第24話「暗黒勇者」
達人スキル――効能は知らないが全ての勇者が持っていたスキルだ。
それを保有し、漢字の名前で、種族が人間で――。
間違いなく勇者。
隷属はされていないから、ナナティンの子飼いの者ではないと思う、思いたい。
しかし俺という存在を今知られて良いものだろうか。
一抹の不安が残る。
俺は俯き加減のままこの暗黒騎士、冷泉神流子の言葉を待った。
「どうか顔を上げてほしい、私は――」
「勇者様、今は……」
「あ、ああ。そうだな。パーティ編成を頼む」
やはり勇者だ。
何がどうなって地下街に居るのかは知らないが、勇者だ。
俺は銀貨五枚を受け取って、メニューを開く。
「編成は、どうされますか」
「ええと、私含めこの十三人、全員を入れてくれ」
こんななりで、パーティ編成のイロハを知らないようだ。
がしゃりと一人の白銀騎士が前に出て、暗黒騎士の勇者に進言する。
暗黒騎士の勇者――略称は暗黒勇者といったところか。
「勇者様、ひとつのパーティには六名までしか入れません!」
「そ、そうなのか。では……では、どうすればいい、かな?」
白銀騎士のアドバイスでしどろもどろし始める暗黒勇者。
シュールだ。
俺は俯き気味のままなので腰から下しか見えないが、どうやら俺に編成を聞いているらしい。
「十三名となりますと、レイドというパーティよりも更に大きな枠組みが必要となります」
「そ、そうか……」
「例えば指揮に長けた者が複数居るのであれば五名、四名、四名としてパーティ単位で動いてもらう形でも良いでしょう。それぞれに特定の役割に特化してあらかじめ決めておいた行動を繰り返すのであればアタッカー六名、タンク四名、メイジ三名などのように偏らせたパーティにしてもいいですし。単騎でも十分な力を発揮する者が居るのであれば一名、六名、六名もありかと」
「うん……。で、ではそれでっ!」
どれだよ。
「勇者様、勇者様はお強いですし、一、六、六の編成で良いのではないでしょうか?」
「そ、そうか、ではそれで」
大丈夫かよこの暗黒勇者。
「それではそのように編成を行いますので、承認を押してください」
俺がパーティ申請を投げると、甲冑共が乱れ始める。
危ない、うるさい、滅茶苦茶金属の擦れる音が鳴り響いている。
一応こちらの人間にはこちらの言語で表示されているはずなのだが、その慌てっぷりは騎士としてどうなのか。
「に、日本語が出た! 日本語が出ました!」
「あ、はい。承認ボタンをクリックしてね」
「はい!」
暗黒勇者は小動物的な存在だな、暗黒甲冑だから撫でたくはないけれども。
どうやらちょっと頭のネジが緩そうだが、悪人集団ではないようだ。
レイドパーティの編成を終えて、俺は確認を取る。
「終わりましたよ」
「おお、本当に早いですな! 素晴らしい!」
どの白銀騎士かはわからないが、誰かがそう言った。
「HPとMPが出ていますね。ゲームみたい」
「はい、HPが無くなりますと戦闘不能になるのでご注意ください」
「わかりました、ありがとう」
「さあ勇者様、参りましょう!」
「あ、ああ!」
十三人がマントをたなびかせ身を翻した
――かと思うと、暗黒勇者が少しこちらに向き直る。
その暗黒ヘルムこわい。
何だ、まだ何かあるのだろうか。
「あの、また来ますから!」
「あっはい」
そうして暗黒勇者を筆頭とした十三の騎士達は、塔へ入る事なく来た道を戻って行った。
俺は脱力して、十三の騎士が去って行く後姿を眺め、状況を理解していないヴァリスタの頭を撫でていた。




