第221話「マーベリック」
街を囲う大壁と、そこから微かに漏れる街灯。
長く天蓋にまで伸びる影も見え始め――塔の街を目前に差し掛かった頃。
体調不良気味のグレイディアに合わせて移動速度はセーブしており全体が纏まって移動する中、一人興奮気味に歩みを早める者が居る。
集団から突出して前へ前へと進んで行く少女の影に問いを投げる。
「プライム様。巡礼の旅と言いますが、我々は具体的に何をするんですか?」
「えー!? それ知らないで巡礼を提案したの?」
シフトダウンといった感じでがくりと速度を落としたプライムが横につく。
「用心棒とはいえ所詮は迷宮目的の冒険者なので。それにお望み通りの冒険に出られたんですからお互いおいしいじゃないですか」
「それはそうだけどさー」
冒険者としては巡礼の行程はどうでもいい話で、神殿の迷宮へと導いてくれる導師は神でも教会でもなくこのお転婆娘だ。
そんな彼女はやれやれといった感じで歩みを止めずに説明してくれる。
「まず教会でお祈りするでしょう?」
「はい」
「そしたらまた別の教会でお祈りしてー」
「ええ」
「神殿で認められたら完了!」
「えぇ……」
大変にわかりやすい解説だった。
ちらと後ろの男装の麗人エニュオに目をやると、頷いて返される。
どうやら本当に今の通りらしいが、そんなもので認められるのならそこらの冒険者のおっさんでも簡単に光魔法を習得出来るのではないか。
俺の知る限り、大半の冒険者は回復薬をがぶ飲みして必死で剣や槍を振り回すのが実態だ。
回復薬は購入に金が掛かるし、神聖魔法によるパーティ編成では視野にHPなどの表示は現れないらしいから少しでもダメージを受けたと思えば回復せざるを得ない。
その状況で安全に稼ごうと思えば自然と低階層での雑魚狩りと魔石拾いに終始する訳で、いわゆる冒険しない冒険者と化してしまうのも無理のない話ではあるが。
そんな冒険者達でも回復魔法が使えれば迷宮攻略も盛んになるだろうが、俺のように信仰心のない者ばかりなのかもしれない。
何よりミクトラン王国では魔法使いは重用されており、それにより優良な人材が野良に出回り難いのも冒険者の低レベル化に拍車を掛けているのだとすれば、流れとしてはなるべくしてなった感はある。
黙して考えているとプライムに小突かれる。
「まさか本当に迷宮だけが目的だとは思わなかったよ。何やら先行きが不安になって参りました」
「大丈夫ですよ。巡礼を邪魔する輩が現れても神の名において排除するんで」
「そういう時は神の名を語るんだ」
「使えるものは使わないと」
「冒険者だから?」
「ですね」
この理路整然とした回答に不安げな表情で返されてしまった。
身辺警護だけならば一般の騎士よりはこなせるだろう。
だからこそクライムも俺に愛娘を任せた訳で、要するに武力があれば成し遂げられる道程という訳だ。
塔の街へ入ると、一直線に教会へと向かう。
穢れない白亜の面構えは相変わらずで、入場するのは魔族と交戦した時以来だ。
整然と並んだ長椅子を横に絨毯を踏み抜いて、お布施に代わり必要なのは金でも供物でもなく一枚の紙。
王子と有力貴族の名が入っただけで金貨よりも力があるのだから凄い物だ。
先の魔族征伐戦という大事ですら見られなかった上等そうな神官様が出て来られたのだから。
脇に控えて居た僧侶に書簡を手渡すと礼拝堂から奥へと持って行かれ、すぐに現れたのが恰幅の良い神官の男だ。
光魔法に神聖魔法、水魔法まで習得しているその男はこの教会でも高い地位にあるのだろう。
意志の強そうな鋭い目付きの持ち主だが、プライムを見付けるとすぐに優し気な表情を作り近寄って来る。
その作り物の笑顔を受けるプライムもまた同じく淑女の仮面を貼り付けて、軽い挨拶の後すぐに儀式へと移る。
陽光を取り込まぬステンドグラスの下、膝をついて神聖な儀式を受ける金の髪に青い瞳の少女。
すらりと伸びる細い四肢は穢れなく、その姿はまるで聖女。
