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第34話「勇者として」

 参った、俺は勇者だと確信されてしまった。

 暗黒勇者は嬉しそうに手を振っているし、エニュオはちらちらこちらを伺っている。

 ボレアスは良い笑顔で俺を見ていて、その脇に立っていた少女が歩み出た。


 髪はプラチナブロンドでほぼほぼ白銀、碧眼であり、あの立ち位置的にもボレアスの娘なのではないだろうか。

 清楚な服装に身を包み、凛とした佇まいで俺を見る。


「お初にお目に掛かる勇者殿。私はミクトランの姫、フローラである」

「初めまして、フローラ姫。冒険者のライと申します」


 冒険者を強調したが、恐らくもう駄目だ。

 それでも勇者と思われたままなのは面倒でならないから、冒険者と主張する事にした。


 それにしてもデジャヴの嵐。


 フローラが姫というのであれば、やはりあのボレアスは王。

 ナナティンを思い出して嫌悪感があるが、やはり下手な行動は避けるべきだ。

 地下で指名手配にでもされれば、地上と地下とで板挟みとなりすり潰される。


 それこそ生きる事すらままならなくなる。


 とはいえあの時のように手遅れになってからでは目も当てられない。

 幸い今の俺は筋力敏捷ともに高い、素手でも王と姫を人質にする程度の事は容易いだろう。

 何が起こるとも知れないが、ギリギリまで機会を伺うべきか。


 ひとまずフローラのステータスを確認する。



フローラ・ミクトラン 人族 Lv.15

クラス 剣騎士

HP 450/450

MP 75/75

SP 15

筋力 300

体力 225

魔力 75

精神 225

敏捷 225

幸運 225

スキル 重剣技 剣術 風魔法 光魔法



 剣騎士なのか。

 姫が騎士とは、これいかに。

 姫騎士とでも呼んでやろうか――いや、フローラでいいか。


 フローラはエニュオと同様重剣技を会得している。

 レベル的に実戦経験は無いと見ていいか、修練でこれだけのスキルを会得したのだろう。


「そなたの先の征伐戦での活躍、聞き及んでいる。その手腕を見込み、お願いしたき事がある」

「どういったご用向きでしょうか。私も冒険者として忙しい身の上でありますから、安請け合いする事は出来ませんが」


 これだ、勇者として求められるのは、結局体の良い使いっぱしり。

 そんな事に手を貸すつもりはない。


「来たる魔族襲来に備えてこちらの勇者殿と騎士団の教育に当たって欲しいのだ」

「それは……。この城で住み込みで働けと、そういう事でしょうか?」

「その通りだ。征伐戦には出撃して頂く事になろうが、教育期間には報酬も出そう」




 この話、俺にとっては全く旨みが無い。


 まず城に縛り付けられるので、好き勝手にレベル上げが出来ない。

 また奴隷を買って仲間を増やすという、先々まで重要な計画が遂行出来ない。

 奴隷もその時々で質が変わる訳であるし、俺はいつでも街に入れる状態でなければならない。


 また報酬に関しても大した旨みはないだろう。

 パーティ編成の仕事であれば、日におよそ銀貨五十枚は得られていた。

 これは塔へ入る冒険者の数にも左右されるが、少なくとも一組はパーティ編成に訪れるだろうし、その日暮らしは問題ない。


 例え使い切れない額を提示されたとしても、俺にその条件を飲むつもりはない。

 いくら金があった所で、それを使う機会に恵まれなければ意味が無いというのは異世界でも同様なのだ。

 地下へおとされた最初の頃とは違い最低限の日銭が確立されている以上、これからは冒険者としての仕事もこなしつつレベル上げも平行して行うのが最善といえる。




「私は冒険者としての生活が存外気に入っておりまして、今回のご依頼を受けるつもりはございません」

「な、なにっ!? 父上!」

「ふむ、報酬は望むままに出そう。それでもか」

「それでもです。私は冒険者として戦い、冒険者として生きるのみです」

「冒険者であれば、なおの事金が欲しいのではないのか!?」

「時は金なり、です」

「くっ……!」


 フローラは眉を顰めて、涙目で顔を逸らした。

 姫であるから、否定される経験は少ないのかもしれない。

 若干やっちまった感はあるが、失礼な態度は取っていないはずだ。

 いや、王族の申し出を却下した時点で失礼なのかもしれないが。


「そ、それだけの力がありながら……! せ、世界を、勇者としてこの地を守ってはくれないのか」


 フローラは服の裾を握り締めて、赤く潤んだ目で俺を見ていた。

 その震える声は若干胸に来るが、折れるつもりは毛頭無い。


「勇者という者は別の世界より召喚されるとお聞きしました」

「そ、そうだが……」

「もしかすれば平穏な地に生まれ、殺しどころか争いも知らぬ穢れなき者だったのやもしれません」

「そういった事も……あろうな」

「あなた方が嬉々として呼ぶ勇者という存在は、しかし望まずにこの世界へと拉致され、見た事も触れた事も無い武器を持たされ、義理も恩も無い世界の為に戦わされる。例えばそれは赤子に剣を握らせるようなもので、彼らからすれば人ならざる所業かと存じ上げます。恐れながら、それについてフローラ姫はどのようにお考えなのでしょうか」

