが。



炎のロングソード 剣

追加効果 火属性



 こういった物もあるが、値段は相応だ。

 正直金銭的な問題で買えない。


 明確な武器攻撃力というものは存在しないから、属性攻撃や貫通系の追加効果こそが強力な武器の証となるのだろう。

 それは五つもの追加効果を持つバタフライエッジアグリアスを筆頭に、ドロップ品であるHP吸収効果を持つブラッドソードもそうである。

 店売り品を見た限り追加効果はひとつが良いとこであり、複数付いているものはない。


 しかし掘り出し物の発掘は甘くないらしい。

 そんな折、平然と並べられた中にひとつ気になる物を見つけた。



ロングソード 剣

追加効果 -



 何だろう、この武器だけ追加効果の表記がおかしい。

 開きスロットだったりしないだろうか。

 だとすればこれと素材とを掛け合わせて強力な武器に変貌させる事も出来るかもしれない。


「店主、この剣は?」

「うん? 普通の剣だが?」

「そうですか……。ではこれと同じ物をもう一本、頂けますか」

「はいよ、銀貨五十枚ね」


 さすがに武器は高かった。

 これ以上の出費はまずい。


 俺の場合地下におとされた時点で身に付けていた武器も防具もあったし、ヴァリスタは犯罪奴隷で安かったしで金銭感覚がおかしかったのかもしれない。

 これまで食事やら宿代にしか金を使っていなかったが、日本円換算が当てにならない気がしてきた。

 少し認識を改めた方が良さそうだ。


 ロングソード一本銀貨二十五枚として、塔の街で愛用した宿の約八日分の宿泊代金に相当する。

 いや、武器の値段としてはむしろ安いのか……?

 ロングソードが大量に置いてあるし、捌けなかったとかそういう事なのかもしれない。


 とにもかくにも早めに稼ぎに入ったほうがいいだろう。

 情報収集を終えたらさっさと出立だ。


「ところで店主、素材を使って武器に追加効果を付与したり、なんて出来ますか?」

「ああ、出来るがお勧めはしねえな。知りたきゃ隣にドワーフのオッサンの工房があるから行ってみな」

「ありがとうございます、行ってみます」




 ドワーフが居るのか、猫耳娘は何というか元の世界でもよく知った存在であったが、ドワーフはいよいよファンタジーだな。

 武器屋を出て隣、これまた重厚な木造建築だが、店の奥には鉄の扉が見える。

 あの奥で精錬を行っているのかもしれない。


 さっそく店に入り見渡すと、カウンターの奥で椅子に腰かけた小さいおっさんが居た。

 髭が伸び放題のその姿は、なるほどドワーフ。

 実に俺のドワーフ像に近い外見であった。


「こんにちは、聞きたい事があるんですが」

「なんでェ」

「この剣に素材で追加効果を付与したりって出来るでしょうか」


 追加効果の表記がおかしいロングソードを見せると、奪うようにして取り上げられ、ドワーフ親父は繁々とそれを見た。


「いけるんじゃねえか」

「へえ、どうしてわかるのでしょうか」

「勘だな、長年やってりゃわかるようになる。それに俺達ァ鉄をぶっ叩くのが生きがいみたいなもんだからな。つってもあくまでも勘だし、失敗はザラなんだけどな」


 やはりこれは空きスロットか、だとすれば――。


「じゃあこっちはどうですか」


 今度は追加効果の表記に何も記載されていないただのロングソードを見せる。


「うーん、どうだろうな。厳しいんじゃねえかな」

「そうですか、では先程の剣に、これを素材として付与して頂きたいのですが」


 そう言って俺は後ろ手に謎空間から物を出す。

 ふと後ろに目をやると、先程まで後ろに居たはずのヴァリスタは既に店の外に飛び出していた。

 条件反射という奴だろうか、いや、取り出す瞬間にもう臭いを察知しているのか。


 取り出したのは布に納めたゾンヴィーフの腐肉、果たしてこれで何が出来るのか。


「うっ……!? なんだこいつぁ」

「たまたま手に入った謎の素材でして、どうして良いものか悩んでいたのですが素材として使えないかなと」

「わりぃがこいつぁうちじゃあ無理だ、臭すぎる」

「そうですか。ちなみにこういった素材で追加効果を付与するには、どういったスキルが必要なのでしょうか」

「武装刻印だな。つっても人族の兄ちゃんには習得は厳しいと思うし、それが素材かっつーと……わからんが」

「そうですか、お騒がせしました」


 ゾンヴィーフの腐肉を後ろ手に謎空間へ収納し、ロングソードを持ち直して店を出た。

 どうやら使えない事も無い……のだろう、多分、そう思いたい。

 恐らく素材表記であれば適用されるはずだ。


 だとして、もしかすれば成功するととんでもない武器が出来上がるかもしれない。


 なんといっても魔族だ。

 地下世界での神出鬼没なボスと言ってもいい。

 その素材から生まれる追加効果は、きっと凄まじい破壊力を秘めているに違いない。


 とはいえあの臭いだ、受けてくれる職人は滅多にいないだろう。




 それからカンテラを銅貨五十枚で購入し街から出ると、俺達は暗い世界をただただ歩き出した。

 目指すのは遠く微かに見える明かり……塔の街だ。


 これまで居た街は塔の街ではない、東の街だった。

 通りで裸の奴隷が居ない訳である。


 東の街といっても、それは塔の街を基準としての話だ。

 俺がぶっ倒れていた間につれて来られて、そうして王城で世話になったのだ。

 本来なら王城のあるこちらを基準にするのだろうが、俺の場合は塔を中心にしてしまっていいだろう。


 さて、パーティ編成の仕事というのは頻繁に使用してくれる客が居なければ成り立たない。

 それはつまり冒険者だ。

 王城のある東の街は騎士ばかりで、荒くれ者が少ないのだ。

 居ない事はないのだが、やはり塔の街ほどではない。




 かくして暗い道を延々と歩いているのだが、どうにもおかしい。

 マップ中央に青点がふたつあるのは俺とヴァリスタのものであるから構わないのだが、遥か後方に白点がふたつ表示されているのだ。

 場所はどれくらい後方か……恐らく半径二十メートル辺りまでがマップの表示範囲であり、マップの隅の方であるから範囲ギリギリ二十メートルの距離か。


「ライ、誰かついて来てる」

「ああ、そうみたいだな」

「わかるの?」

「そういう能力があってな」

「獣人じゃないのに、凄いね」


 これは良いタイミングかもしれない。

 ヴァリスタの頭を撫でつつ、ちらと後方へ目をやってみた。


 開けた地点には何も反応は無い。


 森の方へと視線を移すと、ステータスが開示された。



フローラ・ミクトラン 人族 Lv.15

クラス 剣騎士

HP 450/450

MP 75/75

SP 15

筋力 300

体力 225

魔力 75

精神 225

敏捷 225

幸運 225

スキル 重剣技 剣術 風魔法 光魔法



 お姫様かよ。

 やはり勇者の可能性が極めて高い俺をみすみす逃すつもりはないという事だろうか。

 それとも個人的な恨みかもしれない。

 姫自ら尾行に出るなど正気の沙汰とは思えないから、謁見の場でボロクソに言ってしまったのが尾を引いたか。


 もうひとつの白点はステータスが見れなかったが、十中八九フローラの護衛だろう。

 暗殺とかされてしまうのだろうか、厄介な事になったな。

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