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第28話「魔族戦線、暗黒の陣」

「本当に、敵の位置が把握出来ているのだな」

「はい。この先、屋敷の玄関ホールに居るようです」

「そうか……私など、鋭敏のスキルを持っているにも関わらず……。やはり凄い男であったのだな、お前は」


 笑みを投げ掛けられ、反応に困った。

 これまで見て来た邪悪めいたものではなかったからだ。


「さて、平穏を乱す不届きな輩を始末するとしよう」

「はい」


 廊下から様子を探ろうとすると、何か金属質な音がする。

 まさかあの戦場を抜けて先に此処まで辿り着いた者が居るのだろうか。

 いつの間にかマップに浮かんでいた無数の白い点、これはパーティメンバーでも敵でもない存在という事か。


 だとすれば一刻も早く加勢しなければならない。


 強敵との事だから背後から、暗殺とまではいかなくとも先制攻撃を与える腹積もりであったから、予定が崩された。

 致し方ない、俺達はホールへと踏み入った。




「うっそだろお前」




 俺は目前の光景に驚愕していた。

 暗黒の甲冑を筆頭とした十三の甲冑集団が、白い肌に黒いローブを羽織った魔族らしき人型の者を円に囲んでいたのだ。

 それはタンクだとか、アタッカーだとか、そういった要素を無視して。


 いわゆる囲んで殴るという、一見すれば優勢な状況に思えるのだが。


 いや、ある意味では間違いないのだが、この能力値とスキルとで戦闘能力に大きな開きが出る世界では、特に格上相手を囲むのは非常にまずい。

 例えば円範囲攻撃を食らえば――


「ダークフレア」

「うおおお!」

「まだだ、これしきで負けはせんぞォ!」

「回復魔法だ! 回復魔法を使え!」


 と、こう、一発で全員が大ダメージを受ける訳で。

 もしもタンクが完璧に注意を引き付けられて、尚且つ範囲攻撃を持たない相手であれば袋叩きというのは非常に効果的だろうが……。

 信じたくはないが、あのゴキブリの如く倒れ伏せている黒い物体が暗黒勇者だ。


 回復を受けて立ち上がった暗黒勇者は、再び剣を構える。

 確か暗黒勇者は敏捷と幸運が極端に低い代わりに、それ以外のステータスは良い具合に伸びていたはずである。

 であれば暗黒勇者を主軸として、数名のタンクと同数のヒーラー、残りをアタッカーに回せば良いのではないだろうか。

 幸い白銀甲冑らは光魔法を習得しているようだし。


「これが……魔族……」

「勇者様、ご無事でしたか!」

「ああ、どうにかHPは残っている。だがこのままでは回復が追い付かない、斬り込むぞ!」


 そうして十三の騎士は円に囲んだ魔族へと剣を向ける。

 すると、魔族がその白い顔に笑みを浮かべた。

 コイツは何か、隠し持っている。



ゾンヴィーフ 魔族 Lv.50

クラス ネクロマンサー

HP 30000/30000

MP 2150/3000

筋力 1000

体力 500

魔力 1250

精神 1000

敏捷 50

幸運 100

スキル 死霊術 格闘術 火魔法 闇魔法 カウンタマジック



 カウンタマジック、これか。

 効果は攻撃に対して魔力のカウンターダメージを与えるという。

 このステータスであれば自動反撃のみで倒す、言うなれば地雷のような戦法も可能という事か。


 それにしてもかなりの能力、ドラゴンに比べれば可愛いものだが、平均レベル30程度の地下では凶悪な存在といえる。


「暗黒! 攻撃を止めさせろ! その魔族はカウンターを持っている!」

「なに!?」


 俺の声に反応したのは魔族ゾンヴィーフだけだった。

 騎士達には声が届いていないのだろう。

 あのヘルム引っぺがしてやりたい。


 騎士達は斬り掛かり、途端その目前が発光し、何名かが吹き飛ばされた。

 転げた者は、HPの無くなった者だろう。

 これは厄介だ。


「頭の切れるヤツが来たようだ、お前達には退場してもらおうか」

「くっ、負けるわけには……!」


 ゾンヴィーフは暗黒勇者に手を向けると、その身体が淡く光る。

 魔法か、暗黒勇者は手傷を負っていたから、HPが持って行かれるかもしれない。

 暗黒勇者は脳筋だが、この場において唯一ゾンヴィーフと正面切って殴り合えるステータスの持ち主だ、みすみす戦闘不能にされる訳にはいかない。




「ヴァリー、ちょっと借りるぞ」


 ヴァリスタが抱えていたバタフライエッジアグリアスを引き抜き、そのままゾンヴィーフへと向かった。

 レベルアップで向上した敏捷とバタフライエッジアグリアスの神速の効果で一気に詰め寄る。

 ゾンヴィーフははっとしてこちらに顔を向け、釣られてその手もぶれ、放たれた火魔法は暗黒勇者には直撃せず壁に爆散した。


 刃がマゼンタの軌跡を描いて、俺がゾンヴィーフの腹に突き立てたバタフライエッジアグリアスは一瞬の発光を起こし――それはカウンタマジックによるものではなく――逆光の一閃だった。


「……ハッ! 何だそれは! 見た目だけのナマクラ……こけおどしか!」


 俺の攻撃にダメージはない、恐らく筋力1000を越えた辺りで逆光の反比例が振り切り、ダメージが与えられなくなるのだろう。

 ゾンヴィーフはその腕を思い切り振りかぶり、俺を殴りつけようとする。

 屈んで避けた俺は横合いからナマクラで殴りつける。


 逆光だけが虚しく輝く。


「ハッハッハ! 馬鹿者が! 貴様の攻撃なぞ効かぬわ!」

「確かにな」


 俺は確信して、思わず口元を緩めながら飛び退いた。

 思考操作でメニューを弄りながら、ゾンヴィーフに相槌を打つ。


「もはや雌雄は決したなァ!」

「そうだな」

「大人しく私の死霊となるがいい! ……いや、そうだな。私は貴様のような馬鹿は嫌いではない。共に来るというのであれば、生かしておいてやっても良いぞ」

「ほう」

「何より貴様の攻撃は私には効かないようだからな。そうだな、貴様をヒトの街へ送り込み内から崩壊させるというのも面白そうだな」

「そいつは勘弁だな。確かに俺はこの世界が好きじゃないが、他人ひと様に迷惑掛ける程落ちぶれちゃいないつもりなんでね」


 ゾンヴィーフはつまらなそうに鼻を鳴らし、暗黒勇者へ向き直った。

 俺はその暗黒ヘルムと一瞬視線が合い、頷いて見せた。

 バタフライエッジアグリアスをヴァリスタへ返すと、グレイディアに二度目の願いを申し出る。


「重ね重ねすみません、グレイディアさん。もうひとつだけお願いが……」

「いいからさっさと言え」

「スキル戦闘指揮、俺に譲渡してもらえますか」


 俺はグレイディア経由で戦闘指揮を取得した。


「勝てるのだろう、これで」


 グレイディアは真剣な眼差しで、しかし微かな笑みをたたえていた。

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