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第29話「魔族戦線、暗雲の将」

「暗黒……勇者は倒れた方を守りながら戦ってください。攻撃は二の次で」

「え!? あ、ああ」

「武器はこれを貸します」


 くぐもっていない、透き通った暗黒勇者の声が俺の耳に入る。

 随分と綺麗な声だ、美声というのはこういったものを言うのかもしれない。

 ブラッドソードを放り投げると、暗黒勇者は自分の剣を手放してどうにか掴み取った。


「こ、これは?」

「HP吸収効果の付与された剣です。あなたの能力値であれば回復を受けながら戦えば凌ぎ切れるでしょう」

「わ、わかった。わかりました!」


 暗黒勇者が赤い刃のブラッドソードを構えた所で、俺はゾンヴィーフを見る。

 ゾンヴィーフもまた、俺を訝しげに見ていた。


「貴様、何をした?」

「別に、少し話をしただけだが」

「そんな事は無いだろう、おかしい。知能の無い低級モンスターの如き振る舞いであったこやつらが、明らかに冷静さを持ち始めている」

「ぐぬぬ……」


 暗黒勇者が震えて擦れる金属の騒音を撒き散らす。

 挑発耐性無さ過ぎだろ。


 俺は先程グレイディア経由で戦闘指揮を取得した。

 これは詳細表示で見た限りでは、パーティ内での会話が聞き取りやすくなるというだけの残念スキルであったが、土壇場で取得してみて、指揮という面においてこれほど優秀なスキルは他に無いと感じた。