そう思ったのはたまたま居合わせた一般の信徒達も同じらしく、誰もが長椅子に腰掛け一帯は静寂に満ちた。
何事かよく聞こえない小難しい言葉を呟く神官と、それを受ける少女の光景を静かに見守る。
風の街の教会と同じなら、礼拝堂の奥には神官ジャスティンが魔族召喚に使用した様な石造りの立派な小部屋があるはずだが、わざわざこの場で神聖な儀式を始めるのは信徒達からの求心力を高め箔を付ける意味合いもあるのだろうか。
熱心に通っていれば自国のお貴族様の巡礼も見れるのだぞと、こんなものを見せ付けられれば否が応でも教会に力を感じるだろう。
王子ゼーテスが神殿に足を運ぶように、政治と宗教は密接に繋がっているのかもしれない。
そうして椅子に腰掛けぼうっと思案する俺と同様、手持ち無沙汰に身体を揺らすのは右隣のヴァリスタで、あまり悪目立ちするのも良くないので小声で話し掛けて気を紛らわさせてやる。
「ああして静かにしてるとお姫様みたいだな」
「プライムちゃんはただの冒険者だよ」
「違いない」
ヴァリスタの核心を突いた言葉の通り、プライムの性質は貴族というよりか冒険者といった方がそれらしい。
この巡礼の旅だって世界を見て周りたいのが本音の様で、剣に拳に手段を選ばず武器とするこだわりの無さだ。
鈍重生活で磨かれた身を守る為の洞察力と、相手を見て発言する威勢のいいはったり。
世間知らずから来る程よい雑さも同居させた身の振り方は一般の冒険者にも疎まれないだろう。
緻密に策謀を巡らせる政よりも、冒険者ギルドと密に連携した見敵必殺の対魔族尖兵部隊でも立ち上げた方が活躍出来そうだ。
素質は十分。あとはこの旅路でどれだけの戦闘能力を身に付ける事が出来るかに依るだろう。
しかし儀式を見ている限りスキルが発現したり、何か特殊な覚醒状態に入ったりする様子はない。
まさか本当に、このまま得る物もなく神殿までスタンプラリーさせられるのだろうか。
嫌な予感がして背もたれに肘を掛け、僅かに視線を背後に向けて儀式を真剣に見守るエニュオに囁き声で質問する。
「もしかしてこのままおっさんのありがたい説法を聞かされて終わりなのか?」
「神官様だ。失礼だぞ」
「肩書は結構だけどさ。プライム様には力を付けて貰わなきゃ困るんだよ」
呆れた風にしながらもエニュオは答えてくれる。
「幼少であれば適正なクラスへと変更するのが通例だな。しかしお嬢様は少し遅い巡礼だし、クラスも既に騎士だったはずだ」
貴族としては騎士であれば十分という訳だ。
しかしどういう事だろう。
貴族だからといって騎士以外のクラスに変更してはいけない規則は無いはずだ。
王ボレアスなどは顕著で騎士どころかただの魔術師だし、別段騎士のクラスが偉いという訳でもなくただの目安に過ぎない。
変更出来ない理由があるとか。
例えば名前が固定化するように――。
「もしかしてクラスも認知で固定されるのか?」
「修練を積むと、だな」
「なるほど……」
嫌な予想は的中するもので、クラスには修練度みたいなものがあり、経験を積むと固定されてしまうようだ。
不意のレベルアップに備えて俺のクラスは龍撃から極力弄らないようにしていたし、うちのパーティ最年長のグレイディアなどはセイバーカリスというよくわからないクラスで固定されていた。
編成もクラスチェンジも俺が行いパーティ内で完結していた為に教会とは疎遠だった。
だからこそエニュオの一般的な知識は役に立つ。
「しかしそれだと下層の連中は剣士だとか弱いクラスに固定されて這い上がれないんじゃないか」
「才能次第だが更に修練を積めば上位のクラスへと向かう事もある。というか普通はそうして力を付けて行くものだ。生まれながらに龍殺しの称号を持つ者などいないだろう」
全くその通りで、俺のクラス龍撃は恐らく最上位のものだ。
剣騎士や神殿騎士というのはその名の通り騎士という基本クラスからの派生なのだろうが、俺の場合は初期の村人から他クラスを経由せず龍撃に至った為、基本クラスも下位クラスも不明。
