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第38話「それぞれの道」

「しばらくお別れになるから、プレゼントだ」


 徹夜明け、やって来たレイゼイに紙の束を渡す。

 肌触りの悪い、非常に荒い紙。

 そこには日本語で、俺がざっくりと噛み砕いたゲーム知識が綴られている。


「プレゼントですか! わあ! って、これは……?」

「タンク、アタッカー、ヒーラー。基本の三役割ロールのテンプレ……効率的な行動を記してある。次の魔族征伐戦までにまずはこいつを騎士団の連中の頭でも体でもいいから叩き込め」

「なるほど、これは凄いですね! これなら私でも戦えます、ありがとうございます!」


 どうやら自身の戦闘に問題があった事には気付いていたらしい。

 やはり察しは良いのだ、脳筋なだけで。


「いやなに、昨日レイゼイさんが帰った後に考えたんだけどな、どうやら地下のミクトラン王家はそれほど悪辣な連中ではない……と俺は思う。勿論信じ切るつもりはないし、レイゼイさんも細心の注意を払ってほしい」

「勿論です」

「しかし騎士団に力がついて彼らだけで魔族を征伐出来るようになれば、レイゼイさんが居なくとも自然と解決する問題だと思うんだよ」

「おお!」

「そんなこんなで、しばらくは勇者レイゼイとして頑張ってもらう事になるが……」

「まっかせてください!」


 不安げなよりはよほどマシだが、えらく自信満々だ。

 心配し過ぎだろうが、保険は掛けておくべきか。




「そして、もうひとつプレゼント」

「は、はい!」


 身を乗り出してくる。

 暗黒ヘルムが、近い。


「レ、レイゼイさんには俺が使っている機能……メニューを使えるようにしておこうと思う」

「メニュー……ですか?」

「便利機能だな。ただし使うのは自分にしか影響が出ないもの、あとはターゲットの情報表示だけだ。こいつで隷属状態も見破れるから、身の周りの奴を確認する癖をつけておくんだ。ただしくれぐれも人目につく機能は使わないようにすること、でないと悪用しようと考える連中が最悪レイゼイさんを――」

「わかっています、これまでの話で、嫌というほど」


 その言葉をしっかりと聞き、パーティインしてもらいSPを1消費してメニューを取得させた。


「視界の隅の方にアイコンが出ているだろう。それをクリック」

「うわあ! 文字が出てきました、何だか気持ち悪いですね」

「それは頭ん中で思い描くだけでも操作出来るから、時間のある時にでも練習して手を動かさなくても使えるようにしておくといい。じゃあまずは自分のステータスを見てみようか」