「わ、私はっ……! この地を……!」


 フローラが震えだしたので、この辺りにしておこう。

 俺は些かこの世界を嫌い過ぎたようだ。

 ボレアスパパがブチ切れても困るし、ここらでクールダウンだ。


 いやしかしちょっとやり過ぎたか、場の空気が冷え切っている。


 俺は此処で縛られる訳にはいかないが、とはいえ地下が滅ぼされるのを黙って見過ごすつもりもない。

 俺にとって地下は格好の人材確保の場だからだ。

 此処が魔族だらけになってしまえば、安心して戦力拡充に取り組む事も出来なくなるのだ。


「フローラ姫」

「ち、違う。私は、もう、魔族に殺される人を……見たくなくて……」

「よろしいですか、私は冒険者です。なれば今回の様に冒険者として征伐戦に推参する事もありましょう」

「……!」

「私も冒険者としての活動がありますから騎士団の育成に協力する事は出来かねますが、この地に生きる冒険者の一人として、力無き人々が魔族に蹂躙されるのを黙って見過ごすつもりはございません」

「ゆ、勇者……様……!」

「私は冒険者、ライです」

「ライ、様!」


 よしよし、何だか知らないがフローラを手懐けることが出来た。

 大した事は言っていないのだが、下げて上げるというのは存外効果があるようだ。

 このままゴリ押そう。


「皆様に思い違いをさせたままでは忍びないので私が勇者でないという証明を致したいのですが、能力値を見る石版はございますか」

「おいお前! 早く持って来るのだ!」

「え? は、ハッ!」 


 宰相っぽいローブのおっさんに白羽の矢が立った。

 フローラ大丈夫かこれ、暴走していないか。

 慌てて石版を持ってきた宰相っぽいおっさんに心の中で謝りつつ、渡された石版にステータスを表示させてから返す。



ライ 人族 Lv.25

クラス 龍撃

HP 4500/4500

MP 300/300

筋力 2250

体力 300

魔力 300

精神 300

敏捷 1500

幸運 750

スキル スキル? 剣術 良成長



 石版がお偉いさん方に回されていき、各々確認していく。

 騒めきの中、最後に受け取ったボレアスが確認し終わった所で俺は話し出す。


「龍撃とな……? そして凄まじい能力値。スキル……スキル?」

「ご覧頂きました通り、私のクラスは勇者ではありません」

「しかし、勇者であってもクラスは変更出来る。またそれは常道である」


 それはボレアスの言葉。

 常道というと……しかし地上ではクラス勇者のまま送り出されていた。

 確かに暗黒勇者は能力値の伸びこそ偏っているものの全体的に成長している。


 だから明確な勇者補正というのがどこに掛かっているのかは知れないが、勇者以外のクラスになる事で能力値のインフレを切る代わりに普通の成長が得られるという事だろうか。

 

 もしかすれば地上ではそういった考えは失われていて、バカスカ召喚して使い潰していたのかもしれない。

 フローラの人々を救いたいとする意思を見るに、地下のミクトラン王家はそれほど悪辣な者達ではないとも思える。

 もちろん油断するつもりはないが。


「それに私は人族の冒険者です。異世界から召喚された者は、種族に人間と表示されるのではないですか」

「むっ……それは、そうであるな。しかし……」


 ボレアスは暗黒勇者を見て、しばし思案する。

 どれだけ屁理屈を並べても、暗黒勇者が俺の知人であるという事実に変わりはない。

 恐らく俺が異世界から来たという事実には気付いていると思うし、ポッと出の俺がこの世界の者でない事は少し調べればわかってしまうだろう。


 しばらくして、ボレアスは頷いて俺へと向き直った。




「今回の件、非常に残念であるが諦めるとしよう。しかし今後とも征伐戦には参戦願えるか」

「勿論です。一冒険者として、存分に力を振るいましょう」

「うむ。騎士団ならびに勇者への助力、大儀であった」

「ありがたき」




 かくして俺は、再び冒険者としての活動を再開するのであった。

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