第20話「奴隷の性」
奴隷には首輪を付けている。
これは奴隷商で貰った、効力の無いただの首輪だ。
奴隷である事を表し、同時に俺の所有物である事も表す。
奴隷商の路地から大通りへと差し掛かって、人通りが増え始めていた。
時刻は十四時、時間の感覚が曖昧なこの地下では昼時とも言えるか。
隣を歩かせていた奴隷の手を、俺は握った。
「迷子になったら事だからな」
「……」
反応の薄い奴隷だが、貴重な財産でもあるのだ。
外に出てまともに対面して気付いたのだが、背の高さは俺の腰くらいで、非常に小さい。
握った手は少しがさついて、不健康そうだ。
そのまま街を歩き、服を買いに行く。
そこまで大金は出せないから、古着屋だ。
「トランクスとか、あるわけないか」
俺が真っ先に探したのはパンツだった。
午後になると色々な店を巡っていたのだが、結局トランクスを見つける事は無かった。
奴隷はよくわかっていないようなので、パンツは布のブリーフのような物を適当に六点、それとシャツとズボンを四点購入した。
俺の物と、奴隷の物をそれぞれだ。
後は布を数枚と石鹸が売っていたので買った。
石鹸は銀貨十枚だった。
日本円にして約一万円だ、高い。
そうしてようやく宿に戻った頃には四時になっていた。
宿の店主に声を掛ける。
「奴隷を買ったのですが、宿泊費って二人分になるんですか?」
「一緒の部屋なら一人分でいいぞ。飯は別途だが」
なるほど、基本的に奴隷には宿泊代はかからないようだ。
もちろん一緒の部屋にした。
まだまだ資金は潤沢ではないし、何より奴隷はまだ小さいからひとつのベッドでも問題なく寝れるだろう。
それから二階の部屋へ戻り、荷物を全部謎空間にぶち込んだ。
驚いてようやく少しだけ表情を見せた奴隷は、暗い瞳に少しだけ光が灯って見えた。
俺はつい口元を緩めつつ、屈み込んでお願いする。
「これは秘伝の技だ。他人に知られて泥棒にでも間違われたら事だから、これから仲間として活動する俺達だけの秘密だぞ」
「わかった……」
目を逸らされたが、今はこれくらいでいいだろう。
何せ初めてのまともなコミュニケーションだ。
「んじゃあシャワーを浴びに行くぞ」
「わかった……」
そのまま手を繋いで部屋を出て、一階へ降りた。
シャワールームは相変わらずの木板で仕切られただけの簡素なものだが、俺達には問題ない。
個室に入るとすぐに自分の服を脱ぎ、動かない奴隷の貫頭衣を上からすっぽりと脱ぎ去り、謎空間に入れると早速冷水を出す。
奴隷が突然の水にびくんとすると、耳が立ち上がった。
「おお! 獣耳だ! 触っていいか」
「……」
髪の中からもさりと耳が生えたようで驚いたが、そうだった、獣人だった。
今まで隠していたのだろうか、問答無用で触れてみると、ピクピク動いた。
部類としては猫耳だろうか、少し和みつつ、俺は石鹸を布に挟んで泡立て始める。
といってもそこまで泡立つ事も無く、洗水エキスが抽出出来たら奴隷の髪に揉み込んでいく。
ううむ、汚い。
灰色の水が辺りに落ちて行くので、指の腹を使ってしばらく揉み揉みしていた。
そうしてようやく髪が綺麗になると、くすみは取れて、なかなかどうしてその紺藍は良い色合いであった。
耳の内側の浅い部分も、洗水エキスは付けず指圧で揉み洗いしておいた、獣の耳って気持ち良い。
顔はほんのり泡立った石鹸で軽く撫で洗う。
最後にシャワーで流し切る。
頭部が完了したところでわしゃわしゃと頭を撫でてやる。
「綺麗になったじゃないか」
「うん……」
口を尖らせて目を逸らしているのだが、上機嫌なのか不機嫌なのかわからない。
動かないので全身俺がやってしまおう、次は上半身だ。
肉が無いので骨が浮いて見えていて、結構辛い。
布に石鹸をつけて、優しく全身を撫で洗う。
首から鎖骨、腕へと行って、脇の窪みを擦るとウネウネと、その白い顔を赤くして無言の抵抗を取る。
面白いなこれ。
そこから胸へ手を伸ばすとこれまた抵抗されたが、俺の方が筋力が上なのだ、残念だったな。
「もうちょっとだ、我慢しろ」
「んっ……ん……」
思えば俺の方が強いって、初めてかもしれない。
窪みやら突起やらも丁寧に洗って、これでようやく上半身が終わった。
そうしていよいよ下半身、いざ俺が屈み込むと、そこには無かった。
無かった。
あるはずのモノが、無かった。
そこはジャングルと化した肉の棒の塔ではない。
そこは毛も生えていない、肉の筋の迷宮だった。




