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第32話「王剣トラロック」

「さて、手当もしてもらったんだし、挨拶しに行かなきゃな」


 ヴァリスタを撫で回す手を止め、ベッドから立ち上がろうとした所でノックが鳴った。

 俺はヴァリスタと共に立ち上がって入室を促すと、そこに居たのはさらりと伸びた金髪に、透き通る碧眼を持った女だった。


 特徴的なのは頭部に付けた防具だ。

 ヘルムのバイザー部分のみを装着したような、前面からの攻撃にのみに対応した極めて軽そうな防具だ。

 これなら全身甲冑の暗黒勇者らのように、声が聞こえなくなるなんて自体には陥らないだろう。


 またその身に纏ったロングコートの様な白を基調とした服は主張し過ぎない天色の模様で彩られ、その上には白銀の胸当てと肩当、籠手と付けている。

 そんな軽装だが、反してその腰にはなかなか大振りな剣を帯びている。


「お目覚めになられたかお客人。お初にお目に掛かる、私は騎士のエニュオという者だ。貴殿の案内役として参上した」

「これはどうも、ご丁寧に。エニュオさん、どうぞライとお呼び下さい」


 決して高圧的ではないが、威風堂々とした佇まいの女騎士だ。

 年齢は俺と同じくらいだろうか。

 俺も奴隷の主人なら、これくらい堂々としていた方がいいのかもしれないと思ってしまった。


 案内役というのは監視役とも取れる。

 治療をしてもらっておいて不誠実ではあるが、警戒するに越した事はない。

 なんだか激しくデジャヴを感じるのだ。


 ステータスを確認してみて、それは確信に変わった。



エニュオ・トラロック 人族 Lv.26

クラス 剣騎士

HP 780/780

MP 130/130

SP 26

筋力 520

体力 390

魔力 130

精神 390

敏捷 390

幸運 390

スキル 重剣技 剣術 光魔法



 トラロックの姓には見覚えがある、地上の城で世話になった騎士アーレスの親族だろうか。

 どういった繋がりかはわからないが、注意が必要か。


 クラス剣騎士は、騎士の耐久力を攻撃に割り振った形だ。

 魔法も使えて防御力も有る、万能アタッカーといった所か。

 初めて見るスキルもある、確認しておこう。



重剣技 MPを消費して体力貫通攻撃。



 素の防御力を無視してダメージを与えられるのだろう、優秀なスキルだ。

 アタッカーであれば回復はヒーラーに任せられるから、MPはだだ余りになる事が多い。

 そういった面で非常に活躍する機会の多いスキルと言えるだろう。




 スキルには大きな枠組みで性質の違いがあり、今回の重剣技というのはアクティブスキルに分類されるだろう。

 この世界でどう呼ばれているかは知らないし、分類した呼び名はないのかもしれないが。


 ゲーム知識になってしまうが、アクティブスキルというのは任意で発動させるいわゆる攻撃技や、魔法のようなものだ。

 対してパッシブスキルというものがあり、こちらは常時発動型のスキルで、剣術や良成長がこれに当たる。


 またこの世界に存在するかは定かではないが、トグルなんて呼ばれるスキルもある。

 それはいわゆるスイッチ式のスキルで、例えば魔法剣というものがあって「MP消費中のみ炎属性攻撃」みたいなのがあれば、それがトグルスキルだ。




 そして俺が最も使用しているのがシステムスキルだ。

 これは俺が勝手に命名した、メニューなどのいわゆる“機能を使用する”事が出来るスキルだ。

 メニュー、スキル譲渡などのスキル欄に乗らないものがこれに当たる。


 これらはスキル欄に表示されていないからか譲渡は出来ないし、メニューに関しては他の者に与えるつもりもない。

 もし万人がメニューを使い始めたら大変な事になるのは目に見えているし、何より俺の食い扶持が無くなる。

 この世界で安定した収入源、すなわちパーティ編成の仕事を失うというのは危険過ぎるのだ。