 まずあの暗黒ヘルムを無視して会話が出来る、次にある程度離れていても伝達する、そして何より騒音を無視して声が耳に入って来るため、戦場の雰囲気に飲まれにくい。


 パーティ限定のボイスチャットを使っているようなものだ。


 そして先程ゾンヴィーフと問答している間に、HPの残っている者とレイドパーティを組んでおいた。

 これによって俺達の会話はしっかりと伝達され、ようやくまともな戦いになるという事だ。




 以下が今回の即席レイドパーティだ。

 振り分けが適当なのは時間が無かったので仕方ない。


・第一パーティ 三名 ライ ヴァリスタ グレイディア

 タンクとなれるのは高レベルによってHPが高く、その他能力もあるグレイディアだ。

 アタッカーは安定のヴァリスタ、しかしゾンヴィーフは格闘術を会得しており反撃が怖いので、隙をよく伺う必要がある。

 俺はブラッドソードも渡してしまったし、今回完全に指揮へ回る事になる。


・第二パーティ 六名 暗黒勇者 白銀騎士五名

 メインタンクの暗黒勇者に戦闘不能の連中を守りながら戦ってもらう。

 サブタンク用の白銀騎士もわんさか居るが、恐らく暗黒勇者で事足りるだろう。

 暗黒勇者はそれほどに能力が高い、戦略を知らないせいで宝の持ち腐れとなっていたが。

 あとは回復魔法を掛ける装置だ、攻撃すると手痛いしっぺ返しが来るのは体感したはずなので、言う事を聞いてくれるだろう。


・第三パーティ 二名 白銀騎士二名

 回復が間に合っていない時に回復効率を底上げする部隊。

 外見的特徴で白銀騎士といってはいるが、クラスはただの騎士なので魔力が低いのだ。

 基本はグレイディアの回復担当。



 ざっと確認し直して、暗黒勇者へ語り掛ける。


「勇者、先程言った通り、今回のあなたの役割は攻撃がメインではありません。仲間の盾であり、生命線を握っているという事をお忘れなきよう」

「わ、わかりました!」

「では攻撃を開始してください! 他の騎士達は回復の準備を!」

「はい!」


 暗黒勇者が返事をした所で、俺はグレイディアに再三の頼みごとをする。


「魔族の親玉討伐という依頼を受けた以上、本来は私が前線に立つべきなのでしょうが、少々能力不足なのです。グレイディアさん、お願い出来ますか」

「卑屈になるな、お前はもう十分に活躍している。矢面には立ってやる、ただし私も耐久力が高い方ではないぞ?」

「その点に関してはご安心を、剣を貸して頂けますか」

「構わないが……」


 俺はグレイディアから受け取った剣で、迷わず手首を切った。

 迷わずというのは嘘で、本当は滅茶苦茶怖かったし、先程から心臓の高鳴りが酷かった訳だが、とにかく一筋の切れ込みを入れた。

 そこからだらりと血が滴ったのを見て、グレイディアが目を剥き、ヴァリスタが涙目で腰に縋り付いて来た。


「だめ……!」

「心配し過ぎだヴァリー、これくらいなら大丈夫だ。それより奴も待ってちゃくれない。頼みますよ、グレイディアさん!」

「痴れ者が……! そんな事をして……倒れたら、絶対、許さない!」


 グレイディアは吠えて、剣を奪い取って持ち直すとゾンヴィーフへと斬り込んだ。

 接近に気付いたゾンヴィーフが殴りかかるが、グレイディアの圧倒的な敏捷に掠る事すらなく大振りに外れ、グレイディアは残像を出して剣を刺し入れる。


 瞬間――発光。


 カウンタマジックによる白い爆発をものともせず、グレイディアは長い金髪を宙に躍らせ猛攻を加え始める。

 残像に釘付けとなったゾンヴィーフがそちらへ追撃を仕掛け空振りする中、グレイディアは舞う様に斬撃を繰り出し、二撃、三撃と重ねて行く。


 グレイディアのHPは4620で、カウンタマジックで634のダメージを負う。

 これがグレイディアが一太刀毎に浴びるダメージ量で、七発までは受け切る事が可能だ。

 そして――


「無事か!?」

「そんなすぐに倒れませんって」

「倒れたら私の血を別けてやるからな!」

「はいはい、ありがとうございます」


 そしてグレイディアは吸血スキルにより俺のHPを吸収し、それに白銀騎士の回復魔法も加わり、戦線を維持するのは容易かった。

 だが、それは短期的なものだ。

 どうやら手首から血液ごと回収されているようで、本当は若干気分が悪くなってきている。

 そして白銀騎士達はあくまで補助的に魔法が使えるだけであり、じきにMPも枯渇する。


 グレイディアが一撃で与えるダメージが220で、暗黒勇者が一撃で与えるダメージは360だ。

 敏捷の差か、暗黒勇者が一度攻撃するまでにグレイディアは三度もの攻撃を叩き込んでおり、660ダメージ。

 合わせて1020ダメージとして、倒すには30回近く攻撃を加えなければならない。


 それも順調に攻撃出来ていればの話だ。


 今もゾンヴィーフは火魔法を放って戦闘不能の者に着火しようとしたり、俺とヴァリスタを狙って来たりする。

 そうすると暗黒勇者やグレイディアがその身をもって魔法を受けなければならないので、そこでこちらの攻撃は中断され、その間に暗黒勇者が殴られていたりする。




「くっそ、隙が無いな」


 ゾンヴィーフは攻撃速度こそ緩慢だが、魔法と格闘術により攻撃を変幻自在に使い分けて来る。

 魔法を撃った直後に殴り掛かったりと、純粋なキャスタータイプでは不可能な戦法を取ってくるのだ。



ゾンヴィーフ 魔族 Lv.50

クラス ネクロマンサー

HP 19800/30000

MP 1850/3000

筋力 1000

体力 500

魔力 1250

精神 1000

敏捷 50

幸運 100

スキル 死霊術 格闘術 火魔法 闇魔法 カウンタマジック



 ようやっとここまで削れた所で、隙が出来た。


「クソォッ! 何故だァ! 何故死霊共が来ないんだァ!?」


 ゾンヴィーフが突然、大声で喚き始めたのだ。


 戦闘中に死霊を呼び寄せていたのだろう、しかし此処に辿り着くまでの死霊は俺達が片付けておいた。

 それに痺れを切らしたのは、俺達に対して多少の危機を感じ始めていたからに違いない。

 それはそうだ、先程まで猪突猛進だった騎士達が攻撃をぴたりと止め、回復に専念して戦線を維持しているのだから。


「ヴァリー!」

「うん!」


 HPの多い俺ならともかく、ヴァリスタの耐久力ではゾンヴィーフのカウンタマジックは受け切れない。

 しかしバタフライエッジアグリアスの貫通効果がカウンタマジックに作用している事は確認済みだ。

 つまりカウンタマジックを無効化出来る。

 隙さえ見つければ逆光の大ダメージで片が付くという寸法だ。


 ヴァリスタは俺の声に反応してグレイディアの背後より躍り出た。

 その身には大き過ぎるバタフライエッジアグリアスを担いでゾンヴィーフに大きく飛び掛かり、振り下ろした。




 逆光に輝いて――その先に、俺は見た。




 ゾンヴィーフが目を見開き、歯を剥き出しに、未だ宙のヴァリスタを凝視している姿を。




 もしや、まさか――“釣られた”のか。

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