同じく村人から聖騎士にぶち上げたシュウも俺と同様に修練過程を経ていないが、騎士自体は上の世界のミクトラン王家に仕えた事から習得条件を満たしていた為に、そこからの派生で聖騎士に至ったものと思われる。
修練とはいうが、その実態は実績解除だ。
例えクラスが固定されても条件を満たせば何かしらの基準で上位クラスへ昇格出来るらしい。
逆に言えば一度固定されてしまうと別種のクラスや下位クラスへは向かえなくなるという事ではないだろうか。
だとすると、オルガが俺の奴隷になってより狩人から暗殺者に変更出来たのはどういう原理なのだろう。
オルガはハーフエルフだ。
ハーフはエルフに非ず――とまでは言わないだろうが、エルフの森では外縁部に弾かれ狩人として一生を過ごすものだという。
狩人とは何かしらの生物の命を頂く生業だから、冒険者と同程度に修練を積みやすいにも関わらず、俺の手に渡るまでクラスチェンジが可能な状態だった。
当然の様に左隣に腰掛けていたオルガに身を寄せて問い掛けてみる。
「オルガは森林地帯では何してたんだ」
「唐突だね」
「大切な仲間の事は何でも知りたいんだよ」
取って付けた言葉にうわぁとあからさまな顔で返されて、しかし回答は貰える。
「外縁部での狩猟と中央への納入だね」
「解体とかもしてたのか?」
「今思えば汚れ仕事だよね。人族の街ではお金さえ払えば誰でもお肉を食べられるんだから」
当たり前の意見が胸に痛い。
俺などは敵を抹殺する事は出来ても、家畜を屠殺する事も満足に出来ないだろうから。
ただの変態だと思っていただけに、ちょっと敬意の念を抱いてしまった。
「やっぱお前は良い女だよ」
「さっきから何さー、神の怒りにでも当てられておかしくなったの?」
「尊敬してんだよ。手に職があるのは良い事だぜ」
「そんなんじゃないよ。それしか知らなかっただけ。ハーフエルフは何も知らない。狩り以外、何も教えられなかっただけだから」
それもまたエルフの役割であり、在り方なのだろう。
「それでも何もないよりはマシだ。俺との契約が切れた後も安心だろう」
「……捨てるの?」
「まさか。お望み通り最後までたっぷりこき使ってやるよ。すべてが終わったら晴れて自由の身になるだけだ」
「プライム様じゃないけどさ、ボクは結構楽しんでるよ。この生活」
定住の地もない流浪の生活――初めは楽しいかもしれない。
しかしこれが一年、二年と続いて行けば嫌になるだろう。
俺が元の世界に戻った後でまで迷宮に入り浸る暮らしをする必要は無いのだから。
「クラスって奴はさ、対モンスター用の武器として創られたものなのかもな」
「クラスを……創る? 変な発想するよね、ご主人様」
肩を竦めて無言で返してやると、細い身体をぐーっと押し付け無言の抗議で返された。
この世界では当たり前に存在している概念なのだから不思議にも思わなかったのかもしれない。
俺だってご先祖様達が長年掛けて蓄積した算術という概念を断片的にしか理解せず、式の解をアホ面で電子機器に丸投げしていた訳で他人の事は言えないが。
俺達が小声で話している間にも巡礼の儀式は進み、それでもまだ終わらない。
手持ち無沙汰にクラスを弄ってみると見事に変更出来なくなっていた。
散々殺戮して来たのだから当然だが、問題は俺のクラス龍撃。
強力無比だが死線と悪運という呪いとも言うべき特殊効果が付与されている。
死線の効果は『HPが0になったら死亡』という戦闘不能を死亡に置き換えてしまう恐ろしいものだが、そのフラグは『HPが0になった瞬間』にしか立たない。
懸けではあったがHPが0になる寸でにクラスチェンジし強引に凌いだ事がある。
以前魔族ゾンヴィーフを征伐した際に突いた仕様の穴だ。
この世界のアイテムやスキルの説明文は非常に雑だ。
本来視られるものではないから、上位の存在が設定しているのならば手を抜いたのかもしれない。
しかし効果は説明文とは違いシステマチックにかっちりと設計されている。