 さて、スキルの確認が終わった所で、俺は女騎士エニュオに質問を投げかけてみる事にする。

 少し危険かもしれないが、エニュオの素性は知っておきたい。

 それにギ・グウの言葉が確かなら、地上からおとされた身の上というのはそこまでマイナス要素にはならないはずだ。


「すみません、勘違いかもしれないですが、エニュオさんは地上にご親戚はいらっしゃいますか?」

「貴殿は……ライ殿は地上に住んでいたのか? 何故この地に……」

「恥ずかしながら、とある行き違いでこの地下へとおとされた身なのです」

「そうか……失礼した。では何故、そのような事を聞くのだ?」

「実はアーレス・トラロックという騎士をお見かけした事があるのですが、エニュオさんの金糸の様な髪と、澄んだ空色の瞳を見てふと思い浮かんだのです」

「空色……か」


 まずい、キザったらしい台詞で言葉選びを誤った。

 地下で生活していて、空色と言ったら黒だ。

 俺は十八年も天蓋の無い世界で暮らしていた訳であるからして、咄嗟に出た常識は非常に非常識であった。


「え、ええと。空色というのは地下での暗黒ではなく、地上で見上げる空というのはそれはもう絶世の美しさでありまして、ですからエニュオさんの瞳の色というのも――」

「あ、ああ。いや、すまない。違うんだ」


 エニュオは頬を染めていた。

 心証を良くしようと、浮ついた言葉を投げ過ぎてしまったか。

 エニュオは頬をかいて、一息ついてから話し出した。


「私は空色というものを知らない訳ではないよ。幼少の頃は地上に居たからな」

「そうなんですか、であれば――」

「ああ、ありがとう。だが絶世などとは些か褒め過ぎだ、勘違いしてしまうぞ?」

「ライ……」


 今まで大人しくしていたヴァリスタが、突然俺の腕を引っ張った。

 口を尖らせて明らかに不機嫌アピールをしているヴァリスタが問題ではあるが、エニュオとの関係は悪い方には流れなかった。


「おっと、話が逸れたな。そのアーレスという騎士は私の伯父だろう」

「なるほど、それは似ている訳です」

「それは、嬉しいな。伯父は王の剣として名高い騎士であったから……。いや、此処は地上ではない。このような思い出話、今となっては詮無い事だな」

「不躾な質問をしてしまい申し訳ありません」

「いや、私も空を知る者と会えて嬉しいよ、ライ殿」


 アーレスの娘ではなかったか。

 アーレスの弟だか妹だかがエニュオの親として、何かしらがあって彼らも此処におとされたのか。


 いや、しかしどうして此処に――。

 そもそもこの城は“どちら”なのだろうか。


 例えば何かしらの術で地上と通じている組織ならば、俺という存在が知られるのは非常にまずい。

 まずいが、下手に逃げる事も出来ない。

 地下において俺にやましいところは無いのだから、下手を打って身を危うくするのは利口ではない。


 だからといって、勇者とみすみす知られて利用されるのもうまくない。

 適当に話を合わせて治療のお礼を述べて、代金でも払って去ろう、そうしよう。




 俺はエニュオに向き直り、軽く身を正した。


「今回は私のみならず奴隷までをも治療して頂き、まことにありがとうございました」

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。征伐戦においての活躍は聞き及んでいる」

「私は皆様の力をお借りしただけですので。一人では勝利を納められなかったでしょう」

「謙虚だな、神の如き手腕と聞いたぞ」




 ふっと笑みを浮かべたエニュオは、俺の全身を見直して、頷いた。




「黒髪黒目、叔父上を知っている、魔族を屠る腕前。であればやはり貴殿は――」


 噛み締める様に述べ、一拍おいて、言葉を続けた。


「――召喚されし、勇者だな」


 あらあ。

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