「わかりました!」



冷泉神流子 人間 Lv.30

クラス 暗黒騎士

HP 1500/1500

MP 140/140

SP 19

筋力 940

体力 796

魔力 940

精神 796

敏捷 56

幸運 56

スキル 達人 重撃 魔力転化 HP自動回復 MP自動回復 暗黒剣 剣術 闇魔法



 俺もレイゼイのステータスを見てみたが、やはりこの能力値は攻撃型のタンクと言える。

 そういえば、勇者スキルの達人やら、効果を知らないものもある。

 毎回出会いが急過ぎて確認しそびれていたが、把握しておこう。



達人 10SPを消費し、能力値2500を振り分ける。

重撃 防御上昇の追加効果を貫通する。

魔力転化 MPと魔力を0にし、筋力と敏捷を1.5倍化。

暗黒剣 最大HPの半分を消費して、ダメージ1.5倍。



 つ、つええ。


 なんだこれは、魔力転化の筋力1.5倍も強力だが、キモは暗黒剣の“ダメージ”1.5倍だ。

 ダメージであるから、最終的な数値に乗る事になるだろう。


 魔力転化と暗黒剣を併用すると今の筋力値でも一撃で2115ダメージ。

 勿論実際は相手の体力値で減算されるが、まだまだ伸びしろがあるのだ、このコンボは末恐ろしい。


 重撃は俺の防具にもついている硬質化などを貫通するスキルだろう。

 重撃単体でも良い性能だが、体力を無視して攻撃する重剣技との相性が抜群だ。

 確定で筋力分のダメージを与えられるというのは凄い。


 最もMP消費型の重剣技自体が魔力転化持ちのレイゼイにはアンチシナジーとなるから、やはりメインウェポンは魔力転化暗黒剣となるだろう。




 さて、問題の達人。

 やはりチートスキルであった。

 これによって勇者達は、レベル10毎に能力値2500が割り振られていた訳だ。


 ボレアスが勇者のクラスチェンジが常道と言っていたのは、イケメンの様な特殊な例を除きクラス勇者の異常な能力値の偏りを抑える為だろう。

 例えばゴリくんがそうであったように、低HP体力0などは即死ゲーにも過ぎる。

 レベル10時点の能力値2500底上げだけでも凄まじい値になるわけだから、大半はクラスチェンジした方が安定する訳だ。


 レイゼイには一度しか作用していなかったようだし、恐らく達人はクラス勇者である場合に限り自動で割り振られるものなのだろう。




 宙をなぞってメニューを操作しているレイゼイに魔力転化暗黒剣コンボを教えた後、俺はしばし悩んで達人の使い道を考える。


「レイゼイさん、スキルの達人って使える?」

「ええと……はい、使えるみたいです」

「じゃあこれからは10SP取得する度にHPに1000、筋力と体力と精神に500ずつ割り振ってほしい」


 レイゼイはHP自動回復スキルを持っている。

 これは5秒毎1%回復というもので回復量は微々たるものだが、その分母が増えれば決して安くはない。

 ただしレイゼイの場合――というより暗黒騎士というクラスの場合は体力精神共に伸びやすくあるようだから、HPに全振りして長所を潰すのはうまくない。


 レイゼイ自身が脳筋なのだ、達人の底上げ無しでも、またそれを使った特化型でも間違いなく長生きは出来ない。

 という事でバランス型、かつ火力も出せるこの振り分けとした。

 恐らくこれでかなりの継戦能力、かつ高火力なタンクとなるだろう。


「では達人を使用しますね」

「っと、待った!」


 スキル譲渡で達人を一旦俺に回して貰えば、能力の底上げになるのではないだろうか。


 しかしそれだとレイゼイはスキル譲渡で10SPを消費し、達人一回分のSPが無くなってしまうのは痛い。

 レイゼイの現在のSPは19だ。

 スキル譲渡で消費しなければ、後1レベルアップで二回達人が使える訳で……。


 地下において普通に上げられるレベルは40程度だと想定しているから、無駄遣いは出来ない。


 ここでレイゼイから達人を譲渡され、俺が一度達人を使って返却した所で、レイゼイが達人を使える回数が減るのはまずい。

 レイゼイがどこかでいつの間にか死んでいた、なんて自体は避けたい。

 何より俺と別行動を取り、恐らく脳筋十三騎士のリーダーの役回りとなるのだろうし、まずもって俺が達人を貰うという選択肢は無しだ。


 レイゼイに達人を使わせ、このまま自身を強化してもらう事にした。


「あ、あの、清掃員さん」

「うん?」


 挙動不審なレイゼイに首を傾げると、小さな声で問い掛けて来た。


「ヴァリスタちゃん隷属って出ているんですけど」

「ああ、ヴァリーは俺の奴隷だからな」

「ど、奴隷!? や、やっぱり清掃員さんロリコンじゃないですか! 奴隷! ロリコン奴隷!」

「いや何か色々勘違いしているだろう。まず俺は地上で裏切られたんだ、他人に警戒もするだろ普通。その点奴隷は隷属状態になって裏切れないから、俺にとって都合が良いんだよ」

「な、なるほど。わからなくもないですが……ううむ……」


 あまり言いたくはないが、しっかりと訂正しておく必要がありそうだ。


「まずなレイゼイさん、奴隷って見世物のように素っ裸で歩かされている連中も居るんだ」

「あ! それ塔の街で見ましたよ! あれが奴隷だったんですね、何か高度なプレイかと……」

「お、おう。それに比べたら俺はよほどまともな扱いをしていると思うんだが、それでも駄目かい」

「ううん……まぁ仕方ないですよね。戻る為ですもんね、うん……」




 しばし唸っていたレイゼイは、ふとして話を切り替えた。


「そういえば城に入る時、ヴァリー……ヴァリスタちゃんの能力も少し騒がれていましたけど……」

「ああ、多分レベル1でクラスも珍しいからだろうな。レベルはもう上がるようになっただろうし、心配無いよ」

「なら良かったです。しかしレベル1のまま連れ歩いていたんですか、ヴァリスタにゃん優しいご主人様で良かったにゃーん?」

「うるさい帰れ」

「うぐぐ……」


 レイゼイはおもむろにヴァリスタへ手を伸ばし、心無い言葉に阻まれた。

 嫌われ過ぎだろ。


「それでは私はこの辺で戻りますね」

「この世界じゃ優しくても生き残れないんだ、くれぐれも他人に易々と心を許すなよ」

「わかってます。あんな話を聞いてしまいましたからね。しばしお別れですね、またお会いしましょう清掃員さん。ヴァリスタにゃんもばいばい」


 レイゼイは扉から出てからやけくそ気味にヴァリスタへも声を掛けて、とぼとぼと猫背に去って行った。


「ばいばーい!」

「……」

「挨拶も返してもらえなかった……そんなに臭うのかな私……」

「ばいばい……」

「にゃああああ!?」


 硬質な物が擦れる騒音、階段の方からだ。

 慌てて見に行くと、階段の下につんのめって倒れている暗黒甲冑が見えた。

 パーティを組んでいたため戦闘指揮の効果でヴァリスタの小声の挨拶が届いて、驚いて足でももつれさせたのだろうか。


 HPを見ると全然減っていないし、大丈夫そうだ。


 何にしても、面倒くさそうな表情をしているヴァリスタだが、多少はレイゼイに気を許したようだ。




 立ち上がったレイゼイに手を振りパーティから脱退させて別れた。


 ようやくと一件の終わりに、大きく伸びをするのだった。

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