だから怖い。
質量の大きい物に潰されたら圧殺される物理法則と同じで、死線の影響下においてはHPが0になったら死ぬHP遵守の法則からは逃れられない訳だ。
幸い龍撃というクラスはHPの上がり幅も大きいし、今は順調にレベルが上がりこれだけの面子が揃っているから物理的な戦闘に関してはかなりの戦力を手に入れたと言える。
天敵は魔法使いだ。
魔法防御に当たる精神値はそこまで高くないし、悪運の効果で幸運値に大きくマイナス補正が掛けられている。
残念ながら魔性などの状態異常にも当てられやすい。
今まで以上に気を引き締めていかなければならない。
クラスの固定化された俺達とは違い、プライムはまだ実戦経験はなくその情報も広くは公開されていない。
石板で能力値を見た一部の衛兵には知られているだろうが、その他大勢にはヘカトルの箱入り娘としてしか宣伝されておらず、この巡礼の旅の結果が喜ばしいものであれば後はクライムが適当に誤魔化してくれるはずだ。
幸い此処は教会だし、勝手にクラスが書き変わっても神のご加護という体で片を付けられる。
神殿への旅路に備えて此処がクラスチェンジに最適なタイミングと言える。
いざプライムのクラスを確認すると、その変更先は剣士や騎士など、見覚えのあるクラスが一通り揃っているのはさすがの血統という事だろうか。
その列挙されたクラスを視線でもってスクロールさせて、最後尾に記されたクラスに目が留まる。
修羅
得意 HP 筋力 敏捷 幸運
苦手 無し
特殊効果 視線(敵視を固定する)
習得条件 果てない闘志
クラス修羅。
能力値の得意分野は龍撃と同じ配分となっているが、上昇率は少ない。
ヴァリスタのクラス餓狼に近いものだ。
龍撃との一番の差異は、特殊効果に死線と悪運という致命的なマイナス要素が無い事だ。
死線の代わりに視線という敵視を固定する特殊効果を持つ。
恐らく単体を釘付けにしタイマンに持ち込むものだろう。
その習得条件たる『果てない闘志』という称号に掛かったのは、ただ好戦的だからという訳ではないだろう。
闘志だけであれば獲得者も多いはずだから、短期間に異常なまでに戦闘不能を繰り返したせいか。
それに鈍重というネガティブなスキルを持って生まれた事と、その出生を経てなお戦意を保っている事が条件に関与しているのかもしれない。
生存すらも困難な極限の状況下で覚醒するクラスなのだとすれば辻褄が合う。
複数の要因が重なって獲得した事は間違いなかった。
龍撃の俺に、餓狼のヴァリスタと来て、修羅のプライム。
俺のバグ染みた能力が連鎖している気がするが、異常者は惹かれ合うのかもしれない。
特異なクラスを獲得しているのは解ったが、俺達と違い貴族であるプライムが突然に謎のクラスに変更されるのはさすがに怪しまれる。
幸いにも神聖魔法持ちの神官様のご高説も中盤に差し掛かり、回復魔法か何かを掛けている最中だ。
その見せ付けるような光のエフェクトが途切れたタイミングで声を掛ける。
「神官様。儀式の最中で申し訳ありませんが、護衛の立場から提案させて頂いてもよろしいですか」
「お話しください」
「プライム様のクラスについてなのですが、これから神殿に向かう道程で争いに巻き込まれないとも限りません。何か強力なクラスに変更出来るか確認して頂けないでしょうか」
「プライム様は既に騎士という立派なクラスに就いておられます。ここから順当に成長していくのがよろしいかと」
確かに剣士などよりは騎士の方が基本スペックが高いのだが、だからといって下位のクラスから始めるうま味もないだろう。
あるいはこの男の神聖魔法では上位のクラスは選択出来ないのか。
スキルといっても適性によりけりだろうし、そういう事もあり得るだろう。
少し目論みが外れたが、このまま形式に凝り固まっている相手に話しても埒が明かない。
巡礼の主役は神でも神官でもなくプライムだ。
膝を着いたままの彼女に話を投げる。
