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第30話「魔族戦線、暗影咆哮」

 俺は即座に前進した。

 ゾンヴィーフがその腕を振り上げる前に、ヴァリスタを助ける。

 ヴァリスタがその小さな身でゾンヴィーフの拳を受けてただで済むだろうか。


 つかず離れずの距離を維持していたのは幸いだった。

 司令塔が前線に飛び出すなんて最悪な判断かもしれないが、既に半分感情で動いてしまっていたのだ。

 だがこのゾンヴィーフという魔族は狡猾だ、だからもう半分は戦略だ。


 だが、HPがまずい。

 吸血で供給していた為、この数十秒の間で既に半分を切っていた。



ライ 人族 Lv.16

クラス 龍撃

HP 980/2880

MP 192/192

SP 15

筋力 1440

体力 192

魔力 192

精神 192

敏捷 960

幸運 480(-50%)

スキル スキル? 剣術 良成長



 いや、物理攻撃であればダメージは808で済む。

 例え逃げ遅れても一撃は耐えられそうだ。

 一気に距離を詰めて、宙のヴァリスタを抱き寄せかっさらう。


 このままグレイディアの横を通って抜ければ――


「ダークフレア」


 その時、ゾンヴィーフを中心として黒い爆炎が広がった。

 俺はメニューを操作しつつ反射的にヴァリスタを抱きしめて、吹き飛ばされた。

 肉体と同様に意識も吹き飛ばされそうになり、辛うじて繋ぎ止める。


 ただただ、ヴァリスタを活かす為に。


 爆炎からヴァリスタを守り切った俺は、しかし既にHPが無くなっていた。

 ヴァリスタが小柄で良かった。

 物理攻撃であれば耐えられたのだが、まさか詠唱を完了した魔法を構えていたとは思わなかった。

 恐らく喚き始めた時点で、詠唱を開始していたのだろう。


「あ、ああぁ! ライ! ライィ!」


 胸に抱いた少女の声が、頭に響く。

 あの影の落ちた暗い瞳の少女が、こんなに声を出せるようになったのだ。

 俺はにっと笑みを作って、腕から解放して――


「まだ……終わりじゃない。……行け、ヴァリー」

「わかった! 死んじゃダメだよ、ライ!」


 俺は薄れゆく視界に、一回り大きくなったヴァリスタを見た。




「おまえぇっ!」




 怒気を孕んだ声が轟いた。

 女の子としては些かお淑やかさに欠けるが、こんな世界だし、まぁ、いいだろう。

 最後の力でメニューを操作して、力尽きた。


 逆光は一撃で10000ものダメージを与えていて、後一撃でゾンヴィーフは倒せる。


 俺がいなくても、何とかなるはずだ。




 どれほど経っただろうか。

 眩暈がして、吐き気が襲い掛かっていた。


「ライ、倒したよ。私、倒したよ。ほめて」


 どうやら、勝てたらしい。

 しかし、俺は反応出来なかった。




 特殊効果――死線。




 それが龍撃というクラスの弱点であった。


 実は今、ギリギリどうにか、生き残っている。


 ゾンヴィーフという魔族が狡猾である事で、俺は並々ならぬ警戒心を抱いていた。

 だから、非常に動きづらいがメニュー画面を出したままで指揮を執った。

 そうしてゾンヴィーフが範囲魔法を使った時点で、俺はクラスチェンジした。


 クラスは村人、特殊効果は不屈。

 それは死線とは真逆の、致命傷を負っても死ににくいという効果。


 今回の荒業は、いつだって使えるものではない。


 まず、凄まじく動きづらい。

 司令塔だから何とかなったものの、戦闘中にメニューを出しっぱなしになんてしていたら、間違いなく凡ミスの嵐だ。

 それに戦闘不能になった時点で文字通り戦闘は継続出来ないのだから、一人生き残ったとしてもトドメを刺されてしまう。

 もちろん今回のように他の者が居るのであれば話は別だが、貧血と火傷か何かで酷い有様だ。


 二度とこんな真似はしたくない。

 こうならない為に、良成長を取ったのだから。



ライ 人族 Lv.25

クラス 龍撃

HP 0/4500

MP 192/300

SP 24

筋力 2250

体力 300

魔力 300

精神 300

敏捷 1500

幸運 750(-50%)

スキル スキル? 剣術 良成長

状態 戦闘不能



 そう、俺はぶっ倒れる寸前、クラスチェンジで龍撃に戻した。

 HPはかなり伸び、もはやレベル77のグレイディアに追い付いた。

 死にかけでクラスチェンジを優先するなど我ながら貪欲で笑ってしまうが、塔を登り、勇者を解放するためには必要な事だ。




 ヴァリスタを庇ったのにも――それは勿論感情も絡んでいたが――戦略的な意味合いもあった。

 まず騎士達のMPの底が見えていた事。

 次にグレイディアに吸血させていた俺のHPと、恐らく血液残量が厳しかった事。


 あのまま戦闘が長引けば、どこからか綻びが出始め瓦解していただろう。

 だから出来るだけ早く決着をつける必要があった。




 同時に戦力拡充の問題は深まった。

 強力なタンクとヒーラーが必要だろう。

 タンクに関しては今の俺ならばHPが増大しているので兼任出来るだろうが。




 しかしまぁ、何だ、取りあえず今回は勝利を納めたのだ。

 俺の抱える面倒事は言ってしまえば俺と勇者達という異邦人、そして地上の問題であるのだし、此処に居る地下の者達はひとまず勝利を喜んでおけば良いのではないだろうか。

 ようやく体に自由が戻って来たところで、勝利宣言でもしておこう。


「まぁ……何だ、勝てて良かっんぶっ!?」

「ああああ」

「すっごい……」


 格好良く台詞を言おうとして、口を塞がれた。

 錯乱しているのは……誰だろう、ヴァリスタだろうか。

 凄いとか言ったのは妙に綺麗な声だったし多分暗黒勇者だ。


 困惑していると液体が口内に侵入して来て、鉄の味がする。

 嫌な予感がして目を開くと、目の前には金髪美少女が居た。

 いや、ロリババアが居た。


「ぶはっ! ごほっごほ……。何やってん……ですか」

「いや、血を別けようと……」

「吸血鬼じゃないんですから、血を飲んでも意味無いですよ」

「そ、そうか……」


 まさかロリババアが人前で接吻を行うハレンチロリババアだとは思わなかった、辛い。

 しかしこんな近くに居たら、血を貰うどころか抜かれそうなのだが。


「吸血は問題ないぞ。もうお前のHPは0だからな」

「そうなんですか、良かった」

「ああ……」

「すみません、ちょっと、また瞼が重くなってきて……」

「ああ、ゆっくり休め」




 意識が暗中に落ちて行く中で、優しげに言葉が聞こえた。




「この勝利は、間違いなくお前のものだ」




 どうやら俺は、地下を救ったらしい。

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