「プライム様ご自身はいかがでしょう?」
「父クライムよりは戦闘に関しては冒険者ライに一任されています。聞く所に依れば魔族すらも征伐されたとか。我々貴族が巡礼に際し神官様に認可を得るように、冒険者であれ先達の意見は考慮すべきだと考えます」
打てば響くとはこの事で、プライムがこちらに合わせてくれた為「それならば」と神官も同調し神聖魔法を行使する。
嬉しくないおっさん発光現象を目にしばらく――およそ一分程度だろうか。
光がおっさんから失せてプライムが淡く光り始めたのを確認し、パーティメニューから割り込みクラスチェンジを行う。
「おや……」
「どうされました?」
「神聖魔法が……弾かれ……?」
当惑を隠せない神官を前にプライムはこちらへ目を向け苦笑いを作って見せた。
よく気付いたものだ。
神官は石板をプライムに持たせると、そのクラスが変更されている事を確認してありがたい言葉を続ける。
「クラスは無事……変更されました。修羅というものは私も初めてお目に掛かりますが、修道者として認められたのかもしれません」
それは神聖な修の道とは真逆の、闘争の二の字を冠する業の道だ。
あえて正すつもりはないが、この分だと上手く勘違いしてくれそうだ。
言葉を重ねて退路を断っておく。
「まさか未知のクラスに覚醒されるとは、プライム様は余程神に愛されているらしい。さすがは風の迷宮を司るヘカトルのご令嬢といった所でしょうか。巡礼の一歩目として此の教会に訪れたのもまた神の御采配なのかもしれませんね」
「これも信仰の賜物です」
やはり神官のおっさんも信徒の前では肯定せざるを得なかった様で、同調した。
塔の街の教会として修羅と化したプライムの初めての巡礼地という名目はうまいものだろうし、よもや冒険者風情が神聖な申請に介入したなどとは露ほども思うまい。
結局はどれもこれも数値だ。
習得フラグを立ててクラスチェンジさえ出来れば貧民だろうが箱入り娘だろうが一足跳びに強者に成れる。
これでプライムは手放しでもそれなりの戦闘能力を手に出来るだろう。
巡礼先での実績作りは達成した。
後は各地の教会を練り歩き、神殿に乗り込んで特殊性を見極めるだけだ。
そこで何も得られずとも能力の底上げされた娘を見ればクライムも納得するはずだ。
今回はクライムへのツケ払いだが、本来はパーティ編成ですら金を取られるのが教会という組織だ。
立派な聖職者が祈る事で行使される神聖なパーティ申請。
回復も解呪も消費されるのはMPくらいで、元手が掛からず丸っと収益になるボロい商売だ。
堅苦しい教義の語りも終わり教会の大扉から一歩出ると、プライムはふふんと鼻を鳴らしてわざとらしく上機嫌に振舞う。
「いやーさすがの私もモンスターの一体も倒さず強く成っちゃうとは思わなかったかなー」
ちらっと見る先はヴァリスタで、それを買って言葉で返す。
「そうだね。プライムちゃんは凄いよ」
「でしょう?」
「私は魔族を斬った程度だから」
「え?」
「魔族にトドメを刺した事があるだけだから」
ここに来て初めてヴァリスタの戦歴を知ったようで、プライムは「うっ」と声を漏らして静かになった。
瞳は潤み半泣きといった表情を作って振り返り、胸の前に手を組んで見上げて来る。
「私も魔族倒したい」
「だめです」
「一回だけでいいから」
「ねだられても困ります。実際に出くわせば怪我じゃ済みませんよ」
「否定ばかりしていたら子供は大きく育たないんだよー」
「プライム様は小さいままでも魅力的ですよ」
適当に返してやるとぶつけ所のない慟哭をぐぬぬと噛み殺して矛先はヴァリスタへと向かう。
青い瞳と紺藍の瞳が交わると何時もの流れで殴り掛かり、何時もの流れで沈められた。
冒険者より腹パンの洗礼を受ける、哀れ巡礼者。
いかなる信仰も物理攻撃の前では平等に捌かれるのだ。
終始沈黙していたグレイディアもそろそろ体力の限界だろう、伸びた少女を肩に担いで本日の宿へと向